永劫回帰
おまけ
賞に出した時用の締めでした
あの出来事から、百十年後、人間達から《落涙の鬼神》と呼ばれる魔王になった良平は《絶望の満月》と呼ばれる少女――望と共に闇夜の中、荒野に佇んでいる。
今、この瞬間、世界に人類と呼ばれる存在は全て死に絶えた。
良平は赤茶けた大地に転がる最後の抵抗者の亡骸を見下ろす。その目からは涙が零れていた。
この涙は虚しさから、発するものだ。いつも――どうして、人間には分からないのだろうか。
「これで我等の邪魔をする者はいない。長かった。とてつもなく長かった」
魔王が口を開く。その目には追憶らしき感情が宿る。
「ああ。私の伴侶よ。もう、私達の邪魔をする者はいない」
「昔の喋り方でいいのよ。良ちゃん。もう、妾達を殺そうとする人間達はいないのだから」
その喋り方が変だったのか、魔王は笑いだす。同時にショルダーバックからハンカチを取り出し、良平の涙を拭う。
「そうか。僕は疲れたよ。しばらく、涙を流さずに暮らしたい。人間には関わりたくない」
良平は溜め息を吐く。
「大丈夫よ。これからは二人だけの夜が続くわ。人格的には三人かな? 良ちゃんと呼んだ方がいい? あなたと呼んだ方がいい?」
魔王――いや、希=望が微笑んだ。失ったと絶望していた――遥か昔に見た太陽を思わせる笑みだった。
「それを口にして、また、揉めるのか」
良平は肩を竦める。《絶望の満月》が二人の己の優先権で揉めるのは魔王になってからの悩みの一つだった。
魂が分かたれた時間が長かった弊害らしい。これはこれで楽しくもあるが。
『時間はたっぷりあるんだから、問題ないわ。妾にも、あたしにも』
良平の手を取り、希=望は二人の声をハモらせながら、銀髪を風になびかせ、見つめる。
人だった頃の笑みを浮かべて、良平はそれに応えた。
[了]




