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<五>探偵事務所のこと

<五>探偵事務所のこと


 雇用の条件は、華子にとって納得できる内容とは言えず、取り敢えず働いてみないとわからない事が多かった。勤務は週休二日が原則だが、土日は必ず出勤ということだった。出勤日以前に就業時間が朝八時から翌朝八時までの内の八時間という訳のわからないものだった。

「給料は基本給プラス報酬制だ。頑張ればそれだけ報いられるというものだよ」と社長さん。

「あの、基本給というのはいくらくらいなのですか?」

「基本給は会社の業績によりますよ」

「……あの、報酬制ってどういうことなんですか?」

「報酬は個人の業績によりますよ」

 そもそも雇用条件の前に仕事の内容がわからない。

「あの、基本的な事お聞きしますが、私、探偵社に勤めて具体的にどんな仕事をするのですか?」

「ああ、そうだったね。肝心なことを説明しないとね。まずウチの会社だが、従業員が国内に三十人、海外には二十人くらいいるんだ」

「くらい、って……。海外はどこの国に?」

「支社として、ワシントン、モスクワ、香港、ベトナムのホーチミン、あとカンボジア国内に三箇所、あとはどこだったかな」

 華子は、俄かには社長さんの言葉を信じることが出来なかった。いえ、むしろ会社の支社もすぐに口に出てこない経営者が居るのだろうかと疑ってかかった。さらに社長さんは続けた。

「業績面で一番なのがモスクワ支社だ。五~六名でやってるが、年間五億円くらいの収入がある。損益上の会社所得、つまり給料や経費を差し引いての純益としても億は下らない。実はウチの会社で最も稼いでいる事業は諜報活動の請負なのさ。しかも国レベルの」

「諜報活動って、スパイってことですよね。普通に考えると、国レベルのスパイって相当アブナイのではと思いますが」

「大丈夫。皆プロ中のプロだからね。『〇〇七』が五~六人居ると考えればいい。ところで君は法律家と言う限りは口が堅いのだろうね」

「もちろんです」

 社長さんは口先に掌を添えて少し前かがみになった。華子も同調するように身を乗り出して耳に手をあてた。社長さんは低い声で言った。

「ロシアの極秘機密情報などをアメリカのホワイトハウスや国防関係者に流しているんだよ。情報によっては一件日本円で何千万円になる事もあるんだ」

「そこでワシントンに支社が……」

「いや、ワシントンの支社にも五~六名居て独自の活動を展開している」

「それって諜報活動ですか?」

「そうだ。何故わかった?」

 華子はさらに声をひそめた。

「何となく話の流れで……」

「……あの……」

 華子はふと頭に浮かんだ事を口にした。

「あの……。まさか、そこでは、アメリカの極秘機密情報を逆にロシアに流してお金貰ってるなんて事ないですよね。まさか……」

 社長さんは一気に眉を吊り上げた。イケメンが尚一層凛々しいイケメン顔になった。

「うっ! ……。華子さん。何故わかったんだ」

 華子は「しーっ!」と言って口を社長さんの耳に近づけた。

「すいません。話の流れで……」

「うーむ。君は凄い洞察力があるな。やはり私が思っていた通りだ」


――誰だってわかるわよ。自分で言ってるようなものじゃない。て、言うか、そういう問題じゃなくて、それってかなりヤバ過ぎない?

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