浮塵
鈍行の汽車に揺られて 窓の外を眺めると、 鼻の先に 鳶色浮塵子の腹が。
あゝ私は君と仲良くなる気はないのさ。 悪いがあっちに行ってくれないか。
突いたり 脅かしたり してみるが、硝子一枚に随分と強気のご様子だ。
オーケー。 君の熱意に免じて無銭乗車を見逃してあげよう。
しかし、随分と長い腹だな。
トンネルの中で、いっそう強く吹く風を 君は一身に受ける。 そんなに一生懸命に、 君は何処に向かっているんだい?
いいかい。君は大きな旅に出てしまったのだよ。
いいかい。君だけの力では故郷に帰れない処まで来てしまったんだよ。
もう、家族の顔を見ることはないだろう。
君の死を悼むことはないだろう。
それは、君。 とても悲しいことなんだ。
ああ、君。よく見れば 脚が一本欠けている。
その脚でここまでひっついて来たのかい?
私は君のその向こうに目を向けた。夜の街に灯りが増える。
さて、終点のようだ。
私は降りるよ。
…その、あれだ。
私は君と仲良くなるつもりはないが、ここは君にも住みやすい街だと思う。
きっと気にいるよ。