Epilogue
疑似シンクロノスの破壊
始祖の解放
この二つにより争いは終息した。
勝利も敗北もない、ただただ沢山のものが失われた争い。
戦勝記念でもなく、ただただ争いの終わりの祝杯が上げられた。
「ずっと、あぁやって戦ってたの?」
会場は学園だった。
木々が生い茂る訓練場の一角で、ミナトはレンに声をかける。
「…あの時、シンクロノスのコンフォーマーであることに気づいて、
それからは、ずっと。」
「…そっか、なんか…強くなったね。彼女の、お陰?」
レンは強くうなずいた。
平和を望みながら何もできなかった自分を変えたのは、間違いなくシェリス。
「守りたい、って思ったら…身体が動いてた。」
「そっか…敵わないなー」
「…へ?」
ナイショ、とミナトは口元に一本指を立てて微笑んだ。
「…ミナトは、イクトと?」
「レン!」
木々の影から姿を現したのはイクトとシェリスだった。
「…あっ」
「改めましてミナトちゃん、君のコンフォーマーのイクトだ。よろしく~」
戦場にいた、冷徹な目線のイクトではなく、初めて出会った時のような掴めない顔をしていた。
だが、どこか冷めた雰囲気はなくなっているようだ。
「よろしく、イクト君!」
二人はこれからもパートナーとしていい関係が築けるだろうな、とレンはひと安心する。
「自己紹介…してなかったね。私、シェリス。
…あと、ごめんなさい。あなたの奥に眠っていたシンクロノスの能力を目覚めさせてしまった。」
シェリスは目を伏せる。
するとミナトは右手を差し出した。
「ミナトだよ。レンとは…幼馴染み。シンクロノスのことに関しては気にしないで。
守る力があるってわかって、嬉しかったから。」
少し悪戯っぽい笑みを浮かべて答える。
シェリスは右手を取った。
「これで皆知り合いってことだね。」
レンの言葉に、イクトは満足げに頷く。
イクトもシェリスも見たことのない穏やかな顔をしていた。
今までお互い一人で生きてきた、しかし今は違う。
「あの…シンクロノスってまだあんまり理解してないんだけど…ああいうものなの?」
「あのときのシンクロノスは特別。…私とレン、貴女とイクトの意識が高いレベルでシンクロしていたから…。
でも大丈夫、イクトはシンクロノスに詳しいから、信頼していれば、身を委ねて心に流れる歌を歌うだけ。」
ふーむ、とミナトは考える。
「…信頼、かぁ」
確かにシンクロ状態のとき、心地よい気分だったのを覚えている。全力で歌って…
気づけばイクトに顔を覗き込まれていた。
「さて…と、ミナトちゃん、ちょっとデートしよっか?」
「え、ちょっと?イクトくん?!」
ミナトは半ば強引にイクトに右手を引かれ引きずられていく。
「シンクロノスとコンフォーマーは…出会うべくして出会う者。…そう、私は信じてた。」
「結構、夢のある解釈だね、それ。」
二人の背中があまりにも楽しそうで、レンとシェリスは顔を見合わせて笑った。
「あれ、ってことは…。」
レンの少し前にいたシェリスは、両手を後ろで組んで振り返る。
そしてただにこりと微笑んだ。
「あ、シェリスっ!」
そのまま歩き始めた。
慌ててレンは追いかける。
二人が向かった先は、屋上だった。
「懐かしいね…覚えてる?」
「当たり前じゃん、俺たちが初めて出会った場所だ。」
「あの時、サボりだったよね、君。」
「あはは…不真面目だったからね~」
二人が見下ろしたグラウンドには、戦場の面影が生生しく残っていた。
しかしそんな戦場で今は人々が歓喜している。
「これから…どうするの?」
「争いが世界から消えたわけじゃないし…いつどこでまた始祖が現れるか解らない。」
「…戦うの?」
「それも…悪くないかなって。」
二人は向かい合う。
この戦いを通して、随分二人は解りあってきた。
「人を傷付けるだけの戦いじゃない、もっとほかの…
イクトとミナトも一緒に巻き込んで、もっとほかの戦い方もできると思うんだ。」
「他の…戦い?」
「例えば、歌。シンクロノスとしてじゃなくて、歌の強さっていうのかな、そういう可能性を俺は感じたんだ。」
「歌の…強さ…。」
「シェリスとミナトが歌ってるとき、皆は確かにその歌を聞いてた。
その時だけ、皆の心が一つに向かってた。…それって、凄いことだなって思ったよ。」
一旦言葉を切る。
春を感じる暖かい夜風が通り抜けて行った。
「ずっと、歌っていて欲しい。
戦うための歌じゃなくて…人々の心に訴えかけるような歌。
…って、これじゃ俺必要ないね。」
自嘲気味にレンは笑った。
対してシェリスは首を横に振る。
「…いつかはまた、剣を手にしなければならない時が来るんだろうなーって思う。
その時はやっぱり、一緒に戦いたい。
君に戦いを強要するのは、心苦しいけど…。
俺のそばで、ずっと翼を広げていて欲しいんだ。」
「…一緒だから、羽ばたける。」
それ以上の言葉は必要なかった。
これから戦い続けることの誓いに言葉など必要ない。
たった数か月で、解り合ってしまったのだから。
「ねぇ、レンはどんな過去を送ってきたの?」
「…んー、割と普通だよ?」
「それでも、もっと…知りたい。ミナトがうらやましい…から。」
今までお互いの話をゆっくりとする時間がなかったから、普通の会話を出来る事に少し戸惑う。
躊躇いがちにレンは口を開いた。
「…俺、戦災孤児なの。」
--物心ついた時には、ここにいて
戦い方を教わって、生きるための術を身に着けるよう叩き込まれた。
ミナトも同じようなもので、同じ環境で育ってきた。
戦い方は早いうちから心得ていたし、学園での過ごし方にも慣れていた。
そしてずっと、平和を望んでいた。
望むだけで、何もしなかった。ここにいれば安全だったから。--
「それで、いつものようにサボっていたら君と出会った…ってわけ。」
「…私と、同じだね。私もずっと…戦いの中に生きていたから。」
「うん、でさ俺思ったんだ。俺みたいな子供…増やしたくないって。」
「…そう、だね。私ももしこれからシンクロノスの力を持つ人が現れるなら…自由に歌ってほしい。」
きっとこれから長い戦いが始まる。
平坦な道ではないし、また争いに巻き込まれることもあるだろう。
だけど…
二人だから乗り越えられる。
「あ、そうだ…シェリス。」
「何?」
レンは、夜の空を見上げた。
輝かしいまでの星たちが、瞬いている。
「空…好き?」
空を見上げるレンの横顔を見る。
「…好きだよ。」
――君と飛べる、自由な世界だから――
元々短編で作ったのでここで終わりです。
5話という短い作品ですが、お付き合いいただきありがとうございました!
元々友人の絵からインスピレーションを受けて書いた作品ですが、結構気に入ってますw
絵があったせいで、キャラクター描写が少なくなってしまい、わかりづらいかなぁとは思うのですが…笑
4日ほどで仕上げた、私自身久しぶりの作品です。
御精読ありがとうございました。