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スクラップ・スピリット(聖霊屑)  作者: ランプライト
第2話「透視する聖霊」
7/10

エピソード007「悪魔の誘惑」

覗き窓のレンズに歪んだドレスの胸元からは、たわわな乳房が今にも零れ出しそうだった。 緩やかなブロンドのウェーブ、柔らかく潤った唇、憂いを秘めた瞳の奥底に、僕の考えている全ての事が筒抜けになる。


彼女は、ドア越しに僅か5cmの距離にまで近づいて来て、他の誰にも聞こえない様に、微かな声で囁いた。


ラプラス:「浩太君、…入れて、くれるかな?」


僕は、名前を呼ばれても尚、正体を知られても尚、どうすれば良いのか迷っていた。 きっと全部ばれているに違いない。 郵便物を盗んだ事も、合鍵の事も、もしかすると、壁の穴の事も、…


ラプラス:「私は、浩太君を責めたりしないわ、」


薄い木製のドアの板越しに、彼女の柑橘系で動物的な、甘い息が、僕の肺を震わせる…


ラプラス:「浩太君に、お願いしたい事があるの。」


僕は、自分でも気づかない内に、ドアを開けて彼女を迎え入れていた。 想像していた通りの魅惑的な香りが僕の脳髄を包み込み、…その女性は少しはにかみながら、微かな声で囁いた。


ラプラス:「ありがとう。」


こんなに綺麗な女の人の透き通るような美しい素肌を、間近に見たのは初めてだった。 いつもは一人きりで寝転がっている暗い畳の上に、その細くて長い綺麗な脚を崩して、彼女はまるで僕の事を誘うみたいに上目づかいに見つめている。 こんな風に女の人とたった二人きりで、暗がりの部屋に佇むのは初めてだった。


ラプラス:「大丈夫、私は浩太君の嫌がる事はしないから、…」


望月:「ア、…」


貴方は誰なの?…そう尋ねようとしても、言葉が続かない。 舞い上がった僕の心臓は、途端に凍えて萎えてしまいそうになる。


ラプラス:「私はデーヴィー・ラプラス、浩太君の事をずっと昔から見てきたの。 ずっと貴方に会える日の事を、楽しみにしていたんだよ。」


どうして、僕の事を知っているの? どこまで、本当の僕の事を知っているの?…そんな風に、尋ねてみたい、でも、そんな風に流暢に舌は踊らない。 まるでドブ川の淀みミタイに、途端に言葉は溜息へと変わる。


ラプラス:「それは、浩太君が、選ばれた人間だから。」


そんな訳が無い事は一目瞭然だった。 だって僕は、選ばれなかった方の人間なのだから。


ラプラス:「浩太君の本当の価値は、私が一番よく、解っているわ。」


うずうずと胃の壁を擽る様な彼女の言葉が、僕の瞼を混乱させる、…僕の横隔膜を動揺させる。


ラプラス:「そう、貴方の考えている通りよ、貴方が私を呼んだのでしょう?…私は悪魔、死神と呼ぶ人もいるわ。…私は、貴方の命をもらいに来たの。」


僕は、ポロポロと零れる涙を堪えられない。 何故だか、彼女が言っている事を疑う事が出来ない。 だって、これはずっと僕自身が望んでいた結末なのだから。 それなのに今になって、悲しくなる、悔しくなる、お母さんやお父さんに申し訳なくなる。 弟達にもう一度会いたくなる。


ラプラス:「大丈夫、私が貴方の命をもらっても、今すぐに貴方が居なくなってしまう訳ではないわ。 49日を掛けて、少しずつ、完全に貴方の魂は消化されて行くけれど、貴方の意識と記憶は、永遠の肉体を得て、この世に留まるのだから。」


彼女の深い瞳孔の奥底に、紫色の炎が灯った様な、そんな気がした。


ラプラス:「それから、貴方が魂を失って私の使役する「聖霊」となる代償に、私は、貴方に永遠不滅の肉体をあげる、そして、浩太君の望みを叶えてあげるわ。」


僕はいつもこの暗い部屋で一人きりになって、いつもこんな事が起こるのを待っていた。 どうせこの先、生きていても良い事なんてありっこない。 それなら魂と引き換えに僕の卑猥な望みを叶えた方がどんなにか良いだろう、と…悪魔の出現を、心待ちにしていたのは、この僕自身だったのだ。


彼女は掌の上に、真っ白な錠剤を一粒、取り出した。


ラプラス:「これを飲めば、貴方は「透視能力」を得る事ができる。 どんな物質も、どんな距離も無効にして、全ての物事は、貴方の視界から隠れる事が出来なくなる。」


これを受け取ったら、僕は、一体どうなってしまうんだろう?


ラプラス:「貴方は私の仲間になって、私の為に戦うのよ。 ほら、カードゲームって知っているでしょう? 貴方は私のカードの一枚になって、私のデッキに組み込まれるの。」


だってそんなのは無理だ。僕には戦いの才能なんてこれっぽっちも無いのだから、…


ラプラス:「心配しなくても、貴方が直接暴力をふるう事は無いわ、貴方は「透視能力」を使って私のパーティをサポートしてくれれば良いの。」


だってやっぱり無理だ。 僕には学校もあるし、弟たちの世話も有る、お母さんを心配させるのも嫌だ。


ラプラス:「言ったでしょう、私は、貴方の嫌がる事を無理やりやらせたりしない。 …でも、元はと言えば、貴方が望んだ事でしょう?」


隣の部屋のドア:「ガチャリ!…」


西本美幸の部屋の鍵の開けられる音がして、壁の隙間穴から、微かな光が差し込んで来る。 今にも美幸が上着を脱いで、スカートを脱いで、その光景をするだけで、じわじわと僕の脳内麻薬がタレテくる。 


ラプラス:「見たいよね、知りたいのよね、彼女の秘密を、彼女が恥ずかしくて隠しておきたい部分を、…これを飲めば、貴方の望みは叶うわ。 …そしてきっと、彼女も、本当は覗かれる事を、望んでいる。」


隣の部屋から聞こえてくる衣擦れの音が、僕を焦らせる。 いつの間にか僕の性器は、デーヴィー・ラプラスの見ている前で、…勃起していた。


ラプラス:「なにも恥ずかしがる事は無いわ、…好奇心と欲望は、貴方の遺伝子に初めから組み込まれている、れっきとした神の計画なんだから。」


こんなミットモナイ僕なんかは、何時かどこかで、清算された方が良いに決まっている。 どうせろくな大人にはなれない。 どうせ苦しい未来しか待っていない。 どうせ皆の期待に応える事なんて、無理だ。


ラプラス:「これを飲めば、貴方は私の期待に応える事が出来るわ。」


僕は、自分でも気づかない内に、白い錠剤を、受け取っていた。 想像していた通りの粉臭い匂いが、僕の咥内に広がっていく、


それからその悪魔は、凶悪な微笑みを浮かべながら、…微かな声で囁いた。


ラプラス:「おめでとう。」

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