<六>仕事の依頼
<六>仕事の依頼
その後、社長さんは現在実際に相談を受けている仕事の中身の説明を始めた。
「今この事務所に所属している調査員は私と君を含めて五名だ。今ここに居る秋葉君、武者小路さんの他に謎の調査員が一名だ」
「謎の調査員?」
「一度も出勤したことがないから私も顔を見たことがない。しかし仕事の出来る太った男だ」
「見たこと一度もないのに太った人ってどうしてわかるんですか?」
「細かいことに突っ込まんでよろしい! 五人しか居ない中で今回仕事が三つも重なってしまった。そこで君には二つの仕事をこなして貰わなければならない」
華子は首を傾げながら言った。
「計算合わないんですけど。仕事の数より人の数が多いのに……。私が二つですか? するとあと一つの仕事を残り四人で、という事になりますが……」
「人には向き不向きというものがある。例えばあの武者小路さんがスパイみたいな事出来ると思うかい? あんな怪しげな格好でスパイは出来ないだろう。私はスパイです、って言っているようなもんだ。或いは私や秋葉君が夜の寒い中張り込みとか出来ると思うかい?」
「わかりました。ちっともわかりませんけど……。仕事の内容を聞かせて下さい」
「よろしい。まず一つ目は金持ちの男性からの人探しの相談だ。ネットで相談があった。女に金を騙し取られたらしい」
「具体的な内容は?」
「まだ相談者本人に逢っていない。そこからが始まりだ。連絡は取れるからアポイントを取ってまず相談内容や探す相手の情報を得てくれ。それから探偵料金の見積りをして了解を取るまでが君の仕事だ。あとは謎の男が対応する」
「わかりました」
「それからもう一つの相談。これは相談というより依頼だね。海外の仕事だ。東南アジアのある国で政略結婚があるのでそれを阻止してくれ、というものだ。これは事前に殆ど必要な情報を得ているから、今度は君が依頼事項の実施者になるのだ」
華子は二つ目の仕事は相当『ヤバイ』事に足を突っ込むことになりそうだ、と思った。
「明日また細かい段取りは打ち合わせしよう。時間的にはまだまだ間があるからね」
「わかりました。ところで社長さん達が担当する三つ目の相談とはどんなものだったのです?」
「それは……」
社長さんの言葉が急にトーンダウンした。
「それは?」
「あのね。浮気の素行調査だよ。これって結構テクがいるんだよ。経験も必要だ。調査そのものがばれると面倒なことになる」
――ずるい! 調査がばれたらむしろ私の仕事の方がヤバイに決まってる。
しかし華子は素直に仕事を受けることにした。否定していたら物事始まらない。
「わかりました。社長さん。結構正直ですのね。ふふ」
「ははは。どうしてわかった? 本当に君は人の心を見抜く才能があるね」
「ほほほ。お上手ですのね」
「ははは」
二人とも何ともぎこちない笑いでその場を繕った。