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スクラップ・スピリット(聖霊屑)  作者: ランプライト
第1話「時を超える聖霊」
3/10

エピソード003「時間を遡る能力」

勿論、こんなイカレタ女の言う事を真に受けた訳ではない。 俺はどちらかと言えば冷静な人間なのだ。

落ち着いて考えてみれば、この女が俺を殺害もしくは社会復帰できない様な重い後遺症に陥らせる事に何らかのメリットがあるとすれば、考えられる事は、、


(1)この女はコソ泥で、俺を行動不能にした後、部屋の中を物色して金品を盗む

(2)この女は狂っていて、兎に角他人が苦しむ姿を見たくて堪らない

(3)この女はテロリストで、何らか別のもっと深刻な犯罪を隠蔽する為のデコイにする


その場合、この女が犯人で有る事をなんらか公にする手段と引き換えに薬を飲む事にすれば、そんなリスクを冒してまで俺に危害を加える可能性は極めて低くなるとも考えられる。


倉持:「なあ、薬を飲む前に、お前の写真を撮って、知り合いにメールしても構わないか?」

ラプラス:「良いですよ。」


やけにあっさりとOKしたな、…つまり本当に、この薬を飲んでも女が警察に捕まるような事態は起きないと、そういう事なのだろうか?


俺は、携帯電話を取り出すと、にこやかに微笑む女の色っぽい上半身の写真を撮影して、…


本文:「今からこの女の持ってきた薬を飲む、もしも俺の身に何か起きたら、この女が犯人だ。」


田舎の父親宛に、メールを送信した。


ラプラス:「それでは、宜しいですか?」

倉持:「なあ、アンタ、仮にその薬が本当に時間を遡れる能力を授ける薬だとして、こんな事をして、一体アンタにどういう得が有るって言うんだ?」


俺は漸く、女の掌からタブレットを摘みあげた。


ラプラス:「倉持さんの魂を頂きます。」


勿論、魂なんてものが存在するなんて信じちゃいない。 俺はどちらかと言えば理性的な人間なのだ。


倉持:「それで魂を取られたら、俺はどうなっちまうんだ?」

ラプラス:「魂を失っても倉持さんの記憶や意識は元の侭なので、普通に生活している分には何の変化にも気づかないかも知れません。 魂を失った人間の顕著な変化点は二つあります、まず人間的な成長や堕落、心変わりが出来なくなります。 そして使役する天使や悪魔の命令には絶対服従する事になります。 つまり私の忠実な下僕となるのです。」


この色っぽい女の奴隷になる、…つまりそういう事なのか?


ラプラス:「その代償として倉持さんは人智を超越した能力を手に入れる事になります。 まず「殆ど不老不死」になります。 それから「過去に遡って人生をやり直す事が出来る」様になります。」


不老不死だと?…ますます怪しい、有り得ない、


倉持:「聞いてれば、良い事尽くめじゃないか、それでアンタの奴隷になって、アンタは俺に何を命令するつもりなんだ?」

ラプラス:「倉持さんは私の使役する「聖霊」になって、私の指示の下で「神々の戦争」に参加してもらう事になります。」


つまりそういう事か、要するにこの女は、若い連中の間で流行っている「中二病」という奴な訳だ。

何を、どんな風にこじらせれば、こんな気の毒な女が出来上がるのかは知らないが、俺にとっちゃ好都合とも言える。


この女に洗脳されて、この女の命令に逆らえずに、昨晩の奇行に走った、…つまりそういう説明だろう。


倉持:「分かった。 もう十分だ。」


そう言って、俺は白い錠剤を口に放り込むと、唾と一緒に一息に飲み込んだ。


ラプラス:「おめでとうございます、これで契約完了です。」


特に、変わった事は、何も起きない様だった。 まあ、当たり前と言えば当たり前か、

それでも、ギリギリまで心配していた苦しみとか痛みとかも無さそうで、一寸ほっとしている。


俺は、晴れ晴れした気分だった。

自然に、陽気になって、口元から薄ら笑いが零れてくるのを、止められない。


倉持:「それで、教えてくれよ、どうすれば「過去に戻れる」んだ?」

ラプラス:「強く、五感を手繰るのです。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、何でも構いません。 その時の感覚を強く思い出すのです。そうすれば、…」


俺の脳髄に、クラクラする様な女の足の匂いが、甦って来た。

ウットリと、涎が垂れるのにも気付かない程に茫然と、やがて立ちくらみの様な一瞬の真っ白な瞬きの後に、…





気が付くと、俺は、真夜中25時過ぎのオフィスに居た。


倉持:「あ、…」


俺の手には、青山優梨愛のパンプスが握られている。


倉持:「え、…」


次第に意識がはっきりとしてきて、…俺は、納得する。

そうだ、俺は、変な夢を、見ていたんだ。


警備員:「もしもし、あなた、…大丈夫ですか?」


幸いな事に現実の俺は、オフィスの暗闇に紛れて一物を取り出すなんて馬鹿げた奇行に走ったりは、しなかった。

俺は、こっそりと、優梨愛のパンプスを、元に戻した。


倉持:「あ、ああ、ちょっと、立ち眩みがして、…少しじっとしていれば、大丈夫。」

警備員:「こんな遅くまで、働き過ぎですよ、仮眠できる所へお連れしましょうか?」


警備員は、心配そうに俺の背中をさすって、それから俺を、椅子に座らせてくれた。


倉持:「いや、もう大丈夫ミタイだから、…そうだな、ちょっと最近忙しかったからな、」

警備員:「気を付けて下さい。身体あってのモノダネですよ。」


その後俺は、やり直しの仕事も放置の侭で、体調不良で休む旨のメールを上司にシタタメテ、気の毒な善人の顔をして会社を後にした。





気が付くと、既に時計の針は朝の8時を回っていた。

肌蹴たワイシャツの侭で湿った布団に包まった格好で、それなのに何だか、すがすがしい気分だ。


呼び鈴:「ピンポーン!」


不意に、玄関の呼び鈴が鳴った。


まさか、俺を責める理由など、どこにも、これっぽっちも無い筈なのに、…

恐る恐る、小さな除き穴から、外の様子を伺ってみる。


其処に映って居たのは、…朝っぱらだと言うのに色っぽい、一人きりの女だった。

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