聖女に逢えず
お前トリモチみたいな顔してんな、これは13歳の春に幼馴染から贈られた言葉だ。
"私はこれを忘れたりはしない。この言葉に何度も救われたからだ。この言葉がなければ、吹けば飛ぶような貧乏騎士爵の三男のこの私が、ルームス聖王国の聖騎士に叙任されることはなかっただろう。故に、この言葉に誓おう。養殖物の天然を滅すると。これから私が始める物語は聖戦だ。地上を遍く癒しの光で照らす、希代の聖女の化けの皮を剥がし、顔面にトリモチを張り付けるための聖戦だ。"
私が、何時ものように聖書に書き加えた一節を読み込んでいると、大聖堂から昼を告げる鐘の音が聞こえてきた。切の良い所で、打ち合わせの時間になったようだ。壁に掛けていた白いコートを羽織ると、ようやく馴染んだ執務室を後にする。
執務室から出て、側に控えている従士に尋ねる。「ワーグマンはどこにいる?」
「ワーグマン様は只今、大聖堂の詰所におられます。」
「そうか、では明日の警護任務について、話があると伝えておいてくれ。私は、第5席の所へ明日の打ち合わせに向かう。」
言付けを頼んで、第5席"フリント-ビルケンシュタイン子爵"の元へと向かった。
明日、十番隊は聖女の巡視警護任務にあたる。