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英雄は明日笑う  作者: うっしー
最終章 英雄が笑う時
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第六十四話 核

「う、うくっ……」

 タケルが背後で苦しそうに呻いた。早く、早く魔導砲を止めないと魔力を失うどころかタケルまで失ってしまう。

 どうにか先に進みたいのに一歩動かす足が重くて仕方がない。数分経った今でも動いたのはわずか三歩だ。膝がバカみたいに笑ってる。

「きゃっ」

 俺の背後で突然上がったタケルの悲鳴に何事かと振り返った。コタロウが攻撃してきたのかとも思ったけどそうじゃなかった。レスターが、魔力の影響が少ない場所までタケルを運んでくれたんだ。

「これぐらいしか出来なくてすまない。オレが止めてやれたら良かったんだが、魔導砲やコタロウ様には接触できないようオレの機械が設計されている……」

 辛そうに唇を噛むレスターに、気にすんなと目だけで伝えた。それどころかタケルまで気にしてくれた事がありがたい。あいつには後で礼を言おうと心に決めた。



 少しだけ安心して再び魔導砲に向き直る。不安が一つ解消したからって俺の膝が言う事を聞いてくれる訳じゃない。それでも今までやってきた事、みんなの想いを無駄にしたくなくて、また一歩前に出た。

「うっしー! 気を付けて!! 無念の意志がこもった魔力は、時として生きてる人の魔力を狂わせるって長老が言ってたよ!! 魔導砲は危険だと思う!!」

 長老……。レガルを出る時タケルに耳打ちしてたのはそれだったのか。だけどそんな事より、もっと気になる事があった。彼女の隣に居たレスターも俺と同じように目を見開く。あいつはそのまま呆然とした調子で呟いた。

「そうか……だからウッドシーヴェルの力は……」

 腐敗した大地に溜められたのは元々魔導砲に使う”紋章持ち”の魔力だ。合意の元奪われた力なんて皆無だろう。みんな無念のまま死んでいったに違いない。だから俺はその魔力に影響されて暴走し、自分の意志に反してレスターを攻撃してしまったんだ。



 分かった途端力が少しだけ抜けてしまう。レスターも拍子抜けしたような笑い声を立てた。

「ク、はは。まさかこんな簡単なことだったとはな。……ウッドシーヴェル、受け取れ!!」

 レスターが何かの機械をこちらに放るのと同時に膝をついた。その機械を受け取った俺の足は一気に軽くなる。手の中の機械を見て、すぐにレスターに向き直った。だって、これ……。

「レスター、これっ」

「オレの魔力が尽きる前に……早く魔導砲を止めて、返せ」

 レスターの機械はあいつ自身の魔力で動いてる。恐らく魔力が尽きれば命に係わる程だろう。それなのに、魔導砲の影響を失くすこの機械を俺に預けてくれたんだ。そのことが嬉しくて、礼を言いつつすぐに駆け出した。



「うっしー! 魔導砲の核は光を放ってる。……良く分かんないけど、ぼくの記憶がそう言ってる!」

 テンの助言に一つうなずき、さらに足を動かす。先程クロレシア王が動かした魔導砲のスイッチを記憶を頼りに押した。多分このスイッチで間違いないはず。頼む、止まってくれ!!

 けど動作の停止を確認するより先に、いきなり俺の腕を何かが切り刻んだ。それがコタロウのリボンだって把握するより先に俺は魔導砲の内部に飛び込む。

 こいつを止めるだけじゃない、俺達の目的は核を得ることなんだ。確認はできなかったけど、俺がスイッチを動かしてから機械音が徐々に静かになったから魔導砲は止まったはずだ。これであいつらも魔力を吸い取られる事なく戦えるだろう。だから俺は振り返らなかった。



 邪魔をされないように、回復してきてたなけなしの魔力を使って入り口を地の魔法で固めた後、ゆっくりと振り返る。腕からはコタロウの攻撃で血が流れたままだったけど、今は回復より核を手に入れる方が先だと判断したんだ。どのみち魔力は今のでまた尽きたし、こんな所でゆっくりしてるヒマもないと思った。



挿絵(By みてみん)



「核か……」

 内部には色々な機械やボタンがいっぱいあった。正直俺じゃどれがどれだか分からないし、音を上げそうになったけど、どれも似たような物の中一つだけ俺の目を引くスイッチがあったんだ。それを確認した途端、間違ってたら……なんて思わず引かれるままにそのスイッチを押した。何故だろう? 魔導砲に込められてる”紋章持ち”達の意志なのか? 早く解放してくれって言ってるように見えたんだ。

 思い出せば、迷いの森に向かった時もそうだったよな。あの時もなんとなく分かったんだ。誰かの意志なのか、魔法なのか、分からないけど不安は全くなかった。



 スイッチを押すとすぐにテンの言う通り淡く青白い光を放つ筒が機械の奥から出てくる。俺の肩から肘ぐらいまでの長さで、太さもそれぐらいだ。俺はそっとその物体を動く方の手で引き抜くと、胸に抱えた。

 これが世界を救う物。これでようやくっ……! 感動していたのも束の間、すぐに我に返って外に出ようとした。外にはコタロウ達もいる、まだ無事に手に入れたわけじゃないんだって思い出したんだ。だけど入り口を見て俺は固まった。

 そうだった!! 一瞬で忘れるってバカか俺は、入り口自分で塞いだんだろ。くそ、魔力回復しねーと出れねーぞ!?

 自分で作り上げた岩の塊を片手で叩いてみたけど当然割れる訳がない。結局途方に暮れて魔力が回復するまで外の様子を聞く事しか出来なかった。




 というか、外ではまだクロレシア王とコタロウがもめてやがったんだけどな。どうやら俺なんかよりもお互いの意見の食い違いが気にくわないみたいだった。

「コタロウ、貴様何を企んでいる?」

「クク、今さら気が付いたのですか、陛下? 貴方の指の先程もないクソのような欲望にもそろそろ飽きて来た所だったのですよ。ボクが彼らをここに集めた理由が貴方には分からないでしょう?」

 コタロウの言葉に俺も首をかしげた。ゲームで暇つぶしする為じゃなかったのか? 一瞬そう思ったけど、魔導砲の核を賭けてまでやる事じゃないと思い直し、俺はコタロウの言葉の続きを待った。



「ボクには世界を()()ための魔力が必要なのですよ。彼らはいい材料だ。だからこの城を改造し、彼らをおびき寄せた。ここで死んでくれればすぐに魔導砲に力を蓄えることが出来ますからね。ねぇ陛下、サレジストなんてちっぽけな国を欲している貴方とボク、願いは全く違うのですよ」

 コタロウの言葉に鼻で笑うクロレシア王の声が聞こえてくる。くそ、もめてるならもめてろよ、今のうちにここから脱出したいぜ……。誰か早く気づいてくれと念じながら、さらに耳を傾けた。



「ふ、自身が考えたゲームでボロボロに負けたくせに、どの口が言う?」

「クク……ええ、そうですね。しかし貴方以上には楽しませてくれましたよ。それに……ゲームはゲーム。核を渡した時点でゲームは終了だ。つまりここから無事に帰す約束はしていないんですよ、ククク! 全て、終わったんです。……あなたとのごっこ遊びも、ね!!」

 コタロウの笑い声の直後、鈍い衝撃音と共に目の前のドアに衝撃がはしった。嫌な予感がしてとっさに横に避けたから俺に被害はなかったけど、何かの塊が俺の魔法で作り上げた岩ごとドアを破壊してきたんだ。その塊を確認して俺は青ざめた。




「クロレシア王……」

 心臓と脳が何かに撃ち抜かれてる。思考する間もなくやられたんだろう、話している途中の表情のまま固まっていた。くっそ、胸糞悪ぃ。コタロウの方を見てみれば、周りに先の尖った岩が浮いていて、それに血が付着していた。間違いない、あいつがやったんだ。俺は核を抱えたまま外に飛び出した。このまま中に居たら、逃げ場がないまま殺されるって思ったんだ。そんな俺を見てコタロウが嘲笑う。

「ゲームは終わった。今度は油断しないよ。さぁ、ボクの尊い目的の犠牲となるがいい。ヴェリア、受け取れ」

「ああ、コタロウ様! 私も本気を出しますわ!!」



 コタロウから何かの瓶を受け取ったヴェリアは、それの蓋を開け飲み干した。強化剤か何かだったのか、確認するより先にコタロウのリボンが飛んでくる。俺の目の前でそのリボンの一部が切り裂かれた。

「好きにはさせないんだから!!」

 タケルだ。レスターも近づいて来る。

「さっきも言ったが、コタロウ様相手じゃオレは戦えない。力になれなくてすまないっ……」

 苦しそうに、申し訳なさそうに言うレスターに、俺は先程預かっていた機械と共に魔導砲の核を押しつけた。そんな大事な物をって、はたから見てた奴なら不安に思うかもしれないけどさ、疑う必要なんてないだろ。レスターは俺の大切な親友だ。信じてるから、押しつけて笑ってやった。



「失くすなよ、世界がかかってるからな。ちょっとだけ預かっててくれ」

 俺の言葉の後、レスターもすぐに笑い返してくれる。ヤエは座ったまま桔梗の方へと手を差し出した。

「歩けない私じゃ戦力にはなれないわ。赤ちゃん預かっておくから、お兄ちゃまの力になってあげてくださる?」

 桔梗はうなずくと、ノワールをヤエに預けた。ヤエはすぐさま防御壁を展開する。テンも感心するほどの出来だ、あれならコタロウの炎で焼かれる心配もないだろう。



「さて、簡単には帰してくれないみたいだし、力ずくで突破だな」

「えー、なに? 結局戦えるのこのメンバー!?」

 やる気満々で微笑む桔梗と、楽しそうに準備運動を始めたテンに向かってナナセが忠告の言葉を投げた。

「油断していたら君達から先に死ぬよ」

 それを聞いて不敵に微笑む桔梗とは違い、うっ、と言葉を詰まらせたテンについ笑いがこぼれる。ったく、こんな強敵目の前に緊張感のない奴らだな。だけど嬉しくもあった。これがいつもの俺達、やっぱこうでなくっちゃな。気合を入れてコタロウに向き直る俺に、何かの光が流れ込んできた。突然俺の中に魔力が溢れてきたみたいだ。



「ノワール!?」

 テンの声に何事かと振り向く。見てみればヤエの防御壁の中に居た赤ん坊のノワールが光を放っていた。それが何故か俺に流れ込んできてたんだ。光が収束するのと同時にノワールが寝息を立て始める。

「は、はは、なんだよ、これが精霊の真の力ってか? そっか……魔力の流れを作るのが精霊の役目……。物忘れしたテンよりよっぽど役に立つじゃねーか、ノワール」

「ちょっとぉ! 何それ!? 人を耄碌(もうろく)した役立たずみたいに!! 後でボコるから覚えてろよ!!」

 俺の言葉にナナセと桔梗が笑っている。笑うってことはやっぱお前らもそう思ったんだろ。そのままテンの言葉を無視して復活した魔力で自身の腕を回復し、土の剣を作り上げた。



「タケル、無理すんなよな。必ず生きろ、俺が守ってやる」

 恥ずかしげもなく、するりと出た。けどこれは本心だ。

 俺の背後で心の底から湧き上がる嬉しさを押し殺したようなタケルの声が聞こえてきて、何故か俺も嬉しくなった。俺だって生きて、そして英雄になるんだ。今は逃げる時じゃないし、逃げたとしても奴らは追って来るだろう。それだけは分かったから。だから全力で戦ってやるって決めた。

 ナナセがニーズヘッグを召喚するのを合図に、俺達はコタロウとヴェリアに向かっていった。

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