トラップだらけの珍行軍
<魔族視点>
初戦は人間の住む小さな街。あっという間に捻りつぶし、領土を拡大してやる。
魔族の最高指揮官、アフィスの中に、先日の忌々しい事件が思い出される。
「貴様が街の女に手を出していることは知っている。別に咎める気はない。魔族とはそういうものだからだ。しかしながら我、魔王が一途になっている女に手を出すとは何事か!?死にたいのか貴様!?」
魔王によって生み出された炎は、圧倒的な一つの芸術だった。
「今は注意にとどめてやる。しかし今度の戦いで負けたら...分かってるよな?」
そういいつつ、いつの間にか剣を突き付けて来る魔王。
格が...違いすぎる。
「まだだ、まだ死ぬには早すぎる。絶対に魔王を倒して次の魔王になってやる。だからこそ、この程度の街で後れを取るわけにはいかんのだ!」
とその時。伝令が奇妙な知らせを運んできた。
「街道を紫色のスライムが支配している...だと?」
それが計画の崩壊する合図だった。
最も、アフィスは侮っていた。「どうせ大したことはないだろう、と。」
<雨宮視点>
「たく、戦いが始まっちまったな。」
森の茂みに隠れながら、独り言をつぶやく。
いつもはその声に答えてくれる相棒が、ここにはいない。今回は別任務だ。
「異世界には桶狭間の戦いみたいなのあるのかな?...いや、ないか。
教えてやるぜ、一本道で大軍を行動させるってことがどれほど愚かなのか。」
今回の作戦は、地の利を最大限まで生かした戦法だ。敵が直行してくる一本道。それをどれほど足止めできるかにかかっている。
「それにしても敵軍はなかなかやるな。行軍速度がほぼ一定だぞ?」
雨宮の指摘通り、ゴブリンや下位天馬等の軽装備で斥候役のモンスターがわざと遅れており、巨人族や魔有狼等の大型のモンスターが移動を速めている。
平常時なら見事な連携であると言えた。そう、普通の相手ならば...
「残念ながら、カモでしかないがな。」
そういった時の雨宮の顔は、周囲の冒険者が思わずドン引きするほど黒い笑顔だったという。
「そろそろ初めの罠にたどり着いてもおかしくない頃だな。」
というが早いか、遠くのほうでドカン!という音がする。見ると、紫色のきのこ雲が立ち上っている。
「「「なんだ、ありゃぁ!?」」」
期せずして冒険者の声が重なるのに対して、雨宮は平然と答えた。
「スライムだよ。」
「どういうことか訳が分からないんだが...」
「なーに、簡単なことさ。スライムに大量の毒草を食わせて、毒性を持たせる。そしてそれを街道に敷き詰めて、足止め用モンスター兼踏まれたときは毒を出して自爆する、毒地雷として設置しただけだぜ。」
「鬼畜すぎるだろ...」
聞いたのだが、サモナーはふつうもっとモンスターを大事に扱うらしい。スライムでも地雷になんかさせないそうだ。
...相当鬼畜だな、俺。
意識を戦場に戻せば、かなり敵軍は手間取っていた。
何せのスライムたち、いるだけで毒を出し続けるのだ。そんなやつが街道を塞ぐこと、計411体。その光景だけでげっそりだ。
おまけに踏みつぶせば地雷になる。面倒くさいったらありゃしないだろう。
ついでに、含まれている毒はこの前の毒草のものなので即効性で効き目も強め、魔法じゃないから専用のアイテムじゃないと毒に蝕まれ続けることになる。
[姫、そっちの様子はどうだ?]
[うん、なんとか間に合った。]
今使っているのは、光属性魔法の応用、コールだ。遠距離での会話は聞かれやすいが、この魔法は聞かれにくいという点でも人気らしい。
こっちの仕掛け一つ目は放置しておいても十分に効果が期待できる。
しかし仕掛け二つ目は姫の戦闘能力に大きく頼った仕掛けだ。間に合うかどうか不安だったが、なんとか間に合ったらしい。
「さて、スライムトラップがそろそろ突破されるぞ。皆のもの用意を...」
「その必要はない。」
武具屋のおっさんが何か言ってるが、無視する方向でいこうと思う。
下手に集中していると無駄に神経をすり減らしてしまうので、今はまだ集中すべき時ではない。
「さあ、姫、派手にやっちまえ!」
チュドドドドドドドォォォォォン!
そんな轟音と共に
「「「「崖が...崩れてる?」」」」
魔法によってえぐられた台地が、土石流のようになって魔物の群れを次々と食らい尽くしていく。
「ミッションは果たしたよ、マスター。」
「お疲れ様。しかし皆にばれてしまったなあ。」
「「「「当たり前だ!?」」」」
こうして、街から見ると魔物が暴れて崖をぶっ壊しているんじゃないかという恐怖の妄想から、天変地異の崖という二つ名がついた。