表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

苦手な『うに』を克服する話

作者: 樋口諭吉

まずいって決めつけないでさ、ちょっと食べてみようよ?

意外と好物になるかもよ?

 人間には、最初に物事、或いは人物に対し悪印象を抱いた場合、その印象が、でかいバイアスとして記憶に残り続け、それを後年に至るまで、徹底的に忌避するようになるっていう、『ファーストインプレッション効果』(私命名)ってものが、あるように思う。


 例えば、こんな感じだ。


 黒い海苔がジメッと縮み、しみったれたサイズの草臥れた(くたびれた)茶色をした半固形物が飯の上にみすぼらしくのっている。


 まぁ、あまり質の良くないたぐいのうにの軍艦巻きなのだけれど、私は質にかかわらず、最初に食べたときの悪印象のせいで、こいつが長らく食べられなかった。


 初めて『うに』を食べた日。

 まだ、小学校の低学年だった頃の話だ。


 気色の悪い見た目の()()を口に運ぶと、昼間のビーチのサンダルに絡まった海藻のような、お世辞にも心地いいとは言えない潮の匂いに、ザラつきのある触感。苦味・エグ味が、熱を持った煙のように、もわっと口の中に広がった。


 私は即座にコップの水を流し込み、それだけでは足らず、大量のお茶を飲んで腹が膨れ、最低な気分になった。


 これが『うに』の私のファーストインプレッションだ。


 次に見た『うに』が例え、美味しそうなものだったとしても、手が出ない。


 海苔はちゃんと海苔の香りがし、パリっと張っており、うにもふっくらとして明度も透明感も高くツヤツヤと輝いている。


「もしかしたら、最初に私が食べた『うに』は特別悪いもので、今度のものはおいしいのかも知れない」


 頭の片隅にそんな想像は、浮かぶのだけれど、『最初に食べたときのまずさ』が、判断をミスった場合の『リスク』として脳裏に定着しているがゆえに手が出せない。


 人は『未知』に対し、必要以上に『過大評価』する傾向を持っている。『未知』だったときに食べた、『うに』のまずさが必要以上に大きなバイアスとなって『リスク』化しているのだ。


 合理的に考えるならば、眼の前の『うに』は最初に食べた『うに』と比べ、鮮度が高く、見た目に明らかに美味しそうではある。


 つまり、冷静に考えれば、「食べる」という今回の判断が、判断ミスだったとして、私がイメージしている『うに』の味ほどは、目の前の『うに』はまずくないはずである。


 しかし、手が出ない。脳裏に浮かぶのは、あの、まずかったときの『うに』の味ばかりである。


 こんな感じの苦手を、克服するには、どうすればいいか?


 結論を言おう。『ファーストインプレッション』を『期待感』で上書きするだけの『信頼』をしてやればいい。


 何を信頼するか? それは、『自分の判断』をだ。


 どうすれば、自分の判断を『信頼』できるか? これも答えがあって、「いいところを見ることに注力」すればいい。具体的にやってみようか。


「今度のうには、最初のものとは違う。鮮度も高いし、うまい可能性は高い。みろ、海苔はちゃんと海苔の香りがする。シワシワなんかじゃないぞ。パリッとしてる。うにも大きいし、ふっくらしている。色も赤みがかって明るくつやつやだ。粒だって立っている。『うに』をうまいという人は多い。きっといいものはうまいんだ。今度の『うに』は、うまいに決まってるんだぜ! こいつはうまいぜ! ああうまいさ! 俺の判断を信じろぉおお!!」


 こんな感じ。ちなみに私は長らく『かにみそ』も食べられなかったけれど、同じ方法によって克服した。


 多分、恐怖症の克服法なんかも同じなんじゃないのかな?


 高所恐怖症だとこんな感じ。


「あそこから見える景色はきっと格別なんだぜ。最初に見た、怖いだけの梯子の下の景色とは違うぜ。きっと悩みなんてちっぽけに見える。そうさ。高いところに登ると、悩みが小さく見えるって人は多いんだぜ! 落ちる確率? 野暮なことを聞くなよ? 家に帰るまでの間に交通事故にあう確率よりは低いよ。おれは最高の景色を見るぜ! うぉぉぉ、やっぱ、怖ぇえええええ!」


 まぁ、恐怖症は、根深い分、繰り返しやる必要があるんだろうけどさ。


 ドSな、系統的脱感作よりも効果は高い気がする。


 さあ、みんな! リスクを恐れて『苦手』に手を出さないんじゃなく、自分の判断を『信頼』してリスクを取りに行こうぜ。


 きっと未知の美味しいものが待ってるよ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウニは私もダメです。 ウニもサザエもアワビも。 取るのは平気ですが食べられません。 サザエもアワビもナマコも美味しいですよね! あー腹減った。
[一言]  自分で克服しようとする場合はともかく、他人から勧められて克服せざるをえない場合が、割と地獄だったり。 「ちょっ、食わず嫌いってわけじゃないんだってば! 苦手なのにも理由があるんだってば! …
[良い点] うにはなまこの仲間(棘皮動物)。 つまり我が眷族。 棘皮動物を愛するモノに幸あれー。 [一言] まあ、実際のとこファーストインプレッションでダメだと長々といやだったりしますよね。 わた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ