僕と紙芝居屋
物語が始まるとき、そこには必ず導入があり、起承転結がある。僕の人生は妊娠という前兆のあと始まり、起承結はあれども、転はない。転がない物語など面白くもなんともない。僕の物語は欠陥品だ。ずっとそう思って生きてきた
ある夏の日、夜道を歩いていると、公園に月の光に照らされて青白く光るものがあった。近づいてよく見ると、それは古臭い紙芝居舞台だった。
「君にはそれが光って見えるのかい?」
声は上から聞こえた。僕が空を見上げると声は笑った。
「ここだよ」
声の主は僕の肩を叩いた。どうやら後ろにあるジャングルジムの上にいたようだ。
「僕は紙芝居屋だ」
振り返って見ると、紙芝居屋は浴衣を着た自分より幼い子供だった。顔は、狐の面を被っていてわからない。しかし、なんとなくにたぁと笑っているような気がした。
「光ってみえるよ」
僕はようやく質問に答えた。紙芝居屋はその答えを最初から知っていたのだろう。だから答える必要はなかったかもしれない。紙芝居屋は満足げにそうだろうそうだろうと頷くと、紙芝居舞台を自転車の荷台に立てて、紙芝居の準備を始めた。小さいころに見た彼ではない紙芝居屋を思い出した。
そしてしばらくして準備を終えた紙芝居屋は言った。
「完結した物語を君にも少しだけのぞかせてあげよう」
これから始まる物語は『転』の物語だ。それまで平平凡凡な生活を送ってきた彼らの『転』の話だ。学校という空間、閉ざされた世界の中で彼らは何を見るのだろうか。変化なき日常に何を望むのだろうか。