女吸血鬼ハンター、 ローリー
トラヴィスとグライムズが座る席の近くの席で酒を飲んでいたローリーは、二人の会話に耳をピクリとさせた。
別に盗み聞きした訳ではないが、ローリーは二人の会話の中で気になることがあった。
ふぅん。なるほど。これは一つ尋ねてみるか。
ローリーは女性ながらも背は高い方で、また右目に眼帯をかけていた。
まるで海賊みたいな容姿で、その容姿通り血気盛んな性格の持ち主でもあった。
ローリーは席から腰を上げた。
「おい、あんた?」
ローリーは一人の女性従業員に声をかける。
「何か?」
「金は出す。向こうのお客さん方に肴を持ってきてやってくれよ」
「しかし、あのお客様方はそれを注文はしていませんが…」
「いいからさ。俺のおごりさ。金を払うのならば注文を承ってくれんだろ?」
「そうですけど…」
「よし、決まりだ」
ローリーはニッと笑って、女性従業員にその代金を支払う。
代金を受け取った女性従業員はカウンターの奥へ消えていった。
「あいつは自分のことを『三流のヴァンパイア・スレイヤーだ』と言っていたが、実際はそうでもない」
グライムズはトラヴィスにスティールのことを話す。
グライムズとスティールの関係は元々共に吸血鬼を葬った仲であった。
付き合いも長く、グライムズはスティールがかつてはどんなヴァンパイア・スレイヤーであるかを知っていた。
「一時な、俺はあいつを妬んだことがある。というのもあいつの方が実力は上だったからさ」
「つまりお前はスティールへの妬みをカテにここまで強くなったってことだな」
「まあそういうことだ。しかし、右腕の切断すらなかったら未だ未だヴァンパイア・スレイヤーを続けられた労な…」
すると、女性従業員が二人の席に肴のソーセージをおいた。
「失礼だが、肴を頼んだ覚えはないが…」
トラヴィスがそう尋ねた時であった。
「それは俺のおごりだぜ。お二人さん」
二人の前にローリーが姿を現した。
「あんたが?」
ローリーは頷く。
「気持ちは嬉しいが、しかし、俺達とあんたは初対面だ。なぜ初対面のあんたが俺達に肴をおごってくれるんだ?」
グライムズは尋ねる。
「細かいことは気にするなよ」
ローリーはその訳を話そうとしない。
「これも何かの縁って奴だぜ。お二人さん」
ローリーはニッと笑う。グライムズは席から立ち上がり、ローリーに歩み寄る。
「お前さんのご好意はありがたく受け取るよ。しかし、お前さんは一体、何者なんだ?」
グライムズの質問にローリーは、
「一口で言えば、あんたらと同じ身分さ」
答える。
「つまりお前さんはヴァンパイア・スレイヤーってことか?」
「いや、俺はヴァンパイア・スレイヤーではないぜ。俺は一匹狼の吸血鬼ハンターさ」
ローリーは一匹狼の吸血鬼ハンターで、そこは二人と共通しているものの、ローリーの場合は個人で吸血鬼退治を行っているのだ。
「これで分かったろ。俺は別に怪しい奴なんかじゃねえよ。それに俺はあんたらから聞きたいことがあるんだよ?」
「聞きたいこと。答えられることならば答えるがね」
「そいつはありがたいね。ならば本題に入ろうか。俺が聞きたいことは、クレアのことだ」
マズいな。今、クレアの件を出されると…。
グライムズはローリーがクレアの首を狙っていることを読んだ。
二人の会話を聞かれてしまったのだ。
「…失礼だが、クレアのことを知ってどうするんだ?」
グライムズは尋ねる。
「決まっているんだろ。あの女は俺にとっては敵役だからな。首をはねて親父にプレゼントしてやるんだよ。最高のプレゼントになるだろうな」
ローリー不適な笑みを浮かべる。
「悪いが、俺はクレアのことは知らない」
しかし、
「とぼけるなよ。俺はあんたらの会話を聞いていたんだだよ。俺にごまかしは通用しないぞ。なあ、多少のことでもいいから教えてくれよな」
ローリーは引き下がろうとはしない。何としてでもクレアのこと聞き出して、クレアを殺すつもりなのだ。
その時、グライムズの背後からガタンと大きな物音が聞こえた。
見ればトラヴィスが席から立ち上がっているではないか。
「どこの馬の骨だか知らないが、クレアの件で余計な首をはさむな!」
トラヴィスは声を張り上げた。