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61.memo
あともう少し
あともう少し
そう思いながら
手をつなぐ
きっと朝がきて
玄関に吸いこまれていくあなたを
私は見送らなくてはいけない
玄関に行くまでに
何度も何度も
何かを言おうとするけれど
それが何かはわからないまま
だけどそれは
意味をなさないと
わかっているので
とにかく笑ってみる
「いってらっしゃい」
やるべきことは
恐ろしいほどたくさんある
だから
あなたがいなくても大丈夫
というのは嘘だけれど
あなたがいたら良いのに、と思う
あーでもない、こーでもない、と
話せたのに
時々、どうやって一人で生きていたのか
わからなくなるときがある
どうやって一人をやりすごせばいいのか
わからなくなる
独りで作業をした後や
独りでどこかに行った後は
その時まとわりついたであろう
緊張感や空気や他人との薄い膜を
どう取り除いたらいいのか
わからなくなる
あなたはそういうことはないですか?
私はあなたに抱きしめられたら
少しずつそういうものが
溶けていくのだけれど