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魔王が嫁になりました  作者: 明日今日
第四章 反転
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(3)

 希の治療を終えた後、良平達は戸津之守神社から移動し、大通りのファンシーグッズショップに身を隠していた。腕時計を見れば、既に午後二時を過ぎている。

 魔王の顔色が悪そうだったので、良平が言い出しことだった。彼女は「汝も少しは我のことを気にするようになったか」と皮肉を言いながらも反対はしなかった。

 先程、希が民家から頂戴した板チョコをかじりながら、良平は店の中を見渡す。災害前は少女達で賑わっていたのだろうが、こんな状況で入ると薄気味が悪いだけだ。

 良平はこの店にくる前に近くの自動販売機から無料で取り出したお茶を飲む。災害時に無料配布される物だ。

 去年、試験的に導入された自家発電機内蔵型自動販売機が動いていて助かった。

「ひもじい」

 これしかないので宗一郎はレジカウンターに座って、チーズをかじる鼠のようにチマチマと食べている。

「食べれるだけマシだよ」

 希はミネラルウォーターを一口飲んで、宥める。その両手には包帯が巻かれていた。

 幸い痛み止めが効いているのか、希は支障なく手を使ってる。

「汝等、あの乗り物は使えるのか?」

 魔王はブラインドの隙間から店先に止めてあった軽トラックを珍しそうに覗いている。

 良平は「僕は免許もないし、動かせない」と当然の答えを返した。

「問題なし。何度か田舎で動かしたことがある」

 宗一郎が魔王に向けて、Vサインを見せる。

「では休んだら、この大通りを南に。海岸沿いにある公園に向かうぞ。必要な物がそこにある」

 魔王はヌイグルミを不思議そうに見ている。別に欲しい訳ではないようだが。

「裏鬼門って言ったら丁度、市の反対側。何故、国道を南に下って、遺跡公園に? 確か、扉守市の伝承にある姫巫女の化け物はその辺りには関係ないですよ」

「人間の伝承など意味があると思っているのか? それに姫巫女の化け物とは何ぞ?」

 宗一郎の一言が魔王を怒らせたのか、ヌイグルミを掴んで投げつける。それは壁に当たり、床へと落ちた。

「暦氏、すいません。勘違いして申し訳ありません」

 宗一郎は慌てて、レジカウンターから降りて謝るが魔王はその話が不快だったのか、天井を見る。

「……人の伝承など、ただの歪曲に尾ひれが付属した物に過ぎん。――で、その戯言、姫巫女の伝承とは? 掻い摘んで話してくれ」

 魔王は虚しそうにしている。

 良平には夢のような靄の中の出来事とその中に出てきた薄紫の衣装を着た少女。そして、鴨野の推測は魔王に関連があるとしか思えない。

「確か、あるところに神の声を聞くことができる巫女がいたんだけど、神殿に忍び込んだ男と通じてしまい、能力を失ってしまう。

 そして、男は斬首され罰せられたんだが、巫女は能力を失ったことに絶望して、湖に身を投げて自殺してしまうんだけど、男の怨霊に唆されて、魔物と化した巫女は村を襲うんだけど、現れた旅の男に退治される。簡単に言うとそんな話です」

 宗一郎は気圧されたのか、伝承に関して一息に喋った。良平が聞いているのも大筋ではそんな流れも話だった。

 魔王はそれを黙って聞いていたが、その全身が何かに耐えるように小刻みに震えていた。

「酷い話だ。本当に酷い話だ」

 魔王は仰ぐように天井を見て瞼を閉じる。同時に涙と思しき物が一滴流れた。右手で目元を拭う。目を開いた彼女の頬は再び、液体に濡れることはなかった。

 良平はそのことを追求する気はなかった。希と宗一郎も同じ考えだったのか、魔王の涙に関して、何も言わなかった。

「汝等、じきに移動するぞ。良いか?」

 気を取り直した魔王が良平と宗一郎の顔を見る。しかし、何故か、希の顔を見なかった。意思確認の必要がないかのように。

 希はいつの間にか店外に移動し、サイドガラス越しに軽トラックの内部を見ている。良平も後を追って、店を出た。

「良ちゃん、体は大丈夫?」

 足音で気がついたのか希が振り返る。

「無視されてるけど、気にしないのか?」

 希が不思議そうな顔をした。何故、そんなことを聞くのと言いたそうだった。

「あたしが暦さんに無視されてるって? 良ちゃんの気のせいだよ」

 希がきっぱり言い放つ。良平にはその話題を切り上げたくて仕方なかったように見えた。

 良平には希の態度が引っかかった。

 希は軽トラックのドアを開け、助手席側に座り込む。

 それに続いて、やってきた宗一郎がスタンロッドを荷台に載せ、運転席側の戸を開け、運転席に座り、エンジンの始動音が聞こえる。

 災害時の車両放置の鉄則を守っていた為にドアも開けたまま、鍵も挿したままだったようだ。

「汝は何を呆けておる? ゆくぞ」

 魔王に背中を押され、急かされる。彼女は軽く跳躍して着地音をさせずに荷台へ乗り込む。

 良平は突っ立ってるのを止めて、後部タイヤを踏み台に荷台へ上り、助手席側の壁を背にして座り込んだ。リュックは背中に背中に背負ったままで。

「出しますよ。暦氏、座って下さい」

 宗一郎の言葉に魔王は良平の隣に腰を下ろす。

 魔王の動作をよく見てなかったが、品良く座っている。

 良平は魔王の涙を見て、何が正しいのか、分からなくなってきていた。人と魔、両者にさして、差がないことに。

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