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魔王が嫁になりました  作者: 明日今日
第四章 反転
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(1)

 良平達は襲われる病院から追撃されずに逃げ延びた。

 途中、魔王に国道A76号線を塞いでいた瓦礫の一部を持っていた道具で破壊してもらい、ここまで歩いて来れた。

 彼女の指示に従って、街の北東部へ向かって歩いてきたが、魔物の姿は街の至る地点で見かける。

 それと、アスファルトが血に濡れているのに死体が近くにない状況も多々あった。

  力のない魔物は魔王の姿を見ただけで驚き、逃げ出している。もし、魔王と一緒にいなければ、街を徘徊する魔物達に襲撃され、逃げ回る羽目になっていただろう。

 住宅街で塀が残っていた民家の陰に、庭に身を隠しながら、良平は周囲の様子を窺う。

 希と宗一郎は近くで息を整えている。

 それに対して、魔王は疲れた様子どころか、息一つ乱れていない。やはり、彼女は人間だった頃から悪路を歩き慣れているように良平は思った。

「君の味方じゃないのか?」

 良平は疑問に思っていたことを問う。紫藤を殺害した悪魔は自分達に見せつける意図で屋上を選んで彼女を殺害した気がしてならない。

「魔王だからと言って、全ての魔族の王ではない。敵対している連中もいる。ただ、それだけの話だ。我は元々、人間なのでな」

「やっぱり、そうなんですか」

 宗一郎が嬉しそうに反応する。それに対して、魔王の態度は冷めていた。

「どうして、お前は嬉しそうなんだ」

 いい機会なので宗一郎に聞いてみた。彼の反応は余りに軽率過ぎる。

 宗一郎が離れている希の方を見てから、真剣な顔を良平に向けた。

「分からないのか。……似てるんだよ」

 明らかに宗一郎の声には苛立ちが込められている。

 そんな宗一郎の態度に驚いた。発言が回りくどくて、意図が分からない。

「暦氏は希に似てるんだよ」

 宗一郎は真顔だが、希や魔王に聞こえないように小声で言った。宗一郎とは付き合いが長いので良平には冗談で言っていないことは分かった。

「どこが? 容姿も性格も全て含めて何も似てないと思うが」

 気取られないように溜め息を小さく吐いた。

「良平。お前……」

 宗一郎の目に剣呑な光が宿る。だが、彼はそれ以上、何も言わなかった。

 良平はそんな宗一郎に危険な気配を感じ取り、押し黙る。

 下手な発言は危うい状態である人間関係を完全に崩壊させかねない。それにこんな所で喧嘩して体力を使うのは避けたかった。

 そんな時、何故か、希がサッシ戸の外れた玄関から現れる。

「悪いと思ったけど、板チョコ見つけたから、貰ってきた」

 希はジャンパーのポケットから板チョコをパッケージの一部を見せる。

「ここら辺の、関乃口住民は昨日のうちに脱出してるから問題ないよ。国道A76号線を塞いでいた瓦礫の向こう側だから」

 宗一郎がやりきれない様子で説明する。

「じゃあ、扉守市から出られるの?」

 希の顔が明るくなった。この悪夢の街から逃げられるのならば――明るくなるだろう。

 しかし、良平は宗一郎の様子で結果が分かった。

 国道の続く方を見る。微かに太陽が昇ったせいで分かり辛いが、雲や黒煙のかかる上空と周囲の空と見比べると妙に明るい反面、異様に空が暗く低い。

「国道A76号線はこの扉守市と隣の無道市との境界にあるガソリンスタンドで爆発が起きた。災害情報ラジオが聞こえてた時点で速報として流されてたよ。途切れる五分前だ。瓦礫を迂回できたとしても火事で焼かれちまう」

 宗一郎が思い出すのも憚られるのか、苦りきった表情で告げる。

 コンビニ店長の言葉から推測すると昨日の午前三時頃。丁度、良平が倒れた時間だ。

「なるほど。それで床ノ座森林公園から多数の魔物の群れが移動しておったのだな。逃げる獲物を襲うのは当然か」

 魔王は一人納得した表情になった。

「宗一郎、近辺の住民は全滅したのか?」

「……少なくとも、一時半頃に魔物が出始めてから、ラジオ情報で警戒情報が流れた。

 ここら辺は無道市に親戚がいる連中も多い。それで避難した住民が多い。だから、全滅ではないと思うが朝を待って、逃げ遅れた住民も決して少なくはないだろうな」

 宗一郎は答えはしたが良平に対する反応は冷ややかだった。

「他人のことよりも汝等は置かれておる状況を把握しておるのか?

 ここの連中を襲った魔物はその、国道A76号線とやらで外部と内部からの人間達に対して強固な防衛線を張っておるぞ。故に救助が来ぬと推察できぬか?」

 魔王が言ったことを要約すると国道A76号線を脱出に使えないと言う事実。徒歩だと街の反対側まで移動するには一日はかかるだろう。この状態なら、倍の時間はかかる。

「じゃあ、どうする? 扉も塞げない。街を出れない。八方塞がりじゃないか」

 宗一郎が庭の石を蹴り飛ばす。八つ当たりだろう。

「ここにきた理由は?」

「我の所用だ」

「街から出られるのかと思った」

「一言でもそんな話をしたか?」

 魔王の言葉に良平が押し黙る。確かに言っていない。

「待て。あの鴨野とか言う男と阿倍野靖花とか言う女はどうやって入ったんだ?」

「多分、予め、地震が起きる前にこの扉守市に訪れていたんじゃないかな」

 良平が出した可能性も希の指摘に潰される。当然のことに気付かないほど、心理的な余裕がないらしい。

「……我が完全に力を取り戻せば、排除できんこともないがな」

 魔王は良平達の遣り取りに口を挟む。

「気が進まないが、本当に駆逐するんだな?」

「少なくとも、汝には選択の自由はないと思うが?」

 良平の確認に魔王は微笑する。悲しげに見えた。

「扉を閉じることは盟約しよう。この街に何の思い入れなどないが、我もあの扉が解放された状態が面白い訳ではないからな。それに現に我は狙われている。

 扉の開放さえ確保できれば、上級魔族から見れば、我は不要な存在ぞ」

 魔王が自嘲気味に肩を竦めて語り、返事を待つ。

「……それで力を取り戻すにはどうすればいい?」

 良平はしばらく、間を置いて迷った後、意を決して、口を開く。

「扉守市の結界を支える五つの柱を壊せばよい。その後、中心で儀式を行なえば、完全復活できる。今回の件で封印の大半は破壊された。残りを破壊すれば、問題ない。一番近いのはここから鬼門の方角。確か、神社があった筈。用があるのはそこだ」

 魔王は良平の顔を正面から見据えながら、笑顔を見せた。その右手にVサインを作っている。

「と言うことは位置から見て、戸津之守神社」

 希が市内の地図を出して、現在位置から指でなぞり神社を指す。

 同時に良平は希に違和感を覚える。彼女は重度の方向音痴で地図も読めなかった筈。魔王と交わした契約の影響なのだろうか。

「残り、二つ」

 魔王は静かに呟く。その手はVサインではなく、数字の二を現していた。

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