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友の頼み事

スティールはウィスキーが入った瓶を持ち、自分のグラスに注ぐと、そのグラスを手に持って口元へ近付けて喉へ流し込む。

「ところで、グライムズ。お前さんに頼みたいことがあるんだが、いいか?」

スティールはグラスをおく。

「俺に?」

スティールは頷く。

「実はな。俺が育てているヴァンパイア・スレイヤーをお前さんとお供させたいんだよ」

グライムズはグラスの中に入ったウィスキーを喉に流し込んで、

「お前は確か酒場の店主だよな。酒場を経営しながらヴァンパイア・スレイヤーを育成しているのか?」

グラスをおく。

グライムズの質問にスティールは頷く。

「表向きは酒場の主人さ。だが、裏ではベネット様と同じくヴァンパイア・スレイヤーを育成しているのさ。意外だろ?」

スティールはニッと笑う。

スティールはもう現役ではない。今は酒場を経営する身であるが、その一方ではヴァンパイア・スレイヤーを育成していたのだ。

「ならばこの酒場はヴァンパイア・スレイヤーのアジトって訳か?」

「まあね。俺の店の従業員のほとんどがヴァンパイア・スレイヤーだよ」

従業員の全員がヴァンパイア・スレイヤーという訳ではないが、この酒場でつとめる従業員のほとんどがヴァンパイア・スレイヤーであった。

「ところでグライムズ。俺の頼みは聞いてくれるか?」

「それは構わないが、何名だ?」

「というと?」

「何名ほどお供させればいいかってことさ」

「二名だ」

「二名か…」

グライムズはその二名を自分のお供にするのは全然構わないのだが、しかし問題が一つだけあった。

「俺は構わないが、問題はトラヴィスだ。いくら俺か承諾したってトラヴィスが承諾しなければ話にならない」

今のトラヴィスはクレアの始末することに焦っているところがある。

それを刺激するかのようにローリーが出現し、更に焦っているのは事実だ。

その二名がキャリア不足で自分達の足を引っ張るようなことをすればトラヴィスの怒りが爆発するやも知れない。

「俺一人ならば全然構わないんだが、手のかかる坊主(トラヴィス)がいてね。ま、できるだけあいつを説得してみるよ」

グライムズは席から腰を上げた。

「ありがとうよ。だが、無理ならば無理でいい」

スティールは礼を言う。

「その前に一つ。聞きたいことがある」

「何だ?」

「お前はなぜその二名を俺達と同行させたいんだ?」

そのグライムズはその訳を尋ねる。

スティールの元で指導を受けているのならば俺達と同行させる必要はないんじゃないのか。

スティールはその訳を話した。

自分がベネット並みの実力者ならばそんなことをグライムズに頼まなかったが、三流な自分の元でいつまでも鍛練をさせるよりグライムズ達と同行させた方が彼らはより実力をつけるのではないか、と思ったのだ。

スティールの話を聞いたグライムズは軽く笑みを浮かべる。

「お前は三流なんかじゃない。これ以上、自分を『三流』だなんて見下すな」



「トラヴィス…」

誰かが自分を読んでいる。トラヴィスは人気のない草原に一人立っていた。

見覚えのある場所だ。ここはクレアと最後に過ごした草原であった。

そして、自分の目の前にはクレアが立っていた。

「クレア…」

自分の目の前に見えるクレアは俺と初めて会った時のクレアであった。

「クレア…。君なのか…?」

トラヴィスはクレアの方へ歩み寄る。すると、クレアの目から涙がこぼれる。

「トラヴィス…。ごめんさない…。貴方を偽って…」

クレアは自分の正体を偽ってトラヴィスに接していたことを詫びる。

「クレア…」

トラヴィスはクレアを抱き締める。

「謝らなくていい。謝らなくていいよ…。だから…」

夢の中でクレアと再開したトラヴィスはクレアの名を呼びながら泣いた。

「クレア…。俺は君を殺したくはないんだ…。クレア…」

トラヴィスはクレアの名前を言いながら泣いた。

すると、トントンとドアを叩く音にトラヴィスは目を覚ました。

目から流れる涙を拭い、体を起こすと、

「誰だ?」

頭をドアの方へ振り向ける。

「俺だ。グライムズだ。入っていいか?」

声の持ち主はグライムズであった。

「ああ、いいよ…」

ガチャリとドアが開き、グライムスは室内へ足を踏み入れる。

「何か用か…?」

トラヴィスは弱々しく尋ねる。

「何か遇ったのか?」

「クレアの夢を見たよ」

「そうか」

「なあ、俺はどうしたらいい?」

「というと?」

「出来ることならば俺はクレアを殺したくはない。だが…」

グライムズは優しい笑みを浮かべると、ベッドの上に腰を下ろし、

「全く…お前は手のかかる坊主だな。なあ、お前はクレアのことを考えすぎなんだよ。お前は今、一人か。俺がいるだろ。一人で背負い込むな」

トラヴィスの背中をポンと優しく叩いた。グライムズの優しい言葉にトラヴィスは何だか気持ちが和らいだ。

「今更だがね。ほんと、あんたがいてくれて良かったと思っているよ。こんなことを言うのもナンだけど、あんたは俺にとって父親みたいな存在に思える」

「俺もお前が息子の様に思える。それも手のかかるヤンチャ坊主だ。さて、トラヴィス。これからは親父のみならず兄弟が増えるぞ」

「どういうことだ?」

グライムズはスティールの頼み事をトラヴィスに話した。

「スティールは自分が育てたヴァンパイア・スレイヤーを俺達に引き取ってほしい、と言っているんだ。俺は引き受けるつもりでいる。後はお前の返答次第なんだ」

トラヴィスは頭を縦に振った。

「いいよ。仲間が増えることであの女よりも先にクレアを見つけ出せるかも知れないからね…」

トラヴィスはスティールの頼みを聞き入れた。

「初めは断ると思ったが、おまえがすんなりと承諾してくれてよかったよ」

その二名が自分達よりキャリア不足なのかどうかは未だ分からない。しかし、スティールの元で鍛練をつんだのだのだからそれなりの実力はあるだろう。

グライムズにとって新たな仲間が増えることはトラヴィズの支えとなり、そしてトラヴィスを更に強くさせるだろう、と思っていた。










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