(4)
余りに短いんですぐに次出します
しかし、場面で区切るとえらくぶつ切りの章が……
良平は三度、靄の中にいた。
これまでと同じく、あの少女が中心で座り込んでいる。その表情は今までとは違い、笑顔を浮かべて、幸せそうだった。
「嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい――」
少女は恍惚とした様子で呟いているが、良平の耳には次第に聞こえなくなる。
「あたしの為に人を殺してくれた。今度こそ、あたしの為に。そして、見つけなきゃ、見つけなきゃ。探しださなきゃ。あの人の頭を。愛しいあの人の頭蓋骨を」
良平が近付いたことにも関わらず、少女はその白過ぎるが故に青くすら見える頬を燃えるように紅く染め、喜んでいる。
良平はそれを見て、少し引いていた。
彼女が誰かを深く想っているのは良く分かった。
だが、その感情は限度を超えている。この少女はどこか、異質だ。人一人の感情ではなく、複数の人間の情念をその身に流し込まれたかのように。
「こんな夢の中じゃなくて」
不意に少女が良平に視線を合わせた為、良平の心臓は跳ねる。視野として、少女を見ることはできない筈なのに魂を鷲掴みにされたような気分になった。
自分を誘き寄せる為に近付いてくるのを待っていたようにも思える。
「だから、僕は君の言う人物じゃない人違いだ」
良平は絞りだすように声を出し、否定する。けれど、本音はどうなのか。自分でも分かっている。この子を悲しませたくない。
こちらの内面を見透かすように、少女はおかしそうに上品に口の端に笑みの形に歪ませた。
「もうすぐよ。もうすぐ、あなたに……やっと会える。この時を待っていた。ずっと――恋焦がれていた。焦がれてた。焦がれてた」
少女は良平の頬をその白き両手で掴み、撫ぜる。
良平はその手の感触に違和感を覚えた。柔らかい感触を期待していた訳ではない。
夢か現実かよく分からないので触覚が当てにはならないが、少女の手から与えられた人工的な感触が気になった。布みたいな感触が。
希が巻いていた包帯と感触が似ている。
「いい加減に認めて。あたしは間違えてなんていません。それとも、思い出せないのですか?」
少女が悲しそうに囁く。だが、その瞳に宿る赤い炎は勢いを増しているように見えた。
赤い炎は決して諦めはしないと告げていた。
「そうですね。長い長い時間でした。思い出すのも時間がかかるでしょうね。でも、もうすぐです。必ず、あなたに……あたしは会います。どんな障壁も焼き払って」
少女は良平の頬から手を離し、膝の上で組んで祈る、いや、誓うように宣言する。その瞳には恍惚とした光はなく、固い意志が宿しているように思えた。
良平はそんな宣言に戸惑う。最初に会った時は激しくなじられ、今は彦星を見る織姫のように見つめられるのだから。
靄が歪んで漆黒の世界に変わった。良平にはその闇の中に魔王の姿が見えた気がした。
「これはお前なのか?」
良平の問いに「汝は何を言っておる?」と聞こえたように思えた。
しかし、それが夢の中の思い込みではないと良平には証明できなかった。




