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コロサレ屋さん  作者: Hitoka
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ハッピーライフは突然に

 ワタとも呼ばれる人の臓腑はとても柔らかかった。例えるなら……そう、マグロの大トロの塊にナイフを刺したらちょうど同じような感触だろうか? やったこともないはずなのに、我ながらどこかしっくりとくる表現だった。ハンマーで叩けば「ドン」と鈍くて重い抵抗に阻まれるのだろうが、鋭利な刃物であればスッと飲み込まれるように刃先が通る。ナイフを持った手がじわっと熱を帯びたかと思えば、すぐにビャッビャと咳でもするかのようなリズムで血が吹き出す。最初は勢いもよく、リズムもあり生命を感じたものだが、すぐにただただ漏れ出る液体へと変ぼうする。そうなると、自分自身も冷静さを取り戻し、体を濡らす液体がとろみを帯びた生臭いものだと認識し始める。


 刃を通した直後……本当にその瞬間においては、ブラシも行き届かぬ身体の端々にこびりついていた積年のストレスが、高圧洗浄機で一気に洗い流されたかのような未知の快感を得たが、すぐにそれは後戻りできない罪という本当の名前があることを知る。まず手が震え、すぐに足が震えた。胃から逆流する何かに気圧されて、立っていられなくなり、口から吐き出すと同時に膝が折れ、尻餅をついた。第二波の逆流は間髪入れずに襲いかかり、バシャっと液体だけが出た。そして第三波もすぐにくるが、早くも餌付くだけになっていた。


 目の前にいる少女は、肌がとても白く、髪はとても艶やかで、目は切れ長で愛嬌があるわけではないがとても美しく、そしてとても醜い。これまで散々クールに、そして人を小馬鹿にしたように振舞っていたのが嘘みたいに、嗚咽をもらし、クソでも食らったかのように顔を歪め、何に向けるでもない力を全身にみなぎらせ激しく痙攣している。まるで餓鬼。僕はもう人間的な暖かい感情なんてすっかり麻痺して、脳が今ある現実にキャパオーバーだと悲鳴をあげ、ギンギンと頭が痛む。彼女の腹を足の裏を押し出すようにして蹴飛ばすと、彼女はその反動で吹き飛ぶ前にすぐに踵を地面に引っ掛け、無抵抗に後頭部から倒れて大きく両足を上げた。


 ……非人道的。人を殺すために作られたような出刃包丁を突き刺した上に足蹴にするなんて、非人道的なことはわかりきってるんだ。身体の震えはガクガクと音を出すほどになり、目から熱い涙が流れ出すのと同時に、仰向けに倒れた彼女は首だけをもたげ、この世の暗闇を捉えているかのような眼差しでジッとこちらを見ている事に気づいた。あいつとの出会いさえなければ、僕はこんなにも恐ろしい人の本能なんて覗き見る事は未来永劫なかったはずなのに。


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