第三話 荒々しい出会い
オルリア学園の入学式数日前。
学園の図書室でレオは魔術の術式に関する専門書と魔法史の参考書を読みふけっていた。
レオは朝から来て山積みの本を読んでいたが、どうやら途中で眠ってしまっていたようだ。
「んんん~」
うつろ気な目をごしごしと擦り視界をはっきりさせ図書室内にある少し大きめの掛け時計で時間を確認する。
「ええっと、今は九時か。随分眠っていたようだな、そろそろ帰るか」
出していた本を所定の場所へと戻す。それから机の上に広げられたノートやペンケースを鞄の中にしまう。
それから、レオは図書室を出て寮へと帰る。
寮はこの学園の内部にあるためそこまで距離はないが、それでもこの学園自体がかなりの敷地面積を有しているのでそれなりには歩かないといけない。
そのため、レオはその移動時間をすべて読書に費やしていた。図書館で見ていたような本ではなく今は小説を読んでいる。
本を読みながら歩くのは危ないと思うかもしれないがそんな心配はいらない。なぜかっていうと、優にはずば抜けた魔力感知能力があるため障害物が目の前にあろうともぶつかることなく通り抜けることが出来る。
今日もいつもと同じように小説を読みながら寮へと帰っていた。
小説を読みながらレオはある方角から少し強めな魔力と今にも消えそうな魔力の反応を感知する。
「この魔力は!」
微弱な魔力の反応はおそらく学園の生徒であろうと予測できる。しかし、少し強めの方はどう考えてもカメリエのものだった。
(学園には強力な結界が張られていてカメリエは一切侵入不可能なはずなのだけど)
とりあえず、二つの魔力がある方角へと向かう。
(ここら辺だな)
ここでレオは衝撃な場面に出くわした。
下着姿で赤色ショートヘアの美少女が両手に銃型の固有武装を展開しカメリエと戦っているという一生に一度見るか見ないかというくらいの場面に。
(・・・・・・え?)
俺はその場面を見た瞬間、膠着状態なってしまった。頭の理解が追いつかなかったのだ。カメリエがいるのも疑問なのだが、それよりも疑問に思ったのはなぜあの子は下着姿で戦っているのかということだ。
だが、しかし、今はそんなことを考えている暇はなさそうだ。
少女が疲労から一瞬の隙を見せた瞬間カメリエが少女を弾き飛ばしたのだ。そのため俺は脚力強化の魔術を発動し少女が吹っ飛ばされる地点に先回りし、キャチするという何ともキザっぽい方法で少女のダメージを抑えることにする。
吹っ飛ばされさ少女の体を両手で支え俺も吹っ飛ばされる。キャチするつもりだったのだが敵のレベルを読み間違えていたようだ。
――――――(体がじんじんと痛む。あれ俺どこまで飛ばされたんだっけ)
体の特に背中の部分が一番痛い。そうか、近くにあった建物の壁一枚を破壊することでどうやらそれほど遠くへは飛ばされてはいなかった。
危なかった。一瞬壁にぶつかった時の衝撃で気を失うところだった。というか、なんか柔らかい感触の物体を抱えているような気がするのだがこれは一体?
そうだった、そうだった。俺は下着姿の美少女を支えるような形で飛ばされたんだった。
少女は一瞬気を失っていたようだが、気を取り戻し、現状を理解すると、すぐさま俺から距離をとる。
俺には下着姿の少女と真正面で話が出来るほどの度胸もなく、後ろを振り返ってから話しかけることにする。
「ええっと、怪我はない?」
「うん」
「それはよかった」
「あ、ありがとう・・・、その、助けてくれて・・・」
赤毛の少女は消え入りそうな小声でそうつぶやいた。
「いや、まだだよ。まだ敵は倒しきれていない」
そうだ、まだ蛇のカメリエを倒しきれていない、お礼を言われるのはまだ早い。
「あのカメリエは並の魔術師にとったらかなり強い。がから、教師を呼んできた方がいいんじゃないかと思うけど、どうかな?」
今度は、はっきりとした口調だ。どうやら、人見知りとかそうゆうのではないようだ。
「いや、それじゃ間に合わない。今はあの湖から離れそうな素振りはないけれどいつ周囲の建物に危害を加えるかわからないから、すぐにでも倒さなければいけない」
「でも、君ぼろぼろじゃない、無茶だよ」
赤髪の少女は俺のぼろぼろの制服と体をみて心配してくれているようだ。
(なんてやさしい子なんだ。普通、ごく一般的だとどんな状況下であったとしても女の子の柔肌を見てしまった男子はそれだけで言及し続けられるのがお決まりのはずなんだけどな)
まあ、そうなって欲しいわけではないので、こちらとして大いに助かるから今はよしとするか。
「いや、大丈夫。俺は今日あまり魔力を使うような特訓はしていないから、まだ魔力は残っているんだよね」
「魔力が残っている、いないは問題じゃないよ、もう」
まあ確かに、学生レベルではあの敵を倒そうとしたら単独で倒すのは厳しいだろう。あくまで学生レベルの場合だけれどな。
「それも心配は無用だよ。ええっと、名前聞いてもいいかな?」
「私はアヤカ、今年から高等部の一年だよ。君は?」
「俺も同じく今年から一年のレオ」
なんだ、同じ学年だったのか、胸のふくらみ具合からして中等部の生徒かと思っていたが、これを言うと怒られそうなので言わないで置くことにする。
(しかし、アヤカって名前どこかで聞いた事があるようなないような・・・、まあいいか)
「じゃあ、アヤカはここで待っていてよ、あいつ倒してくるから」
「本当に一人で行くの?」
「うん」
「死なないでね、私を助けてくれたんだから後で、お礼とか、したいし・・・」
また最初と同じように消え入りそうな小声だ。
「わかった。死なないように頑張るよ」
確かに、学生を卒業し国家魔術師の資格を持った大人でも、カメリエとの戦闘で命を落とすということはよくある。
(だが如何せん俺にはなりたいものがあるから、こんなところでは死ねないんだよな)
俺は着ていた。ジャケットをアヤカの背中に乗せるように着せるとカメリエのいる湖へと戻る。
「よっと」
あまり長い距離飛ばされていなくてよかった。俺は脚力強化の魔法でほぼ一瞬の速さでもどってこられた。
現状は敵のカメリエは工藤の攻撃で二本の身体の視界は完全に潰せているようだ。なかなかやるんだな、あいつ。
「さて、仕上げと行きますか。と言ってもどうしたものか、俺低級階梯の魔法使えないし、まあいいか緊急事態だし」
そう、俺は低級階梯の魔法、厳密にいうと第一から第五階梯までの魔法が使えない。(武具創成魔法だけは例外で低位階級の魔法も使える)低位階梯の魔法は使えてもあまり戦力にならないと言って術式の暗記なんてまったくといっていいほどしていない。(武具創成魔法だけは、使えそうだったから暗記していた)だから今日も図書室にこもって勉強していたというわけだ。
(まあ、さっさと終わらせて、寝よう)
俺は右手を天空に伸ばし魔力を集中させる。そして、術式発動の詠唱を唱え始める。
「混沌より来たれし、漆黒の竜。その力は大地を破壊し生ける者たちを絶望の淵へといざなう。我、其の力を治めし者なり。永遠なる闇の中に希望の光があらんことを」
「――――――漆黒竜の逆鱗――――――」
瞬間周囲が暗くなりカメリエの頭上に巨大な魔法陣が展開する。その陣から無数の黒き雷撃がカメリエに降り注ぐ。
この魔法に逃げ場はない。敵の頭上に魔法陣が展開するため回避行動は無意味となるからだ。
この雷撃は防御魔法で防ぎきるか魔法陣が展開され雷撃が落ちてくる前に瞬間移動をするくらいしか方法はなく、どうやら敵はそのどちらの手段も持ち合わせていなかったようだ。黒き雷撃を全身に浴びたカメリエは灰となり周囲に霧散する。残ったのは魔力核のみ。
「ふう。終わった、終わった。これで帰ってぐっすり眠れそうだ」
俺は残った魔力核を拾いポケットにしまうと、何食わぬ顔で寮へと帰り始める。
あれっ?何か忘れているような気がする。
「まあ、いっか」
そう言い。何を忘れているのか思い出そうともしない。
人間の睡眠欲というのはどうやら、大事な事を一つ忘れてしまうくらい強力なものであると、後々思うようになるレオだった。