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キスでうらぎるとか、少女まんがかよ
で、来たんだよ。
ゆだが。
兵士を何人も引き連れて、
たいまつの光がゆらゆら揺れて、
夜の静けさを、ざくざくと踏み荒らす足音が近づいてきた。
おれたちは一瞬、何が起きてるのか分からなかった。
でも、いえすは立ち上がって、
まるでそれを待っていたかのように、静かにその場に立ってた。
そして、ゆだが近づいてきた。
顔は笑ってるのに、目が笑ってなかった。
「せんせい……」って、
あいつ、いつもみたいな声で言って、
そのまま、いえすの頬にキスしたんだ。
……いやいやいや。
うらぎりの合図がキスって、どこの少女まんがだよ。
って、思ったよ。正直。
でも、いえすは怒らなかった。
剣を抜くことも、声を荒げることもなかった。
ただ、ほんの少しだけ、
ほんの一瞬だけ、
さみしそうに、笑ったんだ。
その笑顔が、逆に刺さった。
ああ、全部わかってたんだなって。
ゆだのことも、これから起きることも、
全部、受け入れてたんだなって。
そのとき、おれ、何もできなかった。
ただ、見てることしかできなかったんだ。




