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応急処置

「生きてっかー」

 ガランドウの廃墟に、随分と冷静な声が響いた。メグミがその声に気づき、「イザヨイさん」とその主を呼ぶ。 

 「おう、イザヨイ様とは俺のことだ。状況は……聞くまでもなさそーな」

 「負傷一名。緊急の治療を。他は……」

 メグミはそのまま、唇を噛み締め、視線を動かした。

 「死んだか。ま、蒼穹の名は十分に立ってんじゃねーの。RPGで言うボス相手に、死亡者0にするならそれなりにレベル上げが必要なもんだ。トラップも有りと着たら、十分に真っ当した方だと思うけど」

 しっかりとした足取りに、瓦礫が踏みしめられて甲高い音を奏でる。

 「……死んだ者の意思は背負います。それが私のやり方ですし」

 「相変わらずのロマンチストだなー。そのうち身を滅ぼすぜ。もっとポジティブにだな」

 「楽観的すぎるのも、どうかと思いますが」

 「ったく、ギルド『バロック』ぁ何やってんだかな。どんな目論見があるのかはしらねーけどよぉ、調査中のトコに勝手に踏み入って勝手に死なれても目覚めがわりーぜ」

 イザヨイはそう言いながらも、シュンの元へ足を運ぶ。

 「自分で言っといてあれだけど、ストーキングしててよかったわぁ。なんつーの、もっとこう、ラブコメ展開を希望してたんだけど、そりゃもう、カバーっとおそっちゃうシーンとかもあれば尚良しだったんだけど、功労者はいたわらないとな。レイ、邪魔」

 眼から滝のように流すレイを、イザヨイは横に押し退いた。そして徐にシュンのポケットに手を入れる。

 「ここーうっげ、玉さわっちまった。こっちか」

 シュンのブックを確認する。

 「BG危険領域。MGも危険領域。危険ってことはまだ助かるな。メグミ、ヘルプメッセージで何人は来れそうだ?」

 「返信あったのが、5名ほど」

 「十分。腕がぶっ飛んでる時点で止血だ。後は時間との勝負だな。火石持ってる奴はぁいねーか?」

 「俺が持ってる」

 リュウは、自身のブックを操作し始める。

 「上等。さっさとよこせ」

 「は、はぁ」

 「レイとメグミは入り口付近で待機。一匹たりとも化物を通すなよ」

 「は、はい」

 「いや……っ」

 「レイさん、行きましょう」

 「それが、シュンさんの為だと言っても……ですか?」

 その言葉にピクン―と反応したレイは、陽炎のように揺らめきながら立ち上がった。その様子を視界の端で捉えたイザヨイが、「おら、斧使い、さっさと火石出せ」と声を荒げる。

 耐火性のグローブをはめながらそれを受け取ったイザヨイが、何かを確かめるようにしながら、

 「おし、じゃあそこの2人は退却経路の確保に徹底しろ。いいな?」

 と、リュウとハルカに指示を出した。

 「は、はい!」とハルカは返事をして、リュウを引っ張りながら扉へ向かっていった。

 「わりぃんだけどな、お前に死なれちゃまだ困るわけよ。シュン」

 自身のブックから鉄板を取り出したイザヨイは、火石でそれを熱し始める。徐々に赤く染まりつつあるそれを見つめながら、

 「死んじまった方が、楽なのかもしんねーけどさ」と呟いた。

 オレンジ色の色彩を放った頃合を見計らって、シュンの千切れた腕へ鉄板を押し込んだ。肉が激しい温度で焦げ、周囲に臭いが立ちこむ。

 イザヨイは、眉間に皺が寄るほどにその異臭に耐えながらも深く、深く押し込んでいく。冷静に、できうる限り冷静に応急の処置を続けていく。

 「そろそろ、いいか」

 大体の感じで鉄板を離すと、焼け焦げた腕の具合を確かめる。確かに流血はしていない。

 「乱暴な方法だが許せよ。こうでもしねーとBG減少し続けるからな。氷石で冷却、という手段もあったのかもしんねーし、腕を縛って上腕部を上げる、とか一般的な方法もあったかもしれねーけど、ドクターの自動手術に任せてしまえば完治が可能だ。俺自身が実践しているから安心しろ」

 謝るように呟いたイザヨイは、ブックからポーションを取り出し、シュンの体を垂直にして気道を確保するようにしながら、瓶ごと口内に突っ込んだ。意思を失っている関係上、口内で留まるはずが無い。喉奥まで一気に。そうして無理やり身体の活性化を図り、僅かでもBG回復に専念させようとする。

 「応急の処置はこんなもんか……」

 イザヨイはゆっくりとシュンの体を担ぐ。

 「あぁ、忘れてった」

 他の4名がシュンに気を捉えている間に、出現していたクリスタルに銃口を向け、トリガーを引く。

 「後1ヶ所。1ヶ所で、本当の地獄が始るわけーか」

 意味深に目を伏せながら、イザヨイは1人呟いた。

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