奇妙な指示と不明の作戦
「時間がない。とっとといくぞ。」
「今度は何を確かめたいんだ?マスター。実験は粗方したはずだろう?」
「新たに確かめたいことができたんだ。協力してくれ。」
ここは初めて召喚魔法を試してみた、宿屋の庭だ。十分な広さはとれていないが、実験するだけならば問題はない。
「なんで魔法の使えないマスターと、初級魔法しか使えない私のペアに中級魔法の書が必要なのかしら?ちゃんと説明して?」
「姫は魔法の発動する順番って知ってる?」
「そんな物知らないよ。体感的に発動してるんだから。」
「そうだろうね。今回は、そのシステムの盲点を突いた実験だ。成功する可能性は高い。
発動の順番は1、深層意識に呪文を展開する。
2、自分の使いたい魔法をイメージする。
3、表層意識に呪文を展開しなおす。 4、詠唱を行ってさらにイメージを固める。
5、呪文詠唱完了の五段階だ。」
「で?何が言いたいの?」
「まあまあ、やってみればすぐに分かるさ。」
最早何を言ってるのかわからず攻撃的になってきた姫を見て、やはり物は試しだなと苦笑する。
「じゃあ、やってみるか。」
「この前を毒ガスをまき散らす毒草、残ってる?」
「ええ。処分が難しいので、ギルドでも対処が難しいの。当面は冷凍保存かな~って感じ。それがどうかしたの?」
「ちょっと使ってみたくなったんだ。使ってもいいか?」
「勿論。」
普段の受付嬢とのやり取りをしつつ、毒草の在庫があるか確認だ。
どうしても今回の作戦には毒草が必要なのだ。
「で、今度は薬草をどうするの?マスター。」
「さっきから姫は質問攻めだな。そんなにあわてなくても大丈夫、すぐに分かるさ。」
召喚魔法陣を展開しつつ、答える。
「それよりも、姫にはやってほしいことがあるんだ。」
かくかくしかじか。
「...それ、かなり危険だと思うんだけど。」
「大丈夫大丈夫。ばれなきゃオッケー。」
「ばれるでしょ、これは...」
いた。この前情報をくれた、お爺さんだ。
ていうかなんでこの人はいつもいて欲しい時にいてくれるんだろう?そういうスキルがあるならぜひとも教えてほしい物だ。
「タックルブルの群れってどうやったら誘導できますか?」
「誘導?あんなものを誘導したいとは、ろくでもないことをやらかす気だな?」
「街を救うために必要なんです。お願いします。」
「はあ、いいだろう。それが我々、|使徒(身遣わされし者)の役割だからな。強烈なにおいを伴いかつ、爆音を伴うものに反応する。しかし、理由は不明だが雷魔法がいいとされているようだ。」
それなら、姫がなんとかできるだろう。
「ありがとうございます。ところで、使徒とはなんですか?」
「心配するな。こっちの話だ。」
チッ、言外に拒否された。
まあ、問題ない。必要な条件は全て揃ったのだから。
「さて、全ての用意は整った。馬鹿な魔族ども、盛大に俺の手のひらで踊って貰うぜ?」
「さて、全ての用意は整った。愚かな人間ども、魔王軍の前にひれ伏せさせてくれる!」
人類最弱の魔術師VS魔族最高峰の指揮官が、同時に開戦を指示する。
「この戦い、人類がもらう!」
「この戦い、魔族がもらう!」
戦いは、始まった。