エピソード005「倉持恭二のエピローグ」
当然の事だが、そんな俺は会社には居られなかったに違いない。
だから俺は、あの後直ぐに会社を辞めて、暫くは何の仕事もせずに失業保険で生活し、やがて思い出した様にむらむらと歪な欲望が鎌首をもたげて来て、それから何度も、何度も、何度も、数えきれない位何度も、過ちを繰り返したに違いない。
いつの間にか俺は、…虜になって居たに違いない。 そんな奇妙な妄想の、虜になって居たに違いないのだ。
だってこんな事を信じる人間は居ないだろう、だからこれは全て、俺の妄想に違いないのだ。
溜息:「あーあー、…」
俺は、キングサイズのベッドの上で、足元に侍らせた金髪の美女たちに下半身を任せて、…ぼーっと、甘いブランデーの匂いに溺れていた。
ここは、ドバイにある超高層ホテル、そのスィートルーム。
厳重なセキュリティもお構いなしに、「招かれざる客」が、訪れる。
とてもいい匂いのする女だ。
ワンレン、ボディコンの、まるで1990年代から抜け出してきた様な奇妙な女だ。でも、美人である事には違いない。
ラプラス:「一寸見ない内に、随分と暮らしぶりが変わったわね。」
倉持:「俺はお前の事を、知って居るぞ。…そうだお前は、…悪魔だ、俺に変な妄想を植え付けた悪魔だろう。」
ラプラスは、裸の女達を追いやって、ベッドの端に、腰かける。 …彼女のミニスカートの裾から、美しい太腿の付け根までが露わになる。
ラプラス:「貴方、深夜のオフィスでオナニーしているところを見つかった時の事、覚えてる?」
倉持:「ああ、他愛のない、俺の妄想だろう。」
ラプラス:「今日は、あれからちょうど7週間目よ、人間の観測できる時間の尺度によれば、だけれどね。」
倉持:「しかし、実際には、俺はそんな会社に務めた事は無いんだ。 子供の頃から人一倍優れていた俺は、金融バブルを綱渡りしながら楽に稼いで、20歳の頃には既に億万長者だったからな。 会社に勤めてみればきっと色々と面白い体験もできたんだろうが、実際にはそんな事はなかった、だからそれは、俺の妄想の一部に過ぎない。」
ラプラスは、にっこりと、満足げに微笑んで見せる。
ラプラスは、俺の手を取って、瞳孔の奥に、紫の炎を灯らせる。
ラプラス:「貴方は随分、上手に出来る様になったと思うわ、…そろそろ参加しても良い頃ね、」
倉持:「判っている、…「神々の戦争」の事だろう? 実は楽しみにしていたんだ。 もう、人間を虐殺する妄想には、飽き飽きして来た所だったからな。」
ほらだから、これは全て、俺の妄想に違いないのだ、…