理由
トラヴィスが剣を鞘に納めるのを見たローリーは、自分も剣を鞘に納める。何とか互いの血を流すことは防げた。
自分一人では二人をどうすることもできなかったジュリアはジャービスがこの場をおさめてくれたことにホッと胸を撫で下ろした。
「あんたは見ない顔だな。誰だ?」
ローリーはジャービスに尋ねる。
「僕はジャービスと申します。未だ青いヴァンパイア・スレイヤーですがね」
ジャービスはローリーに自分の名前を言う。
「ほお、ということはこいつの連れの一人ってことかい?」
「一口で言えばね。ところで貴方は?」
ジャービスはローリーに尋ねる。
「俺の名はローリー。ヴァンパイア・スレイヤーじゃないが、吸血鬼殺しを専門としている人間さ」
ローリーはジャービスに己の名を言う。
「…全く。こいつのおかげで獲物を殺し損ねてしまったぜ…」
見ればクレアの姿はどこにもなかった。どうやらトラヴィスとの戦闘中に姿を消したらしい。
「獲物?」
「教えてやってもいいが、またこいつと殺し合いになり兼ねないぜ。それでもいいのならば教えてやるよ」
ジャービスはそれだけはさけたいので、それ以上は聞かなかった。
「失礼だが、ローリー殿。この場から引いていただけないだろうか?」
「何だと?」
「どんな理由があれ、あなた方が互いの血を流すのは無意味だ。何の得にもなりはしない」
ローリーはジャービスの言葉に二十秒ほどしてからフッと笑った。
「そうだな。死んでしまっては元も子もないからな。この場は引いてやるよ」
ローリーはジャービスの言葉を聞き入れ、踵を返すと足を動かした。
意外だったな。まさか三人も仲間を得ていたとはな。
だが、そんなことは関係ねえ。クレアの首を取るのは俺だ。あいつらも俺の目的を妨げるのならば容赦なくあの世へ送ってやる…。
村で一人待機していたグライムズは森からトラヴィス達が出てくるのを目にして、足を彼らの方へ走らせた。
「三人とも大丈夫だったか?」
ジャービスとジュリアは頭を縦に振るが、トラヴィスは何も答えずにその場から離れた。
グライムズはトラヴィスのそっけない態度に「森の中でクレアと遭遇し、おまけにあの女とも遭遇したんだな」と読んだ。
「二人とも。ご苦労だったな」
すると、トラヴィスは足を止めて踵を返すと、足をジャービスの方へ歩ませる。
「ジャービス。今晩、お前と二人だけで話をしたい。いいな?」
トラヴィスはジャービスを睨む。
「何よ。あんた、ジャービスのことを咎める気なの。ジャービスが止めてくれたからこそあんたは無事だったのよ!」
ジュリアはトラヴィスに意見をする。確かにローリーとの戦いをジャービスが止めていなかったら、どちらかが血を流していたことになっただろう。
しかし、トラヴィスにはジャービスの行為が単なるおせっかいにしか思っていなかった。
トラヴィスはジュリアの抗議に答えなかった。
「何とか言いなさいよ!」
ジュリアは自分の質問に答えないトラヴィスに声を張り上げる。
「やめるんだ。ジュリア!」
ジャービスはジュリアを止める。
「けど…」
グライムズはジュリアの肩にポンッと手を乗せる。
「大丈夫だ。ジュリア。あいつは見かけによらず肝が座っている。何も心配はいらない」
外は暗くなり、宿の一室でトラヴィスは一人ベッドに腰を下ろしていた。
この部屋にはグライムズと泊まっていたが、グライムズはジュリアを誘って村の酒場へ行っていた。
恐らく俺がこれからジャービスと話し合いをするのだから気を遣って出ていったのだろう。
にしても苛立ちがおさまらない。
脳裏なあのゴロツキの顔ばかりが浮かぶ。チクショウめ!
すると、誰かがドアをノックした。
「誰だ?」
トラヴィスは尋ねる。
「ジャービスです」
声の持ち主はジャービスであった。
「入れよ」
トラヴィスはぶっきらぼうに言うと、ドアがガチャリと開き、ジャービスが室内に入った。
「安心しろ。俺は何もお前に難癖を付ける気はない。俺がお前をここへ呼んだのは、お前に聞きたいことがあるからだ」
「聞きたいこと?」
トラヴィスは頷く。
「何故、あの女との戦いによけいな首をはさんだ?」
トラヴィスはジャービスが、ローリーとのけんかに首をはさんだことに腹を立てていた。
「あのまま彼女とやり合っていれば、両者ともただではすまなかった。もしくはあなたの命がなかったかも知れない…」
確かによけいな首をはさんだかも知れない。だが、あの時の二人は冷静さを失っており、下手すればどちらかが死んでいたというのがジャービスには見えていた。
それはトラヴィスかローリーのどちらかということだ。
「俺があのゴロツキ女に殺されていたかも知れない、とでも言うのか?」
ジャービスは頭を縦に振る。
「僕はあなたの実力は本物だと認めています。だが、これだけは言えるのが、あのローリーって女も我々と引けを取らないほどの実力の持ち主だということだ」
ローリーはヴァンパイア・スレイヤーではないが、それでもヴァンパイア・スレイヤーのトラヴィスと互角にやり合ったのだから、それだけもローリーがただ者ではないという証拠だ。
「一つ聞くが、俺が何故ローリーを本気で殺そうとした訳を知っているか?」
無論ジャービスがその訳を知るはずがない。
「知るわけないよな。ならば話してやるよ。俺はある目的を果たさなくてはならなかった。それをあの女が妨害したのさ…。だから…」
トラヴィスはその訳を話した。クレアのことを含めて。