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その2

――ポロン。ポロン。


「え?」

 私達は頭上にあるスピーカーを見ました。体育館全体に響く音だったので、何か放送にミスがあったのかと思ったからです。隣を見ればYちゃんもスピーカーを見上げていました。


――ポン。ポン。


 数秒後に再度鳴った違和感のある音。先生の呼び出しなどの音なら、鉄琴のような「ピンポンパンポン」と響く音がするはずなのに、この音はどう考えてもピアノの音にしか聞こえません。しかも、曲や和音を引いているわけではなく、ただ、鍵盤を押しているだけのようなつながりの無い、メロディーのないただの音でした。

 そして、思い出しました。全校生徒での合唱の時など、ピアノの音を大きくするようピアノの横にマイクを置き、演奏することが良くありました。そうすると、スピーカーからも音が鳴り、ピアノ以外の方向から来る音が響きわたるので、私はそれがすごく嫌いだったのです。


――ポロン……


 私は後ろを振り返りました。そして、凝視しました。

 私の後ろにあるステージを。

 ステージの上にあるグランドピアノを。

 Yちゃんも、Kちゃんも同じようにピアノを見ました。しかし、蓋が開いており、ステージの袖の方に寄っている為、人がいるのかが見えません。同じ体育館掃除には私達よりも下の2年生もいました。その下級生が私達がいるのを気付かずに遊んでしまったのかもしれません。2年生はまだ小さく、椅子に座れば蓋で隠れているだけと思いました。


――ポロ……


(マイクを切れば良かったに……)

 そんな事を思っていると声をかけながら、Kちゃんがステージに上がって行ってしまいました。

「誰かいますか?」

 下級生なら私達も一応先輩になるのだから、「掃除の時間に遊んじゃダメ」としからなければなりません。まあ、先生の言う掃除開始時間からは2分と経っていませんでしたが、上級生らしい事をしたかったのだそうです。

「あれー」

 ステージの上からKちゃんの声がします。

「誰もいないよー」

「「え?」」

 Kちゃんはステージを右に左にと動き回っていました。しかし、誰もいないなんてことあるはずはないのです。なぜなら、ステージから出るにはステージ横のドアから入るか、Kちゃんがステージをよじ登ったように、ステージ上からそのまま降りるかしかないからです。もちろんステージから降りた人も、左右のドアから出た人もいません。もし、私達2人が見逃していたとしても、私達がたっている場所は、3人で入ってきたスライド式の鉄の扉のも、ステージも見渡せますので絶対に出ることはできません。体育館の中央、バスケットコートの左右に扉はありますが、ここは本当に“屋外”へ出るだけなので、屋根もなく、もちろん廊下でもありません。体育館に沿って20Yほど走らなければ渡り廊下にたどり着きません。この雨の中、その大きな扉が開けばいくらなんでもわかります。

「嘘だー! こっち出てないよ!絶対いるって!」

 大声で返すと、Kちゃんがステージを降りてきてしまいました。

「絶対! いないよ!」

 私もYちゃんも信じられなかったので、箒をその辺に起きステージへ走りました。Kちゃんもステージからこちらへ来ていたので、丁度3人が中央に来た時、『ゴロゴロゴロ』と大きな音と共に暗くなりました。

 体育館の上部に付いている窓から外の街灯の明かりや、稲光が入ってきて意外と明るかったので、「雷落ちたよー。停電だし」というKちゃんの言葉を聞くまで電気が消えていることに気が付きませんでした。

「本当に誰もいなかったの?」

 停電も気になりましたがさっきの音も気になったのでKちゃんに問いかけました。

「いないよ。ステージにも暗幕の後ろにもだーれもいなかった!」

「えー。ないでしょ。音響室は? スピーカーから流れてたでしょ?」

「それなんだけど、ピアノの周りにマイクなんてなかったよ。それに、音響室閉まってたし。鍵が」


――ゴロゴロゴロ


 さっきの雷よりもだいぶ小さい音でしたが、言葉が出ないこの状況ではとても大きな音に感じました。

「え? え? どういうこと?」

 私はピアノの音という自信はあったので、Kちゃんの言っていることはあまり信用できませんでした。確かに見える所に誰もいないのかもしれないが、小さい子なら階段下などに隠れられる気がしたからだ。しかし、ここまで出てこないのは少しおかしいし、音響室が閉まっているとなると話は違います。音響室はステージ向かって左にある小さな部屋で、体育館内のマイクやスピーカーのオンオフは音響室かもしくは放送室でしか操作できないのです。なおかつ、体育館のマイクはいつもそこに保管されています。そして、音響室の鍵は先生がいつも開けるので、生徒に貸出されることはないですし、何かリハーサルでもしていれば別ですが、今のはそういうものをしているような感じではありませんでした。


「ねえ。ピアノの音たしかにしたよね?スピーカーからも聞こえたよね?」

「うん。確かにしたよね」

 不安になり2人に確認するとKちゃんはすぐに同意をしてくれました。Yちゃんもゆっくりとうなずいた。

 間違いなくピアノの音です。小学校3年の子供でもピアノの音ぐらいはわかりますし、間違えることはありません。もっとはっきり言えば、ステージにあるピアノの音だったと思います。それに、スピーカーだって鳴ったのです。今思うと、合奏の時のようにステージのピアノからも音がしたように思えました。



 何とも言えない沈黙が私達を襲いました。どうしても理解が出来なかった私がピアノをじーっと見ているとまた、『ゴロゴロ』と大きな音と共にまた眩しい光が走りました。

――また落ちたかもしれないな。

 何となくそう思った時「きゃ!」とYちゃんが声をあげました。

「どうかした?!」

 Yちゃんを見ると、上部にある窓を見上げています。そして、その一点を指差すのです。

「あそこ! あそこにA君がいたの!」

 そこには、通路がありました。体育館上部の窓の開閉をする為、2階ぐらいの高さの所に手摺の付いた細い通路が西側と東側にあり、ステージとは逆側の後ろにある中2階の物置と繋がっていました。そこは高くて危険な為、普段は先生しか登れませんし、登りません。登っているところを見つかったら、職員室へ直行です。Yちゃんはその西側の窓の所の通路を指差しているのです。A君とは同じ班の男子の1人ですが、まだ来ていないと思っていました。A君はイタズラなど好きだったので、登ったのかと思い私も見上げるましたが、誰もいませんでした。

「え? どこ?」

「いないじゃん」

 Kちゃんにも見つからないらしく、きょろきょろと探しています。しかし、Yちゃんはただただ、通路の中央ぐらいの所を見ているのです。


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