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メイディ-ブラッド=吸血鬼リヴァイヴ=  作者: 綾
吸血鬼リヴァイヴ
12/14

11「生きるための戦い」

「兵士に告ぐ!! 覚悟があるものは火薬を!! 爆発すれば何でもいい!! とにかく集めろ!! 集めて北東へ運べええええ!!!!」


「覚悟がないものは!! 住民の避難誘導に徹しろおおおお!!!」


 そう叫びながら木箱に詰め込まれた火薬類を運び出すのは、第一、二、三部隊の兵士達だ。

 ダダンからの伝言で、ほとんどの兵士達が街を守る事を選び、お互いに鼓舞するためにダダンの命令を、いや、お願いを実行していた。


「こっちにもまだあるぞ!!」


「兵士さん達は向こうに行ってくれ! こっちは俺たちがやっとく!!」


「助かる!」


 街を救うために行動しているのは兵士だけではなかった。

 住民達もまた、自分達の街を守るために兵士に協力することを選んだのだ。


 住民達もなんとなく分かっているのだ。兵士達だけに頼りきっていては街は助からない。街が助からなければ皆殺される。ならばすべき事をしよう、と。


「火薬類を集めろ」、それがダダン統括長からの最初の指示で、次に発せられたのが「北東へ運べ」だった。


 統括長の作戦は単純明快。ありったけの爆発物で、敵を一気に殺す。そのために街にある全ての火薬類が必要なのだ。

 武器屋や鍛治屋といった、爆発物を扱っている店も進んで商品であるそれを提供していった。


 その光景を、5階から見下ろす存在が居た。

 部屋は豪華絢爛。床は大理石で出来ており、自分が映るくらいに研磨されている。

 壁には壺や絵画などが飾られており、正に金持ちといった部屋だ。

 窓から見渡す男の名前はリッケン=フレデリック、今年で38歳になる。


 突然、デスクの上に設置されている水晶が青に明滅しながら、小刻みに振動した。

 やっとか来たか。リッケンは水晶の先にいる人物を睨み付けた。


「これはどういうことか説明してもらいましょうか」


『それについては、こちらに非がある。申し訳ない、が、こちらも予想はしていたが、確率が低かったものでね』


「予想はしていたなら、最初から対処していなければ意味がないのではないか」


『いや、これが予想していた事に対する対処だよ』


「……なに? どういうことだ? 俺の街に大量の魔物を送り込む事が対処法だと?! 俺を殺すつもりか?」


『その点においては安心してほしい。フレデリック殿には危害が及ばないようにプログラムされている。彼らがあなたを襲うような事は、万にひとつもない。そんなことよりも、だ』


 自分が死ぬような事がないと分かり、安堵の溜め息をついた。

 だが逆に言えばリッケン以外の者は襲われるということだ。

 何人死のうが、自分が安全ならそれで良いと考えるのが、リッケン=フレデリックという男だ。


『あなたの役目は、ブラッドの監視だったはずだ。それなのに何故こんなことになっている?』


「何を言っている……? 何故そこでブラッドがーー」


『シーカーαにはあるプログラムを書いてある。それは、ブラッドに変化が生じた場合に全勢力でもって襲撃するというものだ』


「……馬鹿な……ブラッドに変化など……」


 そう言って部屋を出て南に面する部屋の窓から黒の館を見やる。

 リッケンは絶句した。

 何故なら目の前には、あるはずのない黒い階段がアウダウンと黒の館を繋いでいたのだから。


「ーーなんということだ。監視していた兵士は何をしていた……」


 監視していた兵士は、確かに黒の階段の出現を発見し、報告をしようとしていたが、黒の館の変化を察知した緑の狼の魔物ーーシーカーαが襲撃に出たことで報告どころではなかった事を、リッケンが知るよしもない。


『ブラッドが動き出している。せいぜい、少しでも役に立ってくれ』


 水晶の先にいる人物は、最後に告げた。



 ーーーーーーーーーー



 北にある見張り台へダダンは向かっていた。

 今は冬。老骨に鞭打って全力で走って向かうために、口からは白い息が行き交っている。

 軽装な鎧の上から深緑の、ところどころ色が剥げた年季もののコートを羽織っている。


 見張り台へと通じる梯子へ手を掛けたところで、誰かに話しかけられた。


「ねえ、兵士さん。どうなっちゃうの?」


 ダダンのコートの裾を引っ張る小さな女の子。多分10才に満たない子供が、ダイナマイトを両手いっぱい使って運んでいる。

 その光景に、ダダンは顔をしかめてしまったが一瞬で安心させるような笑顔になる。


(近付いていることに気づかなかった。それほどまでに、私も焦っているということか)


 大丈夫だから、家に帰っていなさい等とは言えなかった。ただ、安心させるように……言葉にしてしまえば、それが後で嘘になってしまうから。


「手伝ってくれてありがとう。それを運ぶのをおじさんに任せてくれるかい?」


「……うん」


「良い子だ。手伝ってくれてありがとう。そうだ、飴をあげよう」


「おじさん、ありがとう!」


 頑張ってねー! と手を振りながらもと来た道を帰る女の子に、ダダンも手を振り還す。

 女の子が見えなくなったところで、貼り付けていた笑顔を外した。


 その表情はなんとも形容し難かった。

 諦め、責任、希望、絶望ーー色々なものが混じりあった、複雑な感情がダダンを襲う。


(私の選択は正しいのだろうか)


 自問自答するが、ここに来るまでにももう何度も検討して、これしかないと結論は出したではないか。

 あとは、女神が微笑むかどうかの問題だ。


 梯子を登り、7m上の見張り台に辿り着く。

 見張り台に登るのは何年ぶりだろうか。統括長になってからは体力仕事はあまりやって来ていないために、軽く息切れしていた。


 シャーーという音が微かに聞こえてきた。

 見張り台は街を囲う壁と繋がっている。

 壁の上にはレールが走っており、鐘で最初に危機を伝え、次にこのレールを伝って兵士が他の見張り台へと詳細を伝える仕組みになっている。

 ガタタン、という音を立てて投げ捨てられたトロッコは、レールから外れて停止した。


「統括長!!? 北東から魔物の軍勢が!!」


「既に聞いている。本当に12000も……いるようだな」


 北の見張り台にあかるダダンに、その圧倒的な量でもって圧力を掛けてくる緑の魔物は、確かに1万は優に越えているようだ。


「赤く発光しているようだが……」


「ッ!! 不味いです! あの赤い光に壁が壊されたんです!!」


 12000の魔物の目が赤く輝いていた。そのひとつひとつが恐るべき破壊力を持ち、壁を破壊したのだ。

 穴を開けられた壁に再度攻撃されたなら、次は街にその死の光線が降り注ぐことになる。


(……間に合わないのか)


 目算で、およそ6分といったところだろうか。


 赤い一閃が、ダダンの頬を掠めた。


 ダダンは掠り傷程度で済んだが、トロッコでやって来た兵士は脳天を撃ち抜かれていた。

 運悪く鐘で反射したレーザーが兵士に当たってしまったのだ。

 脳天を貫通したレーザーは、地面に焦げ目を作って消えた。


(バケモノめ)


 折角集めた爆発物も、魔物の攻撃で不発に終わるかもしれない。


(せめて、付いてきてくれた者達と共に散ろう)


 ダダンは見張り台から降り壁の外へ、軍勢と同じ大地に立つと勝手に足が震えだした。

 少ししたら、ここをあの軍勢が通ると考えると、歯もカタカタ音をたて始めた。


 近くにいた戦士と目があった。顔が青ざめていた。俺もきっと、そうなのだろう。生きた心地がしないとはこのことだ。だって、これから死ぬのだから。


 ありったけの爆発物が、目の前にはあった。指示通り、50メートルの間隔で5つに分けて置いてある。

 これを魔物の軍勢の腹で爆発させるのが計画だ。

 魔物の数を考えれば狭い範囲だが、壁に開い穴目掛けて迫ってきているため、この付近で軍勢は収束するはずだ。そこをねらう。


 だがそれも、赤い眼がより一層輝きを増すことにより現実味が薄まった。


 この場にいるのは兵士だけでなく、一般の住民達もいる。

 皆、自分達の街を守るために協力してくれた。

 今ここには5000人近い、アウダウンに住む人のほとんどの人間がいる。

 この短い間にこれだけの爆発物を用意してくれたのは他ならない彼らだ。

 そんな彼らを救えないだろうことを、ダダンは感じ取ってしまった。


「統括長、赤い光が……」


 あれは伝達兵を撃ち抜いた光だ。

 壁を破壊した光だ。

 あまりの強さに、膨大な光源は、街のどこからでも確認することができた。


 死を前に、神々しく見えてしまった。


(これが神だと言うなら、出来るなら私は、神を殺して見せよう)


 到達まで残り4分くらいだろう。

 それまで、せいぜい悪足掻きをさせてもらおう!


「大砲用意!!!」


 壁の上に、倉庫から引っ張ってきた大砲6台を配備した。

 それらに兵士達が点火する。


「ッ撃ェェェェェェェ!!!!!!」


 ドゥゴン、ドゥゴン、ドゥゴン、ドゥゴン、ドゥゴン、ドゥゴン


 これだけの的がいるなら、どんなにコントロールが無くとも当たるだろう。

 着弾と同時に爆発。魔物10体を死へと誘い、5体ほどに怪我を負わせた。


 だがそれだけだ。12000の内の、60体を殺したところでなにの解決にもならない。


「大砲装填!! 銃撃用意、 ッ撃ェェェェェェェ!!!!!!」


 ズダンッ


 第二射は15台の銃による攻撃。こちらも大砲同様壁の上に配置させている。


「銃撃第二、 ッ撃ェェェェェェェ!!!!!!」 」


 ズダンッ


 距離も相まって、銃での効果は薄かった。僅かに魔物の体に傷を負わせるに留まった。


「大砲用意ーー ッ撃ェェェェェェェ!!!!!!」


 ドゥゴン!!!!!!


 大砲なぞ、軍勢にとっては掠り傷程度の威力しか持っていなかった。


(装備が更新されていれば、もしかしたら……今さら嘆いた所でしょうがないか)


 残り2分くらいか。


 振動が近づいてくる。

 視界いっぱいに存在する魔物の数は、見ているだけで諦念にかられる。


 赤い光が、これでもかと強く輝いていた。

 ひとつひとつが合わさり、まるで太陽のようだ。


 あの光に飲まれたら、きっと骨すら残らないだろうなとダダンは思った。


 それでも、命令し続けなければならない。

 兵士である限り、戦い続けなければならない。


「ッ撃ェェェェェェェ!!!!!!」


 ドゥゴン!!!!!!


 例え無駄な足掻きだったとしても


「 ッ撃ェェェェェェェ!!!!!!」


 ドゥゴン!!!!!!


 住民を守る。

 

「ッ撃ェェーー」


 突然のフラッシュに、目を瞑ってしまった。

 開けようとしても光が強すぎて、なかなか開けることができない。

 薄く、ゆっくりと開けて周囲を見渡すと他の人達も瞑ったり、手で覆ったりして目を守っているのが見えた。


 ダダンの少し先には、街中から集めた爆発物が敷き詰められている。

 敵の攻撃が一つでも、爆発物に当たろうものなら誘爆を起こして失敗に終わるだろう。


 その更に先には、森から影が伸びるようにやってきた魔物の軍勢12000。


 どうやら、こちらの敗けのようだ。


(……すまない)


 赤い光が、大地を抉り、ついに視界全てが、赤に塗られた。


次回、伝承再現

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