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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

約1000字短編集

連鎖

作者: sika

 

 双子の弟が人を殺した。


 弟はまだ未成年だった。被害者は同じ中学校のクラスメイト。

 いじめに耐えかねて、という同情の余地があったにも関わらず、世間の目は冷たかった。



 父と母は慢性的な不眠に悩まされ、ついに引っ越しを余儀なくされた。

 父は会社にも居辛くなり、退職。母は一日の大半をリビングで寝て過ごした。



 兄にも弟と同じ血が流れている。

 いじめに耐えかねて人を刺し殺した血。弟のそれは黒く、煮え滾っていたのだろうか。

 心の闇では到底説明出来ない、憎悪の塊。それは兄の中にもあるのだろうか。

 彼らは人殺しになるべく要素を備えていたのだろうか。


 答えはすぐに出た。


 弟のことを契機に、兄もまた人を殺したのだ。

 詳しい理由などもう誰も興味はなかった。

 幼いころのエピソードはさもそうであったかのように変えられた。


 かくして狂気は育まれ、二人は人殺しになりました。



 彼らの父には浮気相手がいて、相手との間に息子がいる。

 マスコミはすぐそのネタに飛びつき、センセーショナルな見出しでこぞって特集を組んだ。



 ネット上にはその息子の顔写真がアップされた。

 父が二度目の引っ越しを決意した時、母は自らその命を絶った。

 父の姿もそれを最後に、ひっそりと消える。



 家族に訪れた結末に世間は満足しなかった。

 父の息子はマスクで顔を隠さなければ外出できないようになり、その苛立ちは最も身近な人間に向かう。



 それは彼が初めて振るった暴力だった。

 自分にも義理の兄弟である二人の人殺しと同じ血が流れている。

 彼はそれを憎みながらも、母への暴力を正当化できる理由があることに安堵した。

 翌朝、母は冷たくなっていた。それを見つけたのは彼の姉だった。



 姉は職場の課長と不倫関係にあった。

 弟がしたことはとても一人では受け止められない。

 体を重ね合ったあと、姉は課長に打ち明けた。弟が母を殺したの。



 君は君だ。その言葉が嬉しく、その後何度も二人は交わった。

 が、その日を境に、課長の態度は目に見えてよそよそしくなった。目を合わせようともしない。



 夜、こっそり課長の家までついていくと、そこには暖かな家庭があった。

 安心し、弛緩した課長の声は聞いたこともない部分から発せられているとしか思えなかった。

 姉が気付いた時にはもう、玄関に血まみれの課長が倒れていた。

 泣き叫ぶ妻にいい気味だと姉は声を上げて笑った。



 何年も前に離婚した姉の実父は、新たな家族を得ていた。

 一家団欒は姉のニュースが始まると一変して重苦しい雰囲気に包まれる。

 父の娘だと知っているのは彼の妻だけだったが、ニュースを見た日から、妻は子どもたちにきつく当たるようになった。



 人殺しの血。それを持つ息子と娘。

 子どもたちは母の変化について父を問い質した。

 どこから漏れたのか、記者が一家を訪れた日から息子は学校で無視され、娘は部屋に引きこもった。

 家族の機能は完全に停止した。



 息子は気付いて欲しくて隣の子の首に彫刻刀を突き立てた。

 その夜、娘もまた包丁を手に、疲れて眠る両親のいるリビングに忍び寄り、二人を手にかけた。



 課長殺しで逮捕された姉は、獄中で身籠っていることが判明した。

 エコーには二つの影があった。


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