その1
これは、私が小学3年生の時に体験した話です。
私達の学校は昼休みの後、掃除の時間が30分程あり、班ごとに割り当てられた掃除場所を清掃することになっていました。その時の班は、友達2人(仮にKちゃん、Yちゃんとします。)と同じ班で、女子が3人。男子が3人の計6人でした。
昼休みを終えるチャイムが鳴り、その後5分以内に掃除場所へ移動が原則でした。しかし、あまり実行する人は少なかったと思います。でも、私達はいつもチャイムが鳴り5分以内に掃除場所に到着していました。掃除自体は楽しくはなかったのですが、その時の掃除場所が“体育館”で、ステージに上がれたりするので、意外と楽しみながらやっていました。それに、掃除と称して早く行けば、体育館で遊んでいる上級生の人などを気兼ねなく見られるというのも私達を真面目にさせている原因でした。(体育館の扉はいつも閉まっており、下級生が入るには勇気が必要だったんです。Kちゃんはバスケット倶楽部の先輩に恋焦がれており……)まあ、“体育館”の清掃の時だけ、私達は真面目に時間内に掃除場所へたどり着く事にしていました。
私達の班の掃除場所が体育館になって数日たった日のことです。その日は強い雨が降っていました。雷もゴロゴロと鳴り、時々暗い空を稲光が走っていました。チャイムがなり、ざわざわとした昇降口の横に体育館につながる渡り廊下があります。体育館へ行くには1階のその渡り廊下を行かなければいけなかったので、濡れないようにびちょびちょの床を走って体育館のへ行きました。
いつもであれば扉が半開きになっている左右にスライドする鉄の扉は、その日は雨のせいか閉まっており中の様子は確認できませんでした。鉄の扉は小学3年生の女子には重たく、3人でゆっくり開けました。
中はとても静かでした。いつもは何人か居るはずの人が誰も居ないのです。バスケをしたボールを片づける人。掃除をさぼる為、ギリギリまで遊ぶ人。それに、体育館の鍵を開け閉めする先生。いつもいるはずなのに、その日は誰もいませんでした。そして、電気も付いておらず、扉の近くにあったスイッチを私達はすべてオンにしました。
一瞬遅れて体育館が明るくなりました。
「えー。S先輩いない!」
ぐるりと見回しているとKちゃんが結構大きめの声で言いました。私はKちゃんが先輩の名前まで調べてあることにびっくりしたのですが、それを流すようにYちゃんが言いました。
「私達が来るの遅かったんじゃない?」
時計を見ると昨日とほぼ同じ時間です。というよりも、昨日より数分ですが早いくらいです。
「でも、昨日より早いよ?」
率直な疑問をYちゃんに投げかけると、
「じゃあ、先輩達が雨だから早く移動したんじゃない? ほら、電気も消えてたじゃん」ともっともな答えが返ってきました。
それもそうだ。電気も消えていたし、先生が早く移動を促したのかもしれない。
そう思い、あきらめきれないKちゃんを放って掃除を始める為、用具入れから箒などを持ってきました。Yちゃんは形だけの掃除を始めたのですが、私は小さな好奇心でピアノを見つめていました。ステージの上にあるグランドピアノです。昼休みの時に誰かが弾いていたのでしょうか。ピアノの大きな蓋は開いており、鍵盤の蓋も開いていました。私はピアノを習っていたのですが、人前で弾くほどの腕ではなかったので、ステージ上のピアノに少し憧れていたのです。いくら私達が早く来てしまったとはいえ、同じ班の男子や、同じ体育館清掃の担当の人(体育館は広い為、違う学年の人も一緒に掃除をしていました)がいつ来てもおかしくはありません。触るだけでも……とも思いましたが、あきらめてYちゃんにならって掃除を始めました。Kちゃんもあきらめ箒を手に持ちました。私達は体育館の箒掃除担当でしたので、端の方から適当にはいていきました。4分の1ぐらいまで来たところでしょうか。突然、体育館に音が響きました。