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ダメな俺

「俺はお前さんのことはよく知らない。だが、俺が見たところお前さんは俺よりも腕が立つ者だ」

スティールはトラヴィスの顔をジッと見ながら言う。

スティールはトラヴィスが自分より未だ若いながらも、自分以上に実力のあるヴァンパイア・スレイヤーだ、と読んだのだ。

「いや、俺は未だ未だ未熟さ。それと、あなたは自分で『三流のヴァンパイア・スレイヤー』だと言っていたが、俺はそうは見えないね」

トラヴィスはウィスキーの入った瓶を持ち、空のグラスにウィスキーを注ぐ。

「何でそんなことを?」

スティールは尋ねる。

「ベネット様の元で指導を受けていたんだろ。だったら三流なはずはない。俺にはそう思えるんだよ」

数秒ほどしてからスティールはフッと笑った。

「そう言ってくれるのは嬉しいが、しかし、俺は不注意で左腕を失うはめになったんだ。だから俺は三流だ」

トラヴィスはグラスを手に持って口元へ近付け、ウィスキーを喉へ流し込む。

「そういうなよ。あんたが自分で三流というのならば、俺は四流だ」

そうだろう。何せ俺はクレアが吸血鬼だということに気付かずに、共に行動していたのだ。

吸血鬼退治を専門とするヴァンパイア・スレイヤーが吸血鬼と共に行動をするなんて本来ならば許されないことなのだ。

随分(ずいぶん)と自分を悲観しているな」

「何せ俺はとんだ失態をおかしてしまったからな」

グライムズは、

「トラヴィス。やめろ。これ以上何も言うな」

自分の失態を話そうとするトラヴィスを止める。

グライムズは頭をスティールの方へ振り向け、

「なあ、スティール。お前と久し振りに昔話をしたいが、トラヴィスに重要な話があるんだ。悪いが、少しの間、席を外してくれないか?」

頼む。

「ああ、分かった。おっと、俺は経営者だからノンビリと酒を飲んでいる場合じゃねえな」

スティールは席から腰を上げて、その場から離れた。

グライムズはスティールの姿が見えなくなったのを確認すると、頭をトラヴィスの方へ振り向ける。

「おい、何もあのことを(スティールに)話そうとしなくてもいいじゃないか」

スティールは何もいやみのつもりで、自分のことを『三流』と言った訳ではないが、トラヴィスにはスティールの言葉がいやみに聞こえたのだ。

スティールが自信の右腕を切断するはめになったのは吸血鬼に腕を噛まれたためにやむを得ない処置であり、それはどんな腕利きのヴァンパイア・スレイヤーならば他人事なんかではない。

一方、自分ときたらクレアを正真正銘の人間と思い一晩過ごした宿では肌を重ね合わせ、その上に同じ仲間を裏切ったのだ。

人間のふりを演じていた吸血鬼と愛し合った関係になり、そしていっぱい食らわせられてしまったのだから俺は三流、いやダメなヴァンパイア・スルイヤーだ。

「三流か…。なら、俺はどうするんだよ…」

トラヴィスはボソリと呟く。

「誰もお前のことを見下してはいないだろ。急にどうしたんだ?」

グライムズはトラヴィスから怒りの気を感じた。

「なあ。お前の気持ちは分かるさ。だが、もう気にするな」

グライムズはトラヴィスをなだめる。トラヴィスは自身の怒りを抑えるためにグラスに入ったウィスキーを一気の喉へ流し込む。

「いいか。お前がやることは何だ。クレアのことばかり考えるな。今のお前はクレアの件を考えすぎている。クレアのことはあまり考えるな。いいな?」

グライムズはそう言ってくれるものの、トラヴィスはクレアにぞっこんだったあまりに他のことが見えていなかった自分が腹立って仕方がなかった。

ほんとはクレアのことなんか考えたくはない。

だが、スティールの『三流』という言葉を聞いて自分自身がはずかしくなったのだ。

あの時に戻れるのならば、戻って自分を止めてやるものの、時の流れとは実に冷淡なもので己の過ちをやりなおさせてはくれない。

クソめ…。

俺はこれからも自分の過ちに悔いなければならないのか…。

トラヴィスは空のグラスに映る己の顔を睨んだ。






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