第三十七話 禁書の秘密
青い色の禁書から光が生まれた途端、嫌な予感がさらに膨れ上がり俺は無意識に叫んでいた。
「桔梗! 魔力全開!!」
「分かっている」
桔梗も同じように感じていたんだろう、俺が前面に分厚い土の壁を作った直後左右と上、背面に壁を作り出してくれた。それと同時に冷気が襲ってくる。術越しにでも伝わってくるぐらいだ、これは相当やばいだろう。
冷気が収まるのを確認して術を解き、見てみれば辺りが全て凍結していた。守りの術を張っていなければ俺達も危なかったと思ったら冷や汗が額を伝っていく。
禁書二冊でこの力か……。ここにある禁書まで奪われてしまったらいったいどうなるのか……。なんとしてでも阻止しなければならないと覚悟した。
「あーん残念、防いじゃったか。ま、簡単に殺られるよりは楽しいけどぉ」
「ノワール……お前何のために禁書を集めてる!? 力を得て何をするつもりだ」
俺の質問にノワールは一瞬だけ真顔になり、すぐにニヤニヤと笑いだした。目的の先でも見ているんだろうか。
「うっしーくんアタシに興味あるんだ? フフ」
ノワールが笑うのと同時に白黒の方の禁書が光り俺の体に電流のような衝撃が奔った。一気に手足の力が抜け床に突っ伏す。くそ、油断した……。そこにノワールが近づいてきて仰向けに転がされたかと思えば、腹の上に伸しかかってきた。
「うっしー!」
桔梗が叫んだ直後、現れた闇に体が弾き飛ばされていく。後ろに居たオルグごと壁に激突した。いや、激突なんて表現間違ってる。何しろそこには先程ノワールの術で生み出された氷柱が突き出していたんだから。しかもそれが二人の体に突き刺さっていた。
「ききょっ……」
「うっしーくんよそ見しないで。アタシの事知りたいでしょ?」
言いながら俺の周囲を闇で埋め尽くすと、手近にあった大きな氷柱を魔法で折って右肩に突き刺してきた。
「うあぁっ!」
「あははっ! うっしーくんいい声で啼く~。じゃ、そのまま聞いてね」
ノワールは笑って肩の傷に触れながら楽しそうに話し始めた。けど……俺にとっては聞くなんてそれどころじゃない。氷柱が刺さったままの右肩とマヒしつつある感覚で頭がおかしくなりそうだ。回復しようと伸ばした左手はすぐにノワールに掴まれて止められた。ダメだ、聞かないと開放してくれないみたいで、必死に脳を働かせつつノワールの話に耳を傾けた。
「ん、とぉ、まずは力を求める理由……だっけ? それはね、むっかつくサレジストの奴らをぶっ潰してやるためよ。こうして痛ぶるだけじゃダメ。夢も希望も見られないように消し去ってやるの。大陸ごと、ね! あはは! 考えるだけで楽しいでしょ~?」
サレジスト……。確かクロレシアの奴らが敵視して戦争仕掛けてる国だったよな。魔導砲で攻撃してた場所でもあったはずだ。
まとまらない脳でどうにか思い出してみるがそれぐらいしか思い出せなかった。
ノワールを見てみれば、目は笑いながら……それでも憎しみで満ち溢れていた。いったい彼女に何があったというのか……。考えても分からなかったが、魔導砲をクロレシアに作った理由だけは分かった。
大陸を消す……。今回俺が見た限りあの魔導砲は地面を抉るぐらいの威力だったように感じる。だけどもしまた使われる時があるとしたらその時は……。考えるだけでぞっとした。
「うっしーくん眉間にシワ~。頭働いてきちゃった?」
「もう一つ聞かせてあげたいからもっと集中して」
ノワールの言葉と同時に氷柱が俺の左太ももに刺さった。衝撃で再び悲鳴が漏れる。
「じゃ、今度はこの本について、ね」
荒い息をつきつつ、どうにか意識を引き戻した。
「禁書にはそれぞれタイトルがあるの。一章はテンが持ってるから分からないのだけど。アタシが持っている第二章は魔力の集め方、三章は魔力の留め方と使い方。恐らくここにある四章はアタシ達精霊の力でもある魔力の高め方のはず」
それだけ言うと、ノワールは何かに気付いたのか、ハッと顔を上げ闇の術を解いた。桔梗とオルグの姿が現わになる。そのままノワールは俺の上から立ち上がり、歩き出していった。
「アタシ禁書の場所分かっちゃった!」
ニヤリと笑って部屋の奥にある通路へと進む。オルグが傷ついた体を支えながら慌てて立ち上がった。
「ダメだ! 近づいてはいけない!!」
「邪魔しないで」
青ざめたまま後を追おうとするオルグの体をノワールの闇が弾き飛ばす。俺は急いで自身に刺さったままの氷柱を魔法でどうにか引っこ抜くと、回復してオルグの元へと駆けた。
桔梗が自分の傷などお構いなく術を発動してノワールを引き止めてくれていたから、迷うことはなかったんだ。俺はその間にオルグの傷を癒していく。
「うっしーくん、力を貸してくれ! 私には人や精霊以外の時を戻す術しか使えない。だけどあの懐中時計を取り戻せば彼女をフレスナーガの外に追い出せるかもしれないんだっ……! だから頼む、うっしーくん!!」
「ああ、わかっ……」
一瞬どうでもいい事に気が付いたけど、いや、もう何も言うまい。この切羽詰まった状況の中、周りがそう呼んでたんだ間違えて覚えても仕方ねーよな……。オマケのように語尾に小さく『た』をつけて返事を返すと、ノワールに向かって魔法で攻撃した。
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その頃フレスナーガの外では……。
「あーもー!! 心配かけるなって言ったのにぃ!!」
球体の木々に水の術を放ちながらテンが叫んだ。先程急激に来た痛みとそれが和らいだことによってテンの中に不安が広がりつつあった。けれど今こうして尽きることなく魔法が使えているのだ。それにノワールがフレスナーガの中から出てきていない。つまりあいつはまだ死んでいない、そう無理やり信じ込もうとしていた。
「オルグも、無事かな……。うっしー達を中に入れちゃった事、許してくれるよね。それからぼくの事ちゃんとおねぃさんに話してくれてるといいんだけど……。だってさ~、誤解されたままじゃもう合法的にお触りできないじゃん!? この際うっしーなんてどうでもいい、死ね!! おねぃさん~!!」
言い終わるのと同時に再び水の術を放った。木の幹が抉れたかと思えば時間が経つにつれて徐々に回復していく。
「うー! あの時計がないとこんなに入るの面倒だったなんてっ……! 誰か~、開けゴマミソ~~~!!!」
言葉を発しながら魔力の回復を待って、球体の木に付けられた傷が完全に修復される前に次の術を放つ。時間と体力の勝負だとテンは気合を入れてさらに魔力の回復後、術を放った。




