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<十一>タンソンニャット国際空港

<十一>タンソンニャット国際空港


 華子はタンソンニャット空港の到着ロビーで、グエン・ティ・ビンさんの姿を捜していた。ビンさんは有栖川社長さんの話によると現地の調査員『〇〇二』ということだ。さらに社長さんからは『〇〇二』のビンさんと共に『〇〇七』が協力して今回の任務を遂行すると華子は聞かされていた。

 『〇〇二』のビンさんは、日本語、英語、中国語(広東語)、ベトナム語とカンボジアの公用語であるクメール語とさらにカンボジアの現地チャム語の六ヶ国語を話せるスーパーレディである。ベトナムの国内では隣国のカンボジアと異なり、英語を話せる人が少ない。ホテルのフロント係でさえ、場末になれば英語が通じる人は単語しか通じない『カタコト』であったりする。

 華子がベトナムを訪れるのは初めてであり不安ばかりであったが、とりわけ一番の不安は日本語は無理としても英語が通じないことである。このため彼女は空港に着いてから必死で言葉の通じる『〇〇二』のビンさんを捜した。さらに空港を出るまではともかく荷物を手から離さない様に言われていたので、しっかりと手提げカバンを脇に抱えスーツケースを引き寄せながらキョロキョロと辺りを見廻していた。

「ハナコサン!」

 華子の姿を確認したビンさんは大きな声で彼女を呼んだ。事前に十数枚もの華子の写真をメールで送っていたので、ビンさんは難なく華子を発見することが出来た。

「ハナコサン! ここ、ここ」

 ビンさんの身長は一七〇センチより少し高いくらい。所謂いわゆる八頭身美人でスタイルも良く、肌の色の濃い人の多い現地には似合わない様な色白の美人女性だ。色あせたジーンズが細身の彼女にとても良く似合っている。

「ビンさん。私、華子です。よろしくお願いします」

 社長さんの言っていた『〇〇二』のビンさんの姿を見て華子はしっかりと安心感を得ることが出来た。

「ハナコ。よろしく。ワテ、ビンっちゅねん。ワレ、日本語任せときいなはれ」

 華子は何となく違和感を感じたが、日本語の安心感も手伝ってにっこり微笑んだ。

「ホテルは近くですか?」

「何でやねん。アホちゃうか。近くやん」

 言葉は少し変だが日本語の発音がはっきりしていてかなり聞き取りやすい。ちゃんと通じそうだ。

「まずはホテルへ向って、チェックインしますね」

「アホちゃうか。ワレ。ほな、はよせんかいな」


――ムッ。


「なんぞ食うてきたん? アホちゃうか。ワレィ」

 彼女の言葉は少しおかしいが、華子はすぐに事情を察した。『アホちゃうか』はどうやら親しみを込めて使っている言葉の様である。華子は再びにっこり微笑んで言った。

「私、ちょっとお腹がすいています。ご一緒にお食事しましょうか」

「ワレ、アホちゃうか。なんぞ食わんかい」

「はい。そこのレストランで食べましょうか」

「アホか。ワレ。レストランは値が張るよってに。アカンでぇ。早う街まで行って食わんかいな。ボケ!」


――ボケっ!? ムッ。


「早う空港出らんかい。ワレ。ホンマにアホちゃうか」


――この人英語もこんな調子だったら、初めから私より適任じゃん。確実にお見合いぶち壊すよ……。


「何しとんね。はようせんかいな。アホゥ」

 華子はぐっと感情を押し殺して先を行った。

「ワレ、アホちゃうか。ぜに、持っとんかいな。アホゥ」

 ビンさんは容赦なく立て続けに変な日本語をまくしたててくる。

 華子は眉を吊り上げて言った。

「銭、持ってますからね。アホ!」

 ビンさんは嬉しそうににっこりと笑った。

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