一話
すぐにうんこじゃなくて人型になりそう。限界までうんこのまま粘りたい。
人生ははっきり言ってクソだ。
退屈な小学校・中学校・高等学校で大人にとって都合のいい子供をやらされる、そして苛烈な受験戦争に徴兵されると、そこで将来のために青春を焼き尽くされる。
大学に入ってみれば、自主性とかいうなんだか素敵な響きのするウンチを投げつけられながら、社会人側の方へと近付くように追いやられていく。
社会に出ると、あの時教わった数学や古文はどこへやら。今度は無個性なダークスーツを身に纏い、蟻のような小さい群衆に紛れながら、うつむき加減に一心不乱に歩みをはじめる。
かつては大きな夢を抱き、希望を胸一杯に詰め込んでいたのにも関わらず。
今では出社時刻に遅刻しないように、無難に生きれるように。かつて彼らが夢に描いた自分たちはどこへ行ってしまったのだろうか。
そんな鬱屈とした下層とは打って変わって。発達した低気圧が俺に強烈な横風を差し向ける、高層ビルの頂点。そこから見下ろす東京の様相。
そして俺が見る最期の景色。
朝焼けに照らされて摩天楼は後光を差していて美しい、まるで俺が迎えることのできないという一日を祝福するようでもあった。
俺が死ぬこの土地が、俺が死ぬ日に、こんなにも美しく彩られている。下層の連中のようにビルの足元で行進していた時にはこの東京の景色なんか一度も気に留めたことがなかったもんな。
なんとも皮肉な話ではある。
勇気を出して一歩踏み出すと、息もできないほどの強い風圧の中で、俺の意識はテレビの電源をコンセントを引き抜くようにブツリと途切れた。
**
そして目を覚ますと。俺はうんこになっていた。
目も耳も鼻もない。
ただ自分がうんこであるということだけがわかる。
(ここは……どこなんだ?)
グチャ。
俺の肉体、すなわちうんこが音を立てながら軋む。
ここで俺は自分の体が異様に冷えていることと、触覚は伴っていることに気付く。
(俺は)
(俺はついさっき自分の勤めていた会社の高層ビルから飛び降りて死んだ、理由は俺をさんざん罵倒した上司に一矢報いるためだ)
(死ねなかったのか?いや、死ねないはずがない。なぜなら会社は40階以上もある高層ビル……)
見えなければ、聞くこともないし、自分がどれだけ臭いうんこなのかもわからない。
思考だけは異常なほど冷静だが、情報不足故に思考は堂々巡りを繰り返す。
俺は死ねたのか?
なぜうんこなのか?
ここはどこなのか?
疑問符が次々と浮かび上がり、答えが出ないまま、また次の疑問符が浮かび上がる
(今にも発狂しそうだ……)
うんこに生まれ変わるくらいなら、死ななければよかった。
そんな思いが胸中を、いや、うんこ中をよぎった。
そんな発狂と正常の狭間を行き来していると、ふと自分の体が温まっていく感じがした。
さっきまで俺はどこか地面に無造作にうんこされていた状態で、冷えていたのに。
体内の温度というのは通常40℃くらいで、そこから出てくる人間のうんこもだいたいその位の温度になる。
外気に晒されて冷えるという事はあっても、それが再び温まるということはないはず。
(なんだか、すごく懐かしい)
日光に暖められているわけではない、俺は人肌の温度で温められている。
何かが俺の上に乗っかってグチャリと体が軋んだのは、どういうわけか知る由もないが、たぶん生物が俺の上に覆いかぶさっているのだろう。
(人肌が感じられるということは、俺は現世で死にきれずに未だにこの世界に縛られているということか)
(そして、これが俺への報いであり、背負うべきカルマというわけか)
たぶん運命だとか、そういった大層なものが俺に死ぬことを後悔させるように俺をうんこという惨めな存在に変えたのだ。
それならば、俺はうんこであることを受け入れよう。
うんこになったくらいで発狂するくらいなら、死んだことを後悔するくらいなら、あの時小指の先にも満たない程の勇気を振り絞って会社の屋上から飛び降り自殺なんてしなかった。
俺を貶したクソ上司、クソ社会、クソ大人。そして俺が無為に過ごしたクソ人生。
そんなもの達の顔にうんこを投げつけるために死んだんだ。それを後悔なんて、今更しない。
俺は自殺という形で、クソみたいな人生に立ち向かい……確かに抗えたんだ。
(とりあえず、俺に人肌の温度を思い出させてくれたこの生き物にありがとうを伝えたい)
(とりあえず転生したっぽいからステータスでも見るか、ステータスオープン)
名称 糞
体力 1
攻撃 1
防御 1
魔法 0
スキル なし




