表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/18

第12話 最初の村

 3日、野宿をして、ようやく最初の村に着いたフルミ一行である。


 決して美味いとも言えない麦粥。

 春とはいえまだ寒い時期に、川の水で行水。

 馬車内は立ち上がることもできず、ひたすら尻や足の痛みと戦う日々。


 そんな、フルミ曰く「戦時中以下」の生活だったが、村に着いてしまえばこちらのものであった。


「うう~~~~~~! ん~~~~~~~! 」

 

 フルミは、馬車から降りて、思いっきり深呼吸しながら体を伸ばした。

 そして、辺りを見回す。


 鶏が特産なのか、大きな鶏小屋が目に入った。

 戸数20程度の小さな村である。

 畑もあり、有刺鉄線のようなもので作物を守っているが、その有刺鉄線が一部、破られている。


「宿! 宿はあるのかい? 」

「こんな辺鄙な村に、宿なんてあるわけねえだろ。民宿だ」

「民宿! 懐かしいねえ。あたしは熱海におじいさんと旅行に行った時に、民宿に泊まったんだよ」

「婆様、その話は長くなるか? 泊めてくれそうな家に話を付けてくる。リカルドは、馬車を頼む。女共は、荷物の番をしていてくれ。婆様は……うん……」


 フルミに指示を出そうとした勇者は、一旦一人一人指さしていた人差し指を、フルミに向けたは良いが、すぐにふにゃりと人差し指をしまう。


「……日光浴でも何でもしててくれ。ただし、『風の神』だとバレるなよ? めんどくせえからな」

「あい、わかった。ちゃんとこのフードを被っていくよお」


 フルミは長いローブを着ていたのだが、それにフードを付け足して、顔をすっぽり覆えるようにしていた。

 馬車の上での暇な時間、フルミは「暇なら裁縫でもしててくれ、婆様」と勇者の一言で、皆の服の穴が空いたところを繕ったり、ちくちくと縫い物をしていたのだった。

 もちろん、馬車は揺れるが、指先に針が刺さるより、フルミは退屈を恐れていた。



――

 しばらくして、オーロックが「宿が取れた」と報告しにやってきた。


「じいさんとばあさんだけの、古い家だ。宿代は、5デニールだそうだ」

「5デニール? ということは、1デニリオンしか持っていないので、お釣りが5デニール必要になりますが」

「畑を荒らすイノシシ共を狩ったら、タダでいいそうだ」

「なるほど、それは冒険者に頼むしかないことでしょうな」


 オーロックとリカルドが、そんな話をする。

 フルミは、はて?と首をかしげる。


「5デニール? 1デニリオン? 」

「硬貨の種類なのです。デニールが、一番安い銅貨。デニリオンが、一般的に使われている銀貨なのです」

『聞こえます? フルミ様。1デニールが、フルミ様の世界では100円。1デニリオンが1000円と考えてください』

「ああ、ミドリちゃん! 懐かしいねえ! 元気だったかい!? 」

『……離れてからまだ4日なんですけど』


 ふわふわと宙に浮く、情報端末の『明智十兵衛光秀』が、神殿にいるミドゥリの声を届ける。

 フルミは、ぽんと手を叩いた。


「外国為替相場の話かい? む、難しいねえ! 」

『……多分違うけど微妙に合ってますね……』


「おい、行くぞ婆様たち! 」


 オーロックに声をかけられ、フルミと女性一行は、勇者の後をぞろぞろとついていったのだった。



――

「イノシシは、俺がやる。そろそろ血の味に飢えてきた頃だ」


 オーロックが、あてがわれた、ふすまで仕切りをしてある十畳ほどの大部屋で、大剣を磨きながら言った。

 フルミは、心配そうにオーロックを見る。


「一人で大丈夫かい? オーロック。ばあちゃんがついていこうか? 」

「田舎のばあちゃんかよ!! ……いや、本物の婆様だったな。婆様は、俺を何だと思ってるんだ? 」

「ヤンキーとか舎弟のヤクザっぽい兄ちゃんだと思ってるよ」

「そういうことじゃねえよ。俺は、勇者・オーロックだぞ。イノシシくらいに手こずってる男を、勇者だと思うか? 」

「それもそうだねえ」


 そして、フルミは、既に敷いてある客用……とはいえ、押し入れに長くしまってあったせんべい布団に横になる。

 そして、そこでストレッチを始めた。


「体が! なまっちゃって! しょうがないからねえ! 」

「まあ、そのうち、嫌でも体を動かす時が来るからな。婆様の能力には期待してるぜ」


 大剣を、いくつかのパーツに分解して掃除していたオーロックは、綺麗に磨いた剣を、再び組み立て始める。

 このオーロック、意外と細かい性格をしているらしい。


「夜になったら行ってくる。イノシシ共は夜行性だ。畑を荒らすのなら日が落ちてからだろう」

「オーロック、私も同行しようか? 」


 筋肉のついた体を、フルミと同じように自重ストレッチをしていたリカルドが、起き上がる。

 オーロックは、若干嫌そうな顔をした。


「なんでお前が来る必要がある? 」

「そんな顔なさらずとも。ヒーラー役は必要では? 」

「要らない。お前まで、婆様に感化されたか? イノシシを倒せない勇者が、どうやって魔王に挑むんだ? 」

「ふむ。それはそうですな」


 リカルドが、顎に手を当てて考え直す。

 オーロックは、大剣を背負った。


「……行ってくる」

「え? まだ日暮れには時間が……」

「あのな。じいさんとばあさんが外で畑仕事してんだ。イノシシが出たらどうするんだ、泊めて貰える宿がなくなるんだぜ? 」


「……案外、この子は優しい子なのかもしれないねえ」

 フルミはそう、ぽつりと言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ