『S.N.O.D・130』
「これから『S.N.O.D・130』を見るあなたのための手引き」
『S.N.O.D・130』という番組をご存じだろうか。不定期に全世界130カ国でオンラインストリーミングされ、視聴者の選ぶ「最もエキサイティングな番組」にも選出された経歴を持つ人気番組だ。今回は『S.N.O.D・130』の合同スポンサーの許可を得て、その番組の公式オンライン・ガイドを書かせてもらうことになった。私もファンのひとりとして、この番組の魅力を多くの人に知ってもらいたいと思う。
ではこれより様々な「ファン」たちの案内のもと、血沸き肉躍る『S.N.O.D・130』の世界への扉を開けていこう。
(責任編集: ゴードン・マックスウェル)
・『S.N.O.D・130』とは?
文責: “ドッグ・ビーター”(オンライン・ライター。『S.N.O.D・130』とレッド・ブルがあれば生きていけるとは本人談)
1、“ドア・ノッカー”計画とビジネス・チャンス
まず『S.N.O.D・130』について説明する前に、米軍の予算の話をしよう。なぜ?と思うかもしれないが、しばしお付き合い頂きたい。2109年に国際過激派組織“MRU”が事実上の壊滅状態になった後、米軍は世論の軍縮傾向の煽りからその予算を大幅に減らされた。その際、国防総省管轄の軍事研究機関“ハウス・6”は研究中の最新鋭技術の一部を民間に売り払うことに決めた。その中には、MRUとの戦闘において画期的な戦果をもたらすと期待されていた“ドア・ノッカー”計画の資料と装置もあった。これは敵地に直接兵力を送り込むための、ある種のワームホールのような機能を果たすはずだった。しかし、度重なる事故の末、結局のところ実戦投入されるには至らなかった。これをバイオ化学メーカーであるオルトナモ社(前『S.N.O.D・130』スポンサー)が競り落とし、新たに研究を進めたところ、驚くべきことが明らかになった。なんとこの“ドア・ノッカー”という装置には意図せずマルチ・ユニヴァースへと接続してしまうという不具合があったのだ。オルトナモ社は実験を中止するかどうか検討したようだが、好奇心と新たなるビジネス・チャンスの可能性という誘惑には勝てなかったようだ。そして第42回目の接続実験の時に、“対岸の者”がその姿を現した。
2、“対岸の者”とポルノ・サイト
ドア・ノッカーを通じて接触を果たした平行世界に住む“対岸の者”は、我々とそう変わらない見た目をしている。目・鼻・口、そして耳はないが。
とにかく、彼らはこの“ドア・ノッカー”という装置に対して深い関心を示し、オルトナモ社に買収を持ち掛けた。詳しくは私も知らないが、小国をまるごと買い占めることができるほどの金額だったという。オルトナモ社は二つ返事で了承し、翌日には新たな自社ビルの建築に着手しはじめた。“対岸の者”がドア・ノッカーをどのように利用したのかは分からないが、それから3年後、大手テレビ局に地球人のエージェントと共に現れ、『S.N.O.D・130』の企画書を提出した。しかしどのテレビ局も、ケーブルテレビでさえその内容には躊躇した。そこで“対岸の者”たちは自らがスポンサーとなり、オンライン・ストリーミングの環境を整え、『S.N.O.D・130』の放送を始めた。なぜ彼らがそんなNetflix(昔あったストリーミング配信サービス。若い読者は知らないかも?)の真似事をはじめたかはわからないが、一部の専門家は“対岸の者”たちの世界では何らかの道徳的・法律的、もしくは宗教的な理由から『S.N.O.D・130』のような過激な番組を放送することができないが、我々の世界で放送したものを向こうで配信するのは可能なのではないかとの仮説を立てている。ポルノ・サイトが海外にサーバーを置いて自国の規制を逃れる構造の、マルチ・ユニヴァース版といったところだろうか。
3、90億分の1億
こうして放送開始の運びとなった『S.N.O.D・130』だが、初回が放送されると同時に爆発的な人気を得た。その過激さ、リアリティー番組としての生の“人間ドラマ”が、視聴者に麻薬のような興奮をもたらしたのだ。当初はPTAや放送協会の反発もあったが、自己責任の元での視聴契約、18歳未満は見られないようにする制限などもあり、それもやがて消えていった。それに、一番のスポンサーである“対岸の者”たちはそんなクレームを気にしなかったのだ。やがて彼ら以外にもスポンサーがつくようになり、番組はどんどんと豪華になっていった。そして昨年、ついに『S.N.O.D・130』の同時視聴者数は1億人を越えた。全世界90億人のうちの1億人が、同じ時間にひとつの番組を見ているのだ。なんだか非現実的で、ロマンチックな気さえしてこないだろうか。とにもかくにも、こうして『S.N.O.D・130』は全世界から愛される番組になったのである。
・『S.N.O.D・130』とは?
さて、長く退屈な前置きが終わり、やっと番組概要へとやってきた。『S.N.O.D・130』とは知っての通り、賞金をかけたサバイバル番組だ。そこには当然、いくつかの前提とルールがある。ここではそれを説明していきたいと思う。
『S.N.O.D・130』とは挑戦者が複製された“ドア・ノッカー”をくぐり、指定されたマルチ・ユニヴァースで制限時間まで「生き残る」か、他の全ての脅威を「排除」することで賞金を手にすることができるサバイバル・リアリティー番組だ。賞金は回によってまちまちだが、必ず2500万ドル以上を手にすることができる。人生を変えるには充分すぎる金額だろう。
・『S.N.O.D・130』の流れ
出場希望者はオーディションを経た後、誓約書にサインし、“クレジット”を受け取る。この決められたクレジットで、挑戦者たちはマルチ・ユニヴァースから持ち込まれた多種多様な装備を購入することができる。強いものはもちろん高く、効果が低い・もしくは使い勝手に「問題のある」ものは安い。量より質か、質より量かは挑戦者が各自で決めてよい。その装備を持ったら複製された“ドア・ノッカー”をくぐり、番組が定めた毎回異なるいずれかのマルチ・ユニヴァースへと接続される。そこで挑戦者は「生き残る」か、敵を「排除」するかを選択し、行動することになるのだ。
・刺客
『S.N.O.D・130』では、番組側が毎回、そのマルチ・ユニヴァースに特有の“刺客”と呼ばれる存在を用意する。これらは常に挑戦者を苦しめることになる。挑戦者は他の挑戦者と協力して“刺客”を排除するか、もしくは自分以外を蹴落とすか、ただただ逃げ延びるかを決めなければならない。
刺客は主にいくつかのジャンルに分類することができる。
・クリーチャー系
化け物、怪物といった類いのもの。おおむね言語は通じず、純粋かつ本能的な凶暴性をもって挑戦者を苦しめる。
・ダンジョン系
マルチ・ユニヴァースの環境そのものが牙を剥くもの。必然、挑戦者の選択肢は「生き残る」ことに限定される。ダンジョン系の中には、クリーチャー系ほど脅威ではないが、その場所固有の危険な生命体がいる場合もある。
・ハンター系
その多くは高い知能を持ち、効率的に挑戦者を追い詰める。登場頻度は多くないが、視聴者から好まれる傾向にある。不思議なことではあるが、専門家によるとハンター系が登場する回において視聴者は挑戦者よりもハンターに感情移入するそうだ。
さて、これで『S.N.O.D・130』について説明する私のセクションは終了だ。大まかではあるが番組の流れは分かっていただけたかと思う。次からは様々なテーマごとに『S.N.O.D・130』を解剖していくので、初心者からファンまでチェックしてくれ!
・特集「カタログから読み解く装備品」
文責: アーロン・レイノルズ(軍事研究ライター。雑誌『.45』『フューチャー・セキュリティ』など多数に寄稿)
3000万ドルを手に快哉を叫ぶ者。液晶画面にその無残な死体を晒す者。『S.N.O.D・130』における彼らの違いは何なのか? 答えはいたって簡単だ。クレジットを使い如何に「適切な装備品を買い」、「適切な使い方をしたか」である。
ここでは挑戦者に対して配られるカタログを片手に、「装備品」について語っていこうと思う。
・クラシック
その有用性、高い費用対効果から全ての挑戦者から好まれる装備を、視聴者は「クラシック」と呼ぶ。これなしで『S.N.O.D・130』に挑むのは愚か者のすることだとさえ言われる。この項ではこれらの装備品がいかにしてクラシックと呼ばれるようになったのかを説明していく。
蘇生装置……あらゆる有機生命体(そう、私たち人間のことだ!)を生前の姿へと完璧に戻す装置である。万年筆ほどの大きさのため持ち運びが容易で、しかも優れた効果を持つ。死んだチームメンバーを生き返らせたり、敵のそばで死んでいるクリーチャーに使用して油断した相手に一発お見舞いしてもいいだろう。数少ない難点は、「死んだ」ものにしか使えない点だろう。これは治療キットではなく、あくまで蘇生装置なのである。君が下半身を失って苦しんでいたところで、この装置は何もしてくれないのだ。
透過ベスト……着ると壁などのあらゆる物体をすり抜け、自身の姿も見えなくすることができる優れもののベスト。その効果ゆえ、敵や他の挑戦者からの物理的攻撃も無効にできる。代わりに、長時間着ていると自分の身体も透過していき、最終的には消える。消えた者がどうなるのかは不明だ。番組ホームページでは透過ベストを着たせいで消えてしまった挑戦者のリストを載せている。どこかで見かけたら連絡してあげよう。
・ブルー
トリッキーな効果をもち相応の運用方法を求められるが、場合によっては恐ろしく有用になりうる装備品のことを指す。有名カードゲーム『マジック・ザ・ギャザリング』の「青」の運用に近いためこの名が冠されたという説がある。(諸説あり。念のため)
“最善の一手”……かけると一回だけ、その場で最良と思われる行動を男の声で提案してくる電話番号。声の主は不明。第11回大会の優勝者、トマス・ロッジに最後の刺客との闘いの最中に「その場で逆立ちをしろ」と指示したというエピソードで有名。彼はこの提案を信じたことで刺客を退け、見事に優勝を果たした。大きな難点として、圏外だと使えないというものがある。そして何を隠そう、マルチ・ユニヴァースのほとんどは圏外なのだ。
召喚ガン……テーザー銃のような見た目。撃つとその地点にホールが出現、マルチ・ユニヴァースに接続し、そこの生物をランダムに一体召喚する。ランダム性があまりに高いため、プロチームなどからは使用を敬遠されている。また場合によっては番組側で用意されていた刺客よりも強大なクリーチャーが現れてしまうこともある。特例として、天文学的な確率で「ヒト」が召喚されてしまったことがあり、第162回大会ではトルコ在住のデミール・ヤスフ氏(当時48歳)が召喚されてしまった。その時、彼は自宅で夕食を食べている最中だった。生物としてヒトが召喚されたのは後にも先にもこの一回だけである。
コピー・ケミライト……折って光ると、折った人物の完璧な複製が出現するという装備品。単純に戦力が倍になり、所持していた装備品もコピーされるので非常に強力。なのだが、ケミライトを折ったところまでの記憶も複製されているため、コピーとオリジナルの区別が自分ではつかなくなる難点を持つ。それに自分の複製だけを殺して装備品を奪い取ることを事前に考えていても、その考えさえもコピーされてしまうので疑心暗鬼を生む。第55回の優勝者ミハエル・ウィドルスキーはこのコピー・ケミライトを使い複製と共にふたりで優勝し賞金を山分けしたが、その後に手続きなどのトラブルが絶えなかった。半年後、片方のウィドルスキーが何者かに撃ち殺される事件が発生。その二年後、残ったウィドルスキーも排気ガスで自殺、遺書にはもうひとりの自分を撃ち殺したのは自分自身である旨の告白が残され、その最後は「自分がコピーなのかオリジナルなのかわからなくなった」という不穏な言葉で締めくくられていた。
・トラッシュ
FPSゲームなどで弱く使えない武器を指す語「産廃」が元になっているとされる、つまりは使いようのない装備品のこと。中にはカタログに載っているものの、一度も使われたことのない装備などもある。
サプリメント……飲むと、自身の体調や装備品の残り所持数が目の水晶体にHUDのように表示されるサプリメント。一見すると有用そうなこの装備品をトラッシュたらしめる難点として、明らかに表示されている情報が自分のものではなく、誰か別のチャレンジャーのものであるという点がある。そのチャレンジャーが死にでもした場合には、自分の目に延々と“YOU DIED”という文字が映し出されることになってしまうのだ。誰がサプリメントを作っているにしろ、この不具合を直すつもりはないようだ。
ロンドン・ライフル……見た目はM1ガーランドに酷似している、撃つと弾が出ず、代わりにロンドンのどこかで火災が起きるライフル。ロンドン在住の視聴者からのクレームなどもあるが、未だにカタログには載っている。ちなみに大会での使用実績はない。というか、いつどこでどう使うのが正解なのか?
以上に挙げた他にも、装備品は星の数ほどある。そして『S.N.O.D・130』スタッフの手により現在もマルチ・ユニヴァースから様々な品が持ち帰られ、カタログに装備品として登録されている。トラッシュと思われていたものがいつの間にか挑戦者の間でメインストリームとなっていたり、かつてのクラシックが新たなクラシックに取って代われたりもするかもしれない。奥深い装備品の世界は、まだまだ我々視聴者の興味を惹きつけて離さなさそうだ。
・特集「私の愛した刺客」
語り: エドゥワール・フレクシス(サン・モンペル大学・社会人類学教授であり、ここでは単なる一視聴者!)
『S.N.O.D・130』のもう一人の主役、それは刺客たちだと私は思っています。視聴者の選ぶベストバウトには必ずといっていいほど個性的な刺客が登場します。彼らは私たち人間が原初の頃より持っていた未知のものへの恐れを喚起し、多くは畏怖と好奇心の対象となります。私たちは液晶越しにそういったものと対面することで、スリルと興奮を得ることができるのですね。
さて、私がおすすめする刺客の出る『S.N.O.D・130』の回ですが、特に第120回大会ですかね。視聴者から俗に“ゴッド”(=神)と呼ばれるクリーチャーが登場する回です。“ゴッド”はチャレンジャー達それぞれによって見た目や攻撃方法の認識が全く異なる、という不思議なクリーチャーでした。また、視聴者の語る“ゴッド”の見た目も全く共通しませんでした。百人いれば百通りの姿形があるクリーチャーなのです。ちなみに、私には“ゴッド”は空中を浮遊する巨大な光の球に見えました。妻は巨大なタコのような化け物に見えたと言っていましたが。(笑)あるチャレンジャーなんかは、試合開始から終了までこの刺客の存在を感知できず、彼女曰く「放送事故かと思った」と語ったそうです。
“モロトフ”と名付けられた刺客も私が好きなもののひとつですね。宙に浮く触手付きの肉塊といった姿で、不用意に近づいたチャレンジャーは全て焼き殺されました。この“モロトフ”は不思議な能力を持っており、それは燃やされた本人が自身の身体にまとわりつく炎を知覚することができなくなるといったものでした。他の人から身体中が焼け爛れていることを指摘されても、本人にはその自覚がなかったのです。この能力をチャレンジャーたちが把握するのにはしばらくかかり、中にはその炎が実際には人体には無害なために他のチャレンジャーたちは気にも留めていないのだと勘違いする者まで出てきました。最後に“モロトフ”を倒したリー・カウアイは、自身の姿を常にスマホのインカメラで見ながら戦うことで、自分が燃やされていないかをチェックしていました。
あと別の意味で印象に残った刺客は“ラ・プレ・ウォント”でしょうか。彼……もしくは彼女はアウタースペースの一流の殺し屋で、“対岸の者”からのオファーで刺客として雇われました。“ラ・プレ・ウォント”は放送開始から約7秒でチャレンジャーを全滅させたため、その回の優勝者・生存者はいませんでした。放送後にはもちろんクレームが殺到し、これが“ラ・プレ・ウォント”の最初で最後の出演になりました。ちなみに彼の動く速度が速すぎてハイスピードカメラにも捉えることができなかったため、番組史上で唯一、姿形が不明なままの刺客となりました。
変わり種として、長い尻尾を持つ“ブラッド”という刺客もいましたね。第98回大会で刺客として登場後、チャレンジャー・スタッフ・観客席・解説者と見境なく殺戮を行いました。どのカメラにも常に返り血が付く状態となったため、視聴者からはオンエア後に“ブラッド”(=血)との愛称で呼ばれるようになったのです。この回の有料アーカイブは特に不人気で、理由は真っ赤な画面ばかり見ることになるからです。(笑)
あと印象に残っているのは“アプドー”という刺客でしょうか。第107回大会が全てこの巨大な生物の胃の中で行われていたというのは、視聴者にとって嬉しい驚きでした。
聞き手・書き起こし: ケイレヴ・スミス(偽名。いわゆる中の人は有名な脚本家であることは言っておこう)
・『S.N.O.D・130』プロデューサーの選ぶベストバウト
語り: ベン・カークマン(第99回から現在までプロデューサーを務める、まさに『S.N.O.D・130』を最も近くで見守ってきた男)
ベストバウトをひとつに決めるってのは難しいね。僕にとってはどの回もやっぱり記憶に残るものだから。いや、まぁたった7秒かそこらで終わった回もあったけど……。
うーん、そうだな。どうせみんな第29回とか第102回とかあげるだろうからなぁ。よし、決めたぞ、僕が一番好きだったのは第177回大会だ。優勝者はオーブリー・ウィンタース。シングルマザーで、彼女の息子は“HNPCC”(=遺伝性非ポリポーシス大腸癌)を患っており、その治療費が必要だったんだ。大会自体は相当に荒れていたね。刺客は“ドアマン”。身体は人間みたいでダークスーツを着てさえいたが、顔は何というか、虚空へ向かう渦みたいになっていた。あいつはどんなドアでさえ一種の“ポータル”にでき、そこから現れることができるんだ。ドアの向こうがどうなっているかはスタッフにもわからないが、そこに引きずり込まれた者はひとりとして帰ってこなかった。“ドアマン”がいるマルチ・ユニヴァースにあったのは廃墟のような街で、僕らはちょうどそこを第177回大会の会場として使った。そこはぱっと見でイギリスかどこかの街のようだったが、道路標識には“貝と禿鷹”(=Shells and Vultures)とか訳のわからないことが書いてあったな。
とにかく、本当にその大会は荒れててさ。チャレンジャーはドアというドアには近づかないようにしていたけど、“ドアマン”は生粋のハンターだからどんどんと数を減らされていった。停まっていたバンのスライド・ドアからヤツが出てきて、油断した元海兵隊員のチャレンジャーを引きずりこんだ時はスタッフも僕も驚いたよ。まさかそこまで強力な刺客になるとは思わなかったんだ。チャレンジャーの中にはチームもあったんだが、筋弛緩地雷を仲間に使って“ドアマン”の囮にして倒そうとする者が出てきたくらいだ。ヤツに銃弾なんかの物理攻撃は効かなかったけど。囮にされた方は口からあぶくを飛ばしながらそんなことをしたチームメンバーを罵っていたな。すぐに手近なドアに引きずり込まれたけどね。
優勝者のオーブリー・ウィンタースは、途中までは隠れていたね。数減らしに他のチャレンジャーに襲われるリスクを負って、大通りの真ん中まで出てさ。通りにはドアはないからね。でもそれも、“ドアマン”がマンホールから出てくるまでだった。いや、“ドアマン”ってのはスタッフたちが付けた愛称だから、別に必ずしもドアから現れる訳じゃないんだ。ヤツは、他の生命体から視認されない場所にポータルを作るんだ。それに適しているのがドアというだけで。
ともかく、ウィンタース以外のチャレンジャーが全滅したことで、彼女は“生存者”となった。あとは退避エリアまで行くだけだ。だけど、彼女から退避エリアのある場所まではかなり遠かった。その間、いくつの建物のドアや車のそばを通り抜けなきゃならない?
視聴者、解説者、そして僕やスタッフはウィンタースがどうするのか見守っていた。逃走か、闘争か。でも結果的に彼女が選んだのは、その両方だった。
彼女は自分のズボンの裾を直すと立ち上がって、なぜか手近なアパートのエントランス・ドアに近づいていった。すぐに両開きの扉が開いて“ドアマン”が現れた。その時に扉の向こうがちらっと見えたけど、ヤツの顔同様、そこには無限の渦巻きがあるだけだった。
ウィンタースは走り出したが、途中でこけて頭から倒れてしまった。“ドアマン”は近寄り、彼女の足を強く掴んだ。もうダメだと思った。今回の優勝者はなしだと。
その時だった。ぱきっという音がして、誰も思いもよらぬことが起きた。
“ドアマン”の前に、もう一人の“ドアマン”が現れたんだ。
そう、彼女は自分の足に装備品の“コピー・ケミライト”をテープで巻きつけていたんだ。コピー・ケミライトは、“それを折った者を複製する”という効果を持つ。今回、それを彼女の足ごと折ったのは、他ならぬ“ドアマン”だった。
そう、彼女は“ドアマン”を倒せるのは“ドアマン”しかいないと踏んだんだ。生粋のハンターである“ドアマン”はもう一人の自分と、最後の獲物であるウィンタースを巡って争いだした。
その隙に彼女は折れた足を引きずり、這いずって逃げだした。
一方の“ドアマン”はというと、もう片方の自分を羽交い絞めにすると頭から食べはじめていた。いや、“食べる”という表現が正しいのかは分からないな。ヤツは、もう一人の方を顔の渦巻きの中にぐいぐいと押し込んでいったんだ。なんだか、ゴヤのあの絵画を思い出したな……なんだっけ。そうそう、“我が子を食らうサトゥルヌス”。
ともかく、ヤツの顔の渦巻きの中に、どうやってか、大柄な男ほどあるもう片方の“ドアマン”が飲み込まれていった。少しはみ出た足は、痙攣していた。あれには苦痛が伴うのかもしれないな。いや、正確にはわからないけど……というか、誰にわかる?
ウィンタースはその間に這いずって、見事に退避エリアに辿り着いた。その後すぐさま、僕らはドア・ノッカーを通って元の世界に帰った。彼女には賞金が手渡され、折れた足を治すため病院まで運ばれた。
……奇妙だが恐るべき刺客。“母の強さ”を証明して優勝したチャレンジャー。“ブルー”と呼ばれる一風変わった装備品の、さらに一風変わった使い方。『S.N.O.D・130』のリアリティー番組らしい楽しさのある、模範的かつ意外な試合運びの第177回が僕の選ぶベストバウトだね。
(編集注: その後、賞金でオーブリー・ウィンタースの息子は完治し、現在は親戚の元で暮らしている。ウィンタース自身は大会から1年後に自宅で失踪している。彼女が購入した豪邸の高度セキュリティは外部からの何者の立ち入りも検知しなかった。警察もまた、いかなる外部からの侵入の痕跡も見つけられなかった。警察によると当時、寝室に荒らされた痕跡はなく、クローゼットの扉だけが中途半端に開いていたという)
聞き手・書き起こし: “ドッグ・ビーター”
・「終わりに」
編集長: ゴードン・マックスウェル
さて、ここまで読んでみていかがだっただろうか。この短いオンライン・ガイドを通して少しでも『S.N.O.D・130』という番組に興味を持っていただければ幸いである。
また2回目以降の特集も鋭意製作中であり、今回同様に様々な業界の「ファン」たちから寄稿してもらう予定だ。
またそこでお会いできることを、ライター・編集者一同と楽しみにしている。




