エピソード004「輪廻する狂気」
俺は、呆気にとられていた。
だって、夢の中に出てきた女が、目の前にいたから、…
とてもいい匂いのする女だった。
ワンレン、ボディコンの、まるで1990年代から抜け出してきた様な奇妙な女だ。でも、美人である事には違いない。
女は、まるで夢と同じ様に、炬燵テーブルの座布団の上に膝を崩して、夢と同じ様ににっこりと微笑んだ。
倉持:「えっと、アンタは、…」
俺はこの女を知っている、…筈が無いのだ。
ラプラス:「過去へ戻る方法は解りましたか? それほど難しくは無いでしょ?」
そんな筈は無いのだ。…過去に戻るなんて事は現実には有り得る訳がない。
ラプラス:「そんなに難しく考える必要は無いんですよ、現在も、過去も、未来も、広げてみれば同じ本の中のページが違うだけの事で、何処から読むのかは読者である貴方が自由に選ぶ事が出来るんです。 流石に体験した事の無い未来のページは現在との繋がりが理解しにくくて混乱しますが、一度読んだ事のある過去のページに遡って本を読み直すのは、さほど難しい事では無いんですよ。」
いつの間にか、俺の全身は冷たい脂汗に塗れていた。
まさか、まさか、まさか、本当にこの女は悪魔の一種で、本当に俺は、過去に戻ってきたと、…言うのか?
いや、馬鹿げている。
冷静かつ理性的な俺の見解はこうだ、この女は、何らかの方法で俺を惑わせて、騙そうとしている。
恐らく、悪質な詐欺か、…
ラプラス:「心配しなくても倉持さんを騙したりしないわ、まあ、幾ら言ってもその疑り深い性格は変わらないのでしょうけれど、折角手に入れたその能力をきちんと理解して使える様になってもらいわないと、「神々の戦争」で十分に戦えなくて困るわね。」
倉持:「俺は、騙されないぞ。」
女は、テーブルの上に頬杖をついて、妖しく微笑んだ。
ラプラス:「そうね、何度か繰り返して能力を使ってみるのが、良いかもしれないわね。…倉持さん、今晩、青山優梨愛を襲いなさい。会社の帰り道に待ち伏せして、暗がりに引きずり込んで、無理矢理強姦するの、そうね、なんなら殺しても構わないわ。」
この女、一体何を言ってるんだ?
そんな馬鹿げた事をすれば、俺はただ単に破滅するだけだ。 会社で警備員にオナニーを見られた所の騒ぎじゃすまない。
倉持:「何を、馬鹿な事を、…」
ラプラス:「言ったでしょう、貴方はもう、私の命令には、逆らえないの。 その事実も、身を持って知る必要が有るわ。」
そして気が付くと、俺は、夜の、どこかの倉庫街の狭い路地裏で、息を荒げていた。
一体、何時の間に、こうなった?
俺は、冷たい夜の大気に下半身丸出しにして、…ヌルヌルした緩い液体に一物を濡れそぼらせて、…俺の足元には、…息も絶え絶えの、青山優梨愛が横たわっていた。
倉持:「ああ、…」
青山:「たす、けて、…」
何で、こんな酷い事になった?
優梨愛の可愛らしい貌は、見る影も無く、腫れあがり、唇と頬の一部が、…食い千切られている。
強引に破り裂かれて肌蹴たブラウスから零れた、柔らかそうな膨らみは、…その頂を深く無残に抉られて、流れ続ける赤い体液で塗りたくられていた。
無意識に拭った俺の口元が、ぬるりと赤い鉄の味で、…濡れている。
一体、誰が、こんな酷い事を?
青山:「お願い、します、…殺さない、で、…」
その、憐れで、可愛らしい声を聴く度に、むらむらと、言いようのない殺意と、恍惚感が、漲ってくる。
ラプラス:「貴方、余程、鬱憤が溜まっていたのね、」
振り返ると、背後のフェンスの上に、あの悪魔(=デーヴィー・ラプラス)が、腰かけていた。
倉持:「お前が、やったのか?」
ラプラス:「貴方が、やったのよ。 やりたかったんでしょ? ずっと、その女を、こんな風に滅茶苦茶にしたかったんでしょう?」
ラプラスの瞳孔の奥に、紫色の炎が灯る。
違う、こんなのは、何かの間違いだ、陰謀だ、有り得ない、…
ラプラス:「でも、言い逃れは難しいわね、だってその子のお腹の中、貴方の「印」で満たされちゃってるもの。どうしたって、殺したってばれるわ、もう隠しようがない。」
倉持:「やめろ! …黙れ! お前が、全部お前の所為だ! 俺は、…悪くない!」
だって、俺は、全く、全部、…覚えている。
優梨愛の暖かさも、柔らかさも、強烈な恐怖の匂いも、絶望の悲鳴も、…滴る、血の味も。
ポタポタト、興奮の余りに鼻から零れ落ちる俺の鼻血が、乾いた唇を湿らせる。
倉持:「そうだ、お前が命令するから、俺には、逆らえないから、俺は、…悪くない、」
ラプラス:「そうね、でも、きっと誰も信じてはくれないわ、」
そうだ、こんな事が現実である訳がない、あの時と同じだ、全部ストレスが原因の、悪い夢に決まっている。
ラプラス:「ちゃんと覚えている? どうすれば、過去に戻れるのか?」
どうすれば、現実に戻れるのか、、
俺は、冷たいコンクリートの上に転がっていた優梨愛のパンプスを拾い上げて、その甘酸っぱい匂いを、鼻腔一杯に行き渡らせた。
ウットリと、目を閉じて、
そうだ、こんな事は全部、悪い夢に、…決まっている。
警備員:「もしもし、あんた、…大丈夫かね?」
じわじわと、立ち眩みから解放される様に、俺の現実に、血が通い始める。
ほら、俺は、真っ暗な深夜のオフィスに、…戻って来た。
女物のパンプスに鼻を突っ込んで、…ズボンからはみ出した一物を握り締めた、ミットモナイ格好で、…