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聞けばローリーが吸血鬼ハンターになった経緯は、まるで自分やトラヴィスと似ていた。
「俺の最終目標はノスフェラトゥを殺して、吸血鬼共を根絶やしにしてやることさ。だが、その前にクレアの首を取ってやる」
ローリーにとってクレアを含む吸血鬼達は憎むべき存在でしかない。
グライムズはローリーの話を聞いて、ローリーがそこまでしてクレアの首を狙う理由が理解できなくはなかった。
「俺にしてみれば親父は唯一の肉親さ。ガキの頃からにしてオフクロを亡くした俺を親父は男手一つで養ってくれた。親父はかけがえのない存在だったよ」
肉親を殺された者の恨みは深い。
ましてローリーの場合は男手一つでここまで育ててくれた父親を殺され、その上に己の手で殺さなければならなかったのだから恨みはかなり深いはずだ。
「とにかくだ。クレアの首を取るのは俺だ。それが親父への弔いだ」
ローリーは絶対に引かないだろう。ならばこの先もトラヴィスとやり合うことになるだろう。
自分達にとってローリーはある意味で敵という存在になるのだ。
グライムズはローリーの話を聞いてできれば彼女とは戦いたくはない、と思った。グライムズはローリーが吸血鬼ハンターになった訳を聞いて自分達と共感できるところがあったのだ。
「お前がクレアの首を取ろうが勝手だが、俺はできることならばお前とは戦いたくはない」
グライムズは本音を言った。
ローリーにとっては実に意外な言葉であった。
「確かにトラヴィスはお前を憎んでいる。だが、俺はお前が後々に俺達にとって必要不可欠な存在になると思っている」
グライムズの言葉にローリーは笑みを浮かべる。
「まさかそうやって言ってもらえるとは嬉しいね。しかしだ、いくらあんたがそう言ったって、あんたの連れ(トラヴィス)はそう思っていないと思うがね…」
たとえヴァンパイア・スレイヤーでなくともローリーは吸血鬼退治を専門とする人間であり、グライムズ達と手を組んでも悪くはない話である。
とはいえ、自分はトラヴィスから睨まれている状況だけにそれは難しい話でもあった。
「なあ、ローリー。クレアの件はひとまずおいて、俺達と手を組まないか。俺がトラヴィスを説得する。どうだ?」
悪くはない話だ。
だが、そんなことできる訳がない。
「そう言ってもらえるのは実に嬉しいね。だがな、今のところ俺はお前らと手を組む気はない」
今の時点でそうしたところでうまくいくとは思えない。
いくらグライムズがトラヴィスを説得するとはいえ、それでトラヴィスが承諾するとは思えなかった。
トラヴィスは自分を憎んでいる。
ならば手を組んだとしても仲間割れをするのが見えていた。
「あんたはわかっているかも知れないが、トラヴィスは俺を憎んでいる。吸血鬼並みにな。だったら組める訳なんかねえよ」
ローリーの言う通りトラヴィスは、 ローリーを吸血鬼並みに憎んでいる。今でも殺してやりたいと思っているはずだ。
「だから俺はあんたらとは組めねえ。だが、その方がお互いのためにいい。あんただって仲間が殺される姿なんて見たくはないはずだ」
正論であった。ローリーを仲間に引き入れたことで後々トラヴィスとローリーが血を流し合うのならば組まない方がお互いのために良い。
「そうかもな…。俺達は互いに組まない方が利口だな…」
「だからってクレアの首をあきらめた訳じゃないからな。クレアの首を取るのは俺だ。誰にも邪魔立てはさせない。あんたにもな」
ローリーは踵を返すとブリューワと共に足を動かし、その場から姿を消した。
二人の姿が完全に見えなくなると、グライムズは疲れたようにため息を吐いた。
「吸血鬼以上に厄介な奴が現れたものだ…」