チェックメイト
紙芝居屋は前後がない話をするのが好きなようです
ここは市立○○小学校。今日も始業のベルが鳴る。
「きりーつ、れい」
ベルが鳴ったら授業が始まって、ベルが鳴ったら授業が終わる
「ちゃくせーき」
同じことの繰り返しに飽き飽きしていた。
昨日までは。
「明日からいよいよ夏休みです。夏休みだからって家でゲームばっかりしてないで、お外
でも遊んでくださいね。それから宿題もきちんとやってね」
担任の若い女教師の『宿題』という言葉に対してブーイングが起こり、やがて」教室が
ブーイングでパンパンになる。
物質化したブーイングは教室の床が支えきれる限界の質量を超え、床が抜ける。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
クラスメイトたちは真っ逆さまに落下していく。ここは3階だ。ブーイングが2階の床
も突き抜けるとしたら、彼らの命はここまでだろう。
僕はそれを眺めながら僅かに残された教室の床に立っていた。
教卓のあったほうを見ると、悪魔の羽の生えた担任が宙に浮かんでいた。
「ほう……一匹残ったか」
さっきまで優しい笑顔を振りまいていた担任教師の顔が歪む。彼女が黒幕か。
「一週間前から起っている怪事件はお前の仕業か!?」
「ほう……詳しいな小僧。貴様、何者だ?」
ポシェットから短剣を取り出し、小指を軽く切る。
「こういうモノだ!」
小指から滴った血が床に落ちた瞬間、そこから騎士の駒が生じる。
「貴様・・・…王か!?」
悪魔(担任)は駒を見て後ずさる。といっても、浮遊している状態に対して後ずさると
いう表現が妥当かは怪しいところだが。
「ご明察。やれ、騎士!」
血でできた馬は空中を自在に浮遊して、それに乗る騎士は、槍を悪魔めがけて振りかぶ
る。
「やられる!?この私が?」
悪魔は信じられない、というような口調で顔を恐怖で歪ませて、これから訪れる消滅の
時を待つ、かのように見えた。
が、次の瞬間、消滅したのは血でできた騎士の駒だった。
ブシャア。僕の血のりが黒板に飛び散った。
「甘い!甘い!ガトーショコラより甘いわ!私はお前が今まで倒してきた低級魔なんかと
は格が違うんだよ!」
悪魔は僕の目前まで飛んでくる。逃げようにも、廊下に出るドアはブーイングでふさが
れ、逃げられる床も残っていない。
「ビビらせやがって……。貴様もまだまだひよっ子プレイヤーってところだな。」
悪魔は気味の悪い笑みを浮かべてこう言った。
「チェックメイト」
悪魔の右腕が振り上げられる。
ブシャア。
僕の血のりが飛び散った。そしてそれは赤い鎧を纏った少女の姿に変わる。
「女王の駒だと!?」
僕の出血が致死量を超えないうちに彼女は形成され、悪魔の攻撃を弾き飛ばした。
「王、次の指示を」
「自我を持った駒だとぉ・・・」
悪魔は女王が攻撃を弾き返した衝撃で黒板に背面をめり込ませていた。そして驚愕した
恐怖した。
己の知らぬ駒の存在に。そして、未知の駒を持った見知らぬ王に。
「やめ・・・…殺さないで!」
命乞いをする。醜く、汚く、穢れ、喚き、血を流しながら。
「女王、」
僕は体躯に残ったすべての血液を沸騰させるほど全力の大声で叫んだ。
「チェックメイトだ!」
夏休みは、まだはじまっていない。