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翼--飛翔--  作者: 冬耶心
4/5

この世界には、人と意思を持たない人外が共存していた。

しかし文明の発達とともに、人は機械を作り出し人外を操ることに成功した。


動物とも違う人外を使って人は争いを始めた。

領土を広げるために、力を示して自分を守るために。


そんな時代が続いたある日、意思を持つ人外が人の前に姿を現した。

それが、始祖と呼ばれる存在。

始祖は身体も大きく、ちっぽけな人の力では太刀打ちできなかった。

各地に始祖は現れ、人は始祖に立ち向かった。

言葉が通じないせいで、人と始祖は戦わざるを得なかった。


そして現れたのが、天使だった。


歌うことで翼を広げ、始祖と意思を疎通した。

始祖は静まり、人の前から姿を消した。


世界を救った天使は、人の好奇心を駆り立てた。



人の姿をした天使は、始祖だけでなく人と意思を疎通させた。

意識を重ねた人は強大な力を得た。

しかしそれは一瞬の事で、強すぎる力は人の機能を破壊した。



そしてまた争いが始まった。



天使がいれば、始祖と戦える。

そして、天使の力を借りれば、何にも負けない強さが得られる。


しかし人を破壊する天使はいつしか恐れられ、堕天使と呼ばれるようになった。

堕天使は次第に姿を消し、残ったのは人と機械と飼われた人外だけになった。




ある日、ある場所、ある古代文明を研究する科学者の元、

美しい少女が生まれた。


透き通るその声を分析すると堕天使であることが分かった。


博士と呼ばれたその男は、その能力をシンクロノスと名付けた。

シンクロノスを受け入れられるコンフォーマーを探し、数多の人体実験を行った。

失敗に失敗を重ね、堕天使の目の前には数多の屍が広がった。

感情を失い、翼をもがれた堕天使は自分さえも殺していた。


そこで博士は考えた。

シンクロノスの力を少なくし、疑似的にシンクロ状態を作り出す装置が作れないか、と。



とある学園の地下施設に政府の許諾を得て、研究所を創設した。

国内の技術陣を結集させ、一つの機械が完成した。


それが疑似シンクロノス。


完成した疑似シンクロノスを学園に向け放った。

多くのものが力を得、同時に苦しんだ。

精神が崩壊したものがいれば、肉体を失った者もいる。

しかし、純粋のシンクロノスに比べて被害は軽微であった。


その実験の情報は、瞬く間に世界へ広がった。


シンクロノスの力を一つの国が得れば、侵略の危険がある。


そう考えた世界は、また争いを始めた。



全ての発端は

シンクロノスなのだ。



「学園が持ちこたえられるのもあとわずか…この研究所の科学者は誰一人生きていない。」


軍の司令官が話す言葉は重たく、これから迎える最終決戦への意識を強めた。


「生きていない…って、どういうこと?」


恐る恐るシェリスは尋ねる。


「襲撃だ。…内部のな。」


最後の一言は、他の戦士たちに聞こえないように小声で放たれた。

シェリスは少し考え込む。


「シェリス?」


急に神妙になったシェリスを案じて、レンは声を掛ける。数秒黙ったのち、シェリスは口を開いた。


「…ねぇ、どうして私たちは戦っているんだと思う?」

「…自由を取り戻すため?」

「じゃあ、この争いのきっかけって…何?」


レンはうーんと考える。

そういえば、歴史の授業は苦手だった。


「この戦い、もしかしたら…」

「大丈夫。…何があっても、俺が守るから。」


にっと笑ってピースサインを作るレン。

大丈夫、二人なら翼になれる。


戦いの火蓋は切って落とされた。


いつものように、シンクロをして戦う。

いつもと違うのは、戦場が学園であること。


しばらくして、戦況が逼迫していく。

戦っているものたちにも疲弊の色が濃い。


『レン…?』


意識の奥でシェリスは名前を呼び掛ける。なにかいつもと違う感覚があったからだ。


「何か…来る。」


逃げろーーーっ!

レンの叫びも虚しく戦場に消えた。


直後、巨大な音を立てて奴が現れた。


「…始祖。」


この国に根差した始祖。このままではここにいる人間は皆始祖に破壊し尽くされるだろう。


叫び声が聞こえた。

対して始祖は大地の怒りのようにうなり声を上げる。


敵も味方もない、誰もが始祖へ刃を向けた。


「なんで人は争うんだろうな…」


至極冷静な気分であった。始祖が現れたことにより、皮肉なことに人々がまとまっていく。


「シェリス、シンクロ解除しよう。」

『えっ…ちょっと…っ』


シンクロは、二人の意識が違う意思を持てば解除せざるを得なくなる。

レンは翼を閉じ、翼を閉じたシェリスが現れた。


「レン、戦わないの?」

「始祖に敵う力じゃない。…始祖に対抗できるのは…君だ。」


「レン!」


背中で肉を断つ音と声が聞こえて振り返ると、そこにはイクトの姿があった。

シンクロ状態にいないというのに、相当の戦果をあげたようである。


「その子を屋上へ。拡声器機は用意がある。戦いはこれで終わる。」

「…どういうこと?」


人々が始祖へ向かう波が流れていく。

戦場は混戦状態だ。

人同士の争いも絶えたわけではない。

そして、人外は暴走を始めている。


「擬似シンクロノスは破壊した。争いの原因はもうないんだよ。」

「…貴方が殺したの?」

「争いの根源、あんたの親父は俺が殺したよ。早くしろ、時間がないんだっ!」


周りのガヤガヤした声も、始祖の声も、随分遠くの事のようだった。

ただ、シェリスの悲しげな顔だけがリアルに見える。

シンクロノスの力が無くても、力があるような気分である。


「…シェリス」

「私は…大丈夫」

「歌える?」


こくり、とシェリスは頷く。

レンの目はとても遠くを見ているようで、シェリスは不安を抱く。だが、その顔は穏やかだった。


「シンクロノスの歌じゃなくていい、君の好きな歌を、聞かせてくれないかな?」

「なにいってんだ?レン、この状況を覆すには、シンクロノスしかないんだよ!」


レンは背後から襲いかかってきた人外を、鮮やかに斬り捨てた。

その無駄のない所作はシンクロ状態のレンのようである。


「お前…使えるのか?シンクロノスの力…」

「君のことは俺が守る、だから…自由に歌っていい。」


もう一度シェリスは強くうなずいて、すぅと息を吸う。


力強い声が、聞こえた。



翼を持ったシェリスは舞い上がる。

マイクはないのに、誰の心にも響くような強い歌声。

多くのものが手を止め、始祖でさえ動きを鈍らせた。


「解った…気がする。シンクロノスの、本当の力。」


まるで皆がシンクロ状態にあるようだ。


「この歌…凄く、心に響く。」


歌の場所を探すと、そこにはレンの姿があった。

約束を守って生き続けて、やっと会えた。




「レンっ!」


レンが声の方向を見ると、懐かしい顔があった。


「ミナト…?」


レンは瞬時に理解した。

ミナトの心がシンクロノスに僅かな反応を示していることに。

そんなことが解るまでに、レンはシンクロノスを理解していた。


「流れる音楽に、心を合わせて?きっと、歌えるはずだ。」

「え?え?歌…?」


シェリスがミナトの存在に気付き、目の前にふわりと立ち、右手を差し出した。


「…大丈夫、ミナト、歌上手いでしょ?」


レンの強い瞳にミナトは頷き、瞳を閉じた。

心の奥に、音楽が流れる。


シェリスの右手を取る。


美しい空色の翼をミナトは広げた。

二人は息を合わせて、見事な音楽を奏で始める。


レンとイクトは、彼女たちを守るために、統制を失った人外と戦っていた。

美しい二人の歌声は、戦士たちに力と癒しを与えた。


「Angel……」



誰かが呟いた。

そうだ、彼女たちは堕天使ではない。


エンジェルなんだ。


--翼を広げて

一緒に飛ばないか?--


「なぁ、イクト。」

「なんだよっ。」


交戦中であるというのに、余裕の表情を浮かべるレンに少々苛立ちを感じるイクト。

間違いなく目の前の男は最強であることを突きつけられる。


「始祖は…悲しんでる。

俺には聞こえる。始祖は、人の悲しみ、妬み、そんなドロドロした感情が生み出すんだ。

そんな暗い気持ちに、エンジェルが干渉して浄化する…。

だから、俺たちが解放してやらなきゃ。」


レンは世界の真理に触れていた。

彼女たちの歌声という意識を介して、世界のあらゆる部分に干渉している感覚だった。


「俺″達″?言っておくが俺は、コンフォーマーじゃ…。」

「そうかな?俺には…ミナトと凄く相性いいような感じしてたけど?」


レンの言葉を聞いて、イクトは意識の深淵に触れる。

疑似シンクロノスを用いると、そこは冷たくて暗い世界だった。

なのにどうして…


「暖かい…光、だ。」


光に触れると、味わったことのない心地よさを感じる。

激痛も苦痛もない、これがレンの感じていた意識というのか。



シェリスもミナトも歌い続けている。


その元で、二人は翼を広げた。


「蒼い…翼?」


イクトが疑似シンクロノスで広げてきた翼は黒。

しかし、ミナトとシンクロして広げた翼は美しい蒼だった。


「ほら、俺の言ったとおりだ。

…行こう、イクト。」


白と蒼の翼を持った戦士たちは、始祖に向かって飛び上がる。

そして、巨大な始祖の前に武器を構えた。


「お前も…辛かったよな。今…解放してやるから。」



二人の武器に、それぞれの歌の光が集束する。




「轟け雷光!」

「響け雷撃!」



紫電一閃!

疾風迅雷!



二つの鼓動は雷撃となりて始祖を撃つ。


始祖は光となってあたりに舞い散った。


--きっと僕ら

一羽の鳥のように

大空を飛翔するんだ--


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