魔法少女。
だんだんめんどくさくなってきました
その光は、或る朝、僕の靴箱になんの脈絡も無く現れた。
「ブレスレット?」
それはブレスレットだった。シンプルな装飾のない銀色のブレスレット。メーカーも製造場所も一切刻印されていない。お祭りの屋台に300円とかで売ってそうなチープなブレスレット。
それと、封筒が一つ。封を切ると中には一枚だけ便箋が入っている。
『このブレスレットは魔法のブレスレットです。このブレスレットを右腕につけて、左胸に当て、ネメシスチェンジと唱えると、たちどころに魔法少女に変身します』
「魔法少女?」
何か質の悪い悪戯だと思った。しかし僕はその反面、本当に魔法少女になれたらどんなにいいだろうとも考えた。魔法少女になれたら、僕を裏切った香織を殺すこともできるのだろうか。
「ネメシスチェンジ」
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「何、風癒。わたし忙しいんだけど」
放課後、何も知らない香織はのこのこと屋上までやってきた。
「ごめんね香織」
僕は笑ってしまいそうなのを堪えて申し訳なさそうに言った。
「でも、香織」
「何、わたし早く帰りたいんだけど」
「ううん、香織。香織は永遠に帰れないよ。」
右腕のブレステットを左胸に当てる。
「ネメシスチェンジ」
僕は魔法少女に変身した。
魔法少女といってもアニメに出てくるようなフリフリの服を着たピンク色の髪の美少女ではない。
闇色のドレスはところどころビリビリに破れ、髪はボサボサで色素の抜けた白。眼は血のように赤い。魔法少女というよりは魔女と言ったほうがしっくりくるような風貌だ。
「ちょっと、風癒。なにそれ……。コスプレ?」
香織は事の重大さをまだ分かっていないようだ。
「楽には殺さない」
僕は左手を開いて前に突き出す。
するとどこからともなく黒い蔦が現れる。蔦は香織を見つけるとその四肢を捕まえる。
「ちょっと何よこれ!?」
香織は自由を失った手足に力を込める。しかし蔦を振り払うことはできない。
当然だ。これはただの蔦ではない。これは魔法の蔦なのだ。
「い、痛っ! ちょっと風癒?これあんたの仕業なの?」
「そうよ」
蔦はゆっくりと香織の四肢を左右に広げる。
「ゆっくりと裂けていってね」
「嫌だ、痛い! 痛い!」
香織は泣きながら首を振っている。愉快だ。
「ごめん風癒、ごめんごめん」
「今更謝ってどうするの」
「許して、お願い」
香織が僕に助けを求めている。優越感。
喧嘩をしたとき、いつも香織は『自分は悪くない』と決して謝らなかった。
どちらに非があろうとも謝るのはいつも僕。
かわいそうな僕。
「しんじゃうしんじゃうよ!」
「死ねよ」
僕は口元が両端に上がっていくのを気にせずに蔦を操った。
蔦を追加して香織の体を弄ぶ。蔦がへそから、耳から、鼻から体内に侵入する。もちろん口からも。
「ん”ー!」
体の中が押し広げられて内臓が潰れていくのはどんな感じだろう。
「死ね!」
パン。
弾けた。
血が、肉が、目が、耳が、鼻が、髪が、胃が、腸が、肺が!
あらゆる臓器が、あらゆる器官が!
バラバラにぼどぼどと屋上の熱されたコンクリート床に降り注ぐ!
快感!愉悦!歓喜!乾季!喚起!
もっともっと血を人を肉を!
流せ!殺せ!ブチマケロ!
もうちょっとで終わりです