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始まりの日•••フラワーナイト・リリィ誕生の日②

 思い出すのは病院のベットに横たわる妹の姿。一見、ただ寝ているように見えるが、数時間前までは荒い呼吸をしてずっと苦しそうにしていたなんて誰が想像できるだろうか?

 すると、白衣を着た大人達が何人もやって来て妹のベットの前に立つ。


「〇〇時〇〇分。死亡を確認しました」


 一人の大人が時計を見ながら何事かを呟く。そして妹の顔に白い布を被せる。そして、近くで見ていた母ちゃんは涙を流しながらその場に泣き崩れ、父ちゃんはそんな母ちゃんの肩をそっと抱きしめる。

 この時、俺はどうしていたか覚えていない。部屋を飛び出して何処かで一人で泣いていたのか、現実を受け入れられなくてただ呆然と立ち尽くしていたのか…………

 ともかくこの日。俺の妹…………天風詩織は永遠の眠りについた。




 それからしばらく、俺は一人塞ぎ込み、家に帰ると部屋に篭る時間が多くなった。両親も妹の死を受け入れるのに時間が掛かったのか、しばらくの間俺はそんな生活スタイルをしていた。しばらくすると、両親は立ち直ったのか俺の部屋の前で声をかけるようになった。でも、その頃の俺には妹の死は到底受け入れ難いものであり、両親が部屋の前で声をかけるのを部屋の中でただ黙って聞いているだけだった。

 そんなある日、俺は学校で急に倒れ込んでしまった。幸いクラスメイトが倒れている俺に気付き、すぐさま俺は救急車に乗せられ病院に運び込まれた。幸い命に支障はなく、その時担当した医師によると、余り食事を摂らなかった事と、ストレスによる過労が原因だろうと診断された。

 その時、ベットで寝ていた俺を心配そうに見つめる両親の顔は今でも忘れられない。

 その後、退院した俺は両親に迷惑かけないように今まで通りの生活を送ろうと決意した。両親もそれが良い事だと思ったのか何も言わず、俺達家族は以前と変わらない生活を送るようになった。

 だだ………昔みたいにアニメは観ないようになった。アニメはずっ妹と一緒に見ていた。アニメを見てしまうと、どうしても妹との楽しかった思い出を思い出してしまうからだ。





 それから時が経ち、俺は高校生になった。

 ただ、高校は妹の事もあり、知り合いがいない、ちょっと遠め高校に進学する事にした。

 入学式を終え、教室で一人ボーッとする俺。すると一人の女子が俺に声をかけてきた。


「千晶…………千晶だよね。久しぶり!小学生以来だよね」


 誰だこいつ?俺は突然話しかけてきた女子の顔を見る。正直見覚えがない。てか小学生で俺と仲良かった女子って…………


「優里香?お前優里香なのか?」


「そうだよ。久しぶりだね千晶」


 俺はその女子の事を思い出し名前を告げる。するとその女子はにんまりと笑顔を俺に向ける。

 白石優里香。俺の幼馴染というかなんと言うか、当時家が近所だった為によく一緒に遊んでいた。ただ、小学校卒業の時に優里香は私立の中学校に入学する為、別々になった。

 まさか高校で再会するとは思っても見なかった。


「どう、驚いた?私、ここで千晶と再会するなんて思わなかったよ」


 そう言う優里香を、俺は観察する。最後の記憶が小学生だった事もあり印象がだいぶガラッと変わっていた。当時は肩までだった髪は、腰まで伸びそれを纏めてポニーテールにしている。当時は余り意識しなかったが、身体つきが完全に女子のそれになっており大人っぽくなったように感じる。


「ああ……そうだな。俺もここで白石と再会するなんてな」


 俺はわざとらしく優里香を苗字呼びする。俺は妹を亡くしてから、余り人と関わらないようにしている。


「何その白石って?昔みたいに優里香って呼べばいいじゃん」


「別にどうだっていいだろ。それより、もうすぐホームルーム始まるぞ」


 優里香と余りカ関わり合いたくなかった俺は、お決まりの決まり文句で優里香を追い払おうとする。


「…………分かった。じゃあまた後でね」


 そう言って優里香は席に戻って行く。て言うかまたって、もしかしてまた来るつもりか。勘弁してくれ…………

 俺は憂鬱な気持ちでホームルームを受ける事になった。





「千晶、一緒に帰ろう!」


 その日はホームルームだけだった。俺はすぐに帰宅しようと思ったところ、優里香に捕まった。

 最悪だ。またっ、て言ったから話しかけられる前に教室を出ようと思ったのに。


「……………………」


 俺は優里香の言葉を無視して、自分の鞄を持ち教室を出ようとする。


「ちょっと、無視は酷くない?用事とか何かあるならはっきり言ってよ」


 優里香は俺の腕を掴んで真剣に言葉を放つ。

 ああもうめんどくせえなぁ…………


「もう俺に関わるな。小さい頃一緒だったにせよ、もう俺には関係ない事だ」


 俺は優里香にはっきりと言い放って、手を離そうとする。しかし、優里香は一層力を入れて手を離そうとしない。


「関係ないって………なんなのその言い方!そりゃ中学の時は別の学校だけど、こうして同じ高校に通っている訳だし、昔みたいに詩織ちゃんと仲良く…………」


「詩織は死んだよ」


 俺は優里香の言葉を遮って言葉を告げる。正直言ってこの言葉を言うのは辛い。俺自身まだ完全に整理仕切れて無い。


「えっ…………今なんて?」


 優里香は意味を理解できないと言った顔を俺に向けてくる。

 …………正直何度も言わせないで欲しい。


「詩織………妹は数年前に亡くなったんだ。だからもう昔みたいに遊ぶ事は出来ない。…………分かったならいい加減離してくれないか?」


 俺がそう言うと、優里香は無言で手を離してくれた。そして俺は逃げるようにその場を後にするのだった。


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