<十五>フロントマン
<十五>フロントマン
詳細な打ち合わせを済ませ、華子は二人の諜報員と別れて部屋へ戻ることにした。しかし慣れない土地で言葉がカタコトの英語しか通じないフロントマンには少し不安が有った。心細かったのだ。
「あの、ちょっと部屋まで一緒に来てもらって、スイッチとか水周りの使い方とか説明頂けませんか」
「ヘイ! お嬢さん。私。行く。一緒」
フロントマンは先に立って歩き出した。部屋は三階建てのホテルの三階である。
「朝食。さっき言った。ここ二階ね。奥の部屋。バッファ(ビュッフェ)だからね」
「はい」
階段を上がり通路に差し掛かるとチェックインした時と同じ様にパッとダウンライトの電灯が点灯した。奥へ歩くに従って次々と人を感知して点いていく。
「通路は人感センサね。三分で切れる。防犯のためも有る。今晩、君とあと他に一人しか泊まらない。男。彼も三階。だけど階段から反対側の奥。君の部屋の前を通ることない。君。ドアの内側からスコープで通路見る。点灯してたら、通路に侵入者。わかるね」
――侵入者? やだあ。そんなに侵入者が居る訳?
「部屋必ず鍵掛ける。でも危険な時。電話。フロントは九番。連絡する。ポリス呼んで追い出す。OKね」
「この電話。ホテル内の内線。外線、無理。携帯持ってる? 外線はそれでね。でも部屋電波弱い。通路大丈夫」
外線に電話を掛ける時は携帯で通路に出て掛けろ、ということの様だ。通路は物騒だと言っておきながら酷い話だと華子は思った。
――まあ、仕方ないかぁ。目立たないホテルっていうことだからね。客も殆どつかないからお金も掛けられないのよね。きっと。
「シャワーはココ。お湯は一人五分。三回。限度。エコノミーね」
五分で切れるようだ。しかも一日三回迄という。変なところに金を掛けている。エコというよりガメついだけだ。
「トイレは使い放題」
――当たり前よ!
「部屋の中のライトは切れるってことないですよね」
「大丈夫。あと、浴室。ドア乱暴なし。響く。迷惑」