アビリティ
シュンは自分に言い聞かせた。
コントロールしろ、無理でも何でもやり遂げるしかない――と。
どのような配分で構成されるのか、どのような経緯で覚醒に至るのかも未知数である。
それがアビリティ。固有のパーソナルスキルと呼ばれるものであり、MGを消費するという点はスキルと同等であるのだが、
如何せん癖が強い。アビリティは、発音型で発動させるパターンと、ブックをタップするパターンを選ぶ事ができる。
シュンはアビリティ発動条件を『発声』にしていた。
「ブラッディ・クラウン」
血が、赤黒い血が浮遊、刀の触媒となってリーチを更に、長く、更に鋭くと増していく。
同時に『敵』と認識したギガンティックスカルに対し、地面から血の槍が発生し、四肢を固定させる。
体外に排出された自身の血液を操る能力。それが『ブラッディクラウン』なのだ。
シュンの固有スキル、である。
血に濡れた王冠。
その名の如し。
罪の意識が血を操り、武器に付着。切先が微動する血の刃が加わるって、刀身や気持ち分長くなる。
紅の刃。そして、槍。
それが、シュンの固有スキルだ。
自身の血を媒体とし、武器のリーチを強化する。または、その血を武器・道具として扱う。その上、MGを大量消費するのが一番の問題である。
つまり―
使い勝手は、悪い。
この時、シュンの脳裏には悪夢のような過去が通り過ぎていた。
ブラッディクラウン使用時の、代償。
シュンの脳裏には光景が浮かぶ――
自分の責任で、両親は事故で死んだ。
ブレーキペダルに空き缶が転がっていき、対向車両に正面からぶつかって、顔の形も、体もズタズタに引き去れて、死んだ。
この世界に来てもそうだ。
慕ってくれる小さな男の子を、目の前で化物に喰われた。
あんなに―
あんなに…
「シュン兄ちゃんは強いから」
そう言ってくれた、男の子の命を、救えなかった。
――過去の憧憬がひた走る。走馬灯のように。
その者達を救えなかった―
その者達を殺すきっかけを作ってしまった―
自分が、憎い
憎い――
何もかもが憎い――
シュンは、そう感じてしまう。
自分が、何より憎い――
憎しみに、悲しみに堪えきれず、シュンは叫んだ。
「うううううううううううううううううううううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
歯を食いしばってその苦しみに耐え、地面に這い蹲る巨大な骸骨に向き走った。
何の迷いもない。
感情に任せたまま、理性を失った光彩のない、暗い海のような瞳を浮かべながら。
生きたいとすら思わない。
自分の責任だからこそ、自分を責めずにはいられない。
自分自身を許せない。
ならばこそ、
自暴自棄。
諸刃の剣。
狂人化。
それが、ブラッディ・クラウンの影響。
恐怖を押しのけ、狂ったように戦士と化すという反動。
ギガンティックスカルは、その行く道を遮るように、左腕を上げる―
しかしだ、咄嗟に湧き出た血の槍がその腕を首を、四肢を拘束するように貫き、微動する事すらもできない。
シュン自身が狙った獲物を、ブラッディクラウン発動時に発生した槍は完全に拘束する。
そして、その獲物が絶えるまで、シュン自身に「殺す」という衝動に駆り立てる。
例え、四肢が斬られようとも。脳髄が破壊されようとも。心臓が潰れようとも。
「千鳥いいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃいいいぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃぃぃいっぃいぃぃ!」
刀突進系刺突スキル、千鳥。0から最大の出力で飛び出したシュンの体は右手を引き、筋肉を凝縮させながら目的のポイントまで到達すると一気にそれを弾けさせてギガンティック・スカルの頭部目掛け突き刺す。
激しく暴れる標的を押さえ込むかのように、血の槍は上空から下方向へと向かい、鎖のようにギガンティックスカルを固定。
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉlぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
レイのフラッシュによる攻撃の為か、僅かにヒビを作っていたそこを目掛けて、シュンは刀を突き刺す。
ゼラチンに沈む包丁のように、勢いよく刀の刃が沈み込む。しかし――だ、僅かに距離が足りない。
「うおぉぉぉぉぉぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
シュンは絶叫しながら深く、更に深くと刀を押し込んでいった。
血の槍に拘束されながらも、ギガンティックスカルが暴れ出す。
それでもシュンは、その動きを止めなかった。
(殺す――殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!)
体重を乗せ、更に深く、更に深くと刀をねじ込む。
青く光るコアへ突き刺さるのを感じたシュンは刀を右手を離し、拳を握り締め―
「砕けろぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおぉぉぉ!」
柄頭へ思いっきり拳を叩き込んだ。
更に深くねじりこんだ刃がコアを突き破った感触。粉砕した感覚。その後ギガンティック・スカルの動きが徐々に弱まっていきー
「グゥゥアアァアァァァァァアァァァ…」
最後の最後に、嗚咽を漏らしながら、悔しそうに、砂となって脆く崩れ堕ちていった。
『敵』と認識したギガンティックスカルの消滅と同時に、シュンの『ブラッディ・クラウン』は効力をった。
この反動は、決して小さいものではい。身体的・精神的にも過大なダメージを残すのだ。
朦朧とした頭でシュンは当りを見渡した。
取り巻きとして出現したスケルトンも、スカルナイトも同様に消失し、静寂が穏やかに感じる。
「皆……無事みたい、だな」
レイは…泣きそうな顔でシュンを見ていた。
メグミは必死に走ってくる駆け寄ろうとする。
リュウやハルカも怪我をしたようだが、とりあえずは大きな外傷は無いようだ。
それを見て安堵したのか、或いは張り詰めた緊張が解れたせいか、シュンに左腕の痛みが一気に押し寄せる。
血がとめどなく溢れ出し、地面を朱に染めていく。
シュンの体はもう立つこともままならない。時折クラクラと左右に柄だが揺れている。
その姿は、亡霊の様だ。
(頭がぼんやりとしてきた。血が足りなくなってきたのかも…な)
シュンの視界が順々にゆらめいで行き、全身の力が一気に抜け落ちて床に倒れこんだ。
床の冷たい感触が、シュンに嫌味な程安らぎを与えている。
「シュン…しっかりして、シュン!!」
硬直状態から回復したレイは、飛びつくかの勢いでシュンの許に寄り体を揺さぶる。
「エーテル…早くエーテルを!」
メグミもまた、即座に治療行為に勤しんだ。
(本当、俺って―)
シュンは考える。
このまま死んでしまったほうが、楽なんじゃないかとすら。
そう考えてしまうとやはり、逃げているということでしかないのだろう、とも考える。
(最悪だ…)
その思考を最後に―シュンの意識が途絶えた。




