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英雄は明日笑う  作者: うっしー
第二章 旅立ち
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第七話 新しい街

「海っ…………!」

 迷いの森を抜けてすぐ右側の視界に広がったのは、それはそれは広大な水の塊だ。

 海は初めて……じゃない。けどものすごく久しぶりに見たそれはひどく俺を感動させた。ずっと森の奥でひっそりと暮らしてきたんだ。こんな風に外に出るなんて少し前までは思ってもいなかった。



「すっごーーーーい! すごーーーーい! 水! 水! 水、水ぅ!!」

 ……いや、ここまでガキみたいにはしゃいだりはしないけどな、俺は。

 タケルのあまりの騒ぎように少し冷静になった俺は先にある街の入口へと向かっていった。


 この街を抜ければクロレシア王国領を抜ける。逆に言えば王国から船で直に出るか、ここを通らない限り国外には出られないってわけだ。おかげでこの港街アスレッドはかなり発展している、らしい。

 らしいってのは話に聞いただけだからだ。俺はずっとクロレシア王国領内で隠れて暮らしてたからな、よく知らないんだ。けどこの街を見るからにその話は本当だったみたいだ。



 目の前には遠くからでも見上げるほどに大きな門、その門の上方にはいつでも下ろせるようになっているんだろう、鉄柵がはまり込んでいる。そしてその入り口の付近には門番らしき兵がいた。

 そこからさらに奥を見渡せば、街の家々が立ち並んでいる。そして風車と露店……。


 段々と俺の気分が浮き立ってきた。やばい、俺、今ものすごくウキウキしてる。


挿絵(By みてみん)


 気分も徐々に浮上してきた俺は、軽い足取りでアスレッドの門をくぐろうとした。



「ちょっと待て、お前怪しいな」

 街に入ろうと足を一歩踏み出した途端、門前に居た兵士に腕を掴まれ引き止められた。

「うっしー怪しいって……」

 引き止められた俺を見てぷぷぷっと笑っているタケルを睨みつけてやる。門兵がタケルの方を見た。

「お前もこいつの知り合いか? 怪しい奴はこの街に入れるわけにはいかない。戻れ」

「な!? 俺のどこが怪しい……」


 ……いや、確かに怪しいわ。

 服はびりびりに破れて土まみれだし、ブーツは焼け焦げてるし、髪は来る途中の川で洗ってきたとはいえしっとりと湿っている……。どう考えても怪しいよな。俺だって門番任されてたら入れるわけがない。



 だがここで引き下がったら何もできないまま王国領内で放浪しなきゃいけなくなるんだ。村の人たちにも合わせる顔がないまま……。そんなのは嫌だ。


「ま、魔物にいきなり襲われたんだよ! 怪しくないから通してくれ……」

「一般人が魔物に襲われて無事だったのか……?」

 やばい、焦るあまり墓穴掘った……。しかも俺を押しのけてタケルがしゃしゃり出てきた。

「だってそれは魔ほっ……むぐっ」

 とんでもないことを言いそうになったタケルの口を俺は慌てて塞いでへらへらと笑いかけた。が、それも遅かったみたいだ。




「お前ら怪しすぎるな。これはクロレシアの兵を呼ぶしかないか」

「わ、悪かった! 戻る! 戻るって!」

 兵まで呼ばれちゃさすがにまずいと、タケルの口を塞いだまま俺は慌てて門から離れた。迷いの森とは違う方にのびていた道をしばらく歩き、門から姿が見えなくなった辺りでタケルの口に当てていた手を離した。



「なんで魔法で倒したって言わないのよ!? うっしー!!」

「お前は馬鹿か!! ”紋章持ち”だってバレたら研究所に逆戻りかその場で斬られてたっつの! いいか、クロレシアにとって、俺たちは敵なんだぞ。奴らにバレたら命がないと思え!!」

「そなの?」

 とぼけたタケルに俺は盛大なため息を漏らすと、遠くにある門の方を仰ぎ見た。



「くっそ、こんなことになるならクロレシアの鎧着ておくんだったぜ」

 今さら研究所で脱ぎ捨ててきた鎧が恋しくなる。

 嘆いても後の祭りだってのは分かってるんだけどさ。


「こうなったら……また奪うか」

 英雄と呼ばれていた男にあるまじき凶悪な顔でニヤリと笑って、俺は街の塀と道の間にあるこんもりと生い茂っていた草陰に隠れた。大声で叫びながらついて来たタケルの口をあわてて塞ぐと、目立たないよう体を地面に押し付け道の先に目を凝らす。俺の下でタケルが赤くなりながら何か声を漏らしていたが、悪い今はかまってるヒマねーんだ、我慢してくれ。

 そのまま俺は道の先に集中した。




 生憎こちらは迷いの森方面と違い、さすがアスレッドへと通じている街道だ。人通りもちょこちょこある。ただ集団で来たり用心棒がいるやつらはどう考えても不利だからな。狙うなら一人旅の奴がいい。

 しばらくそうこうして待っていると、大きな荷物を抱えた男が、その倍以上の荷車を引きながらやってきた。俺の口元がニヤリとゆがむ。

 見るからに一人だ。辺りに人影もない。奴はひょろりとした体躯を黒っぽい服装で包み、首には黄色いストール、頭には黄色く大きな羽が特徴的な帽子をかぶっている。髪は銀……、いや白金か。手には突くにしては不便そうな赤い石の嵌まった杖を持っている。



「……大道芸人か何かか? ……まぁいい、そんなもの俺には関係ねーしな」

 俺はタケルの口を塞いでいた手を離すと、右手を地面に、左手を紋章にくっ付けた。どういう訳か紋章に触らないと魔法が発動できないらしいんだ。

 帽子をかぶった男が、隠れている俺の横を通過するのを待って魔法を発動した。男の足元が盛り上がり、バランスを崩したところで駆け出す。

 悪いな、少しの間寝ててくれ。

 男の背後から俺は首筋に向かって手刀を放った。




「ッ!!?」

 決まったと思ったのは一瞬だった。だがそれはひょいと前にかがんで避けられていた。

 まさか、俺が隠れてたのがバレてたのか!?

 男はこちらに振り向くと、焦って繰り出した俺の二発目の拳も空いた方の手で止めてきた。

「いきなり奇襲とは失礼な人だね……!!」

 止めるどころか、そのまま掴まれた手をぐるりと捻られ体ごとひっくり返される。そのまま地面に体を強かに打ち付けた。

「がっ……」

 う……そ……だろ!? こんな簡単にっ……! こんな、いかにももやしみたいなやつにっ……!



「うっしー!!」

 逆さになった視界に剣を引き抜いたタケルが飛び込んできた。

 ちょっと待て! 剣はヤバいだろ!! 殺すつもりかッ!?

「タケル! やめっ……」

 引き止める俺の声も間に合わずタケルは剣を振るった。ダメだっ……逃げてくれ!!

 だが俺の焦りは、ガツッという音とともに消え失せた。起き上がって見て見ればタケルの剣は奴が握っていた杖によって止められている。俺はほっと胸をなでおろし、立ち上がった。

 タケルはと言えば相手を睨みつけうううーっと唸っていたが、いや待て。悪いのは俺たちであってそいつは悪くない。



「賊……にしては素人。何なんだ、君たちは」

「……すまなかった。俺達アスレッドの街に入りたかったんだが、俺がこんななりだろう? 入れてもらえなくて困ってたんだ」

「……だから通りすがりの僕を襲ったと?」

「すまない……」

 殊勝に謝る俺を帽子の男は下から上までジロジロと眺め、その通りじゃないかと言わんばかりに蔑みの笑みを浮かべると、横に居たタケルの方を見た。



 一瞬驚きの表情になり視線を外すと、もう一度確認するようにタケルの方を見る。

 なんだ……? こいつタケルの知り合いか……?

 だが男はそのままタケルを振り払うと、俺の方へ杖を突きつけてきた。

「そんなに街に入りたいのかい?」

「ああ……」



 俺の返事に帽子の男はニヤリと笑ってタケルを指さす。

「じゃあ、彼女が僕の元へ来るというのなら手伝ってあげてもいいよ」

「は……」

「え……?」

 なんだこいつ!? 知り合いとかじゃなくてただの一目惚れか!?

 それを理解した途端俺は拳を握り締めつつ、ついつい叫んでしまっていた。

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