アプレンティス・リリィ②
その後、千晶は学校に登校したが相変わらず頭の中は今朝のニュースでいっぱいだった。
(フラワーナイト・リリィが恐喝の犯人を吹っ飛ばした?いやいや、そもそもリリィは俺だし昨日は変身していないし……)
教室の机に座り、心の中で自問自答する千晶。すると、教室のドアが勢いよく開き、一人の女の子が凄い勢いで千晶の机の前までやってきた。
「白石、おは……おわァ!」
女の子……白石優里香は千晶の挨拶を無視して彼の腕を掴みそのまま廊下に引きずりだす。
彼女は千晶の幼馴染で千晶がフラワーナイト・リリィだと知っている数少ない人物であった。
「チョッ……おい!……白石!」
優里香は千晶の言葉に耳を貸さずにズカズカと歩き続ける。やがて人気の無い場所までやって来ると千晶を壁側に押しやり、壁に手を打ちつける。
「千晶!今朝のニュースどう言う事!?」
思わず逆壁ドンだなと心の中で思いながら、千晶は反論する。
「知らねぇよ!昨日はリリィに変身してねぇし、夜は金山達と一緒にいたし」
「本当にぃ……?そもそもフラワーナイトリリィなんて名乗るの千晶ぐらいしかいないんじゃないの?」
千晶の反論に優里香は訝しげに答える。
優里香は千晶がリリィに初めて変身した際、その場いた為千晶がリリィだと知る数少ない人物なのだ。
「嘘なんて言ってねぇって!なら後で金山達に確認するか!?」
優里香の挑発的な言葉に千晶もついムキになってしまう。
――ピーン――ポーン――パーン――ポーン――
すると、ホームルームを告げる予鈴が鳴り、優里香は壁から手を離す。
「……まあ良いわ。千晶が嘘を言っているかどうかはすぐに分かるし。精々首を洗って待っている事ね!」
と、謎の捨て台詞を吐きながら優里香は教室に戻って行く。
「……何なんだ。アイツ?」
千晶は釈然としないモノを感じながらも教室に戻るのだった。
「昨日の夜?ああ、確かに天風は俺等と一緒に居たぜ」
一時限目が終了するやいなや、優里香は一人の男子生徒に詰め寄っていた。
彼の名は金山信彦。一年の時からの千晶達のクラスメイトだ。
「本当に?千晶が途中で用事があって帰ったりとかしてなかった?」
金山の答えに優里香は尚も食い下がる。すると、金山の隣に居た別の男子生徒……中山将平が口を挟む。彼は金山と同じく、一年の時からのクラスメイトで金山とは幼馴染だ。
「いや、俺達は結構遅くまで一瞬に居たぞ。そもそも、白石は何を俺達に聞きたいんだ?」
「えっと……それは……」
中山の言葉に優里香は思わず口籠ってしまう。流石にリリィの事を中山達に話す訳にはいかないが、どう話せはいいか迷っているようだった。
「そ、そもそもそんな夜遅くに男三人で何してたのよ!?」
優里香は半ば強引に話題をすり替える。金山と中山は特にその事に言及せずに互いに顔を見合わせる。
「何って……天風の歓迎会」
「千晶の歓迎会?でもそれって日を改めるって言ってなかった?」
金山の言葉で優里香はある事を思い出した。
一週間前、優里香達はある部活のボランティア活動の末、その部活への加入を決めていた。しかし、同じくボランティアに参加していた千晶だけが部活への加入を躊躇っていた。その後、結局千晶も加入したのだが、謎に部活の先輩面したい金山が、千晶の歓迎会をしようと言い始めたのだ。
しかし、優里香と元々在籍していたその部活の部員、朝霧直輝はその日は用事があるからと帰ってしまったのだ。
「まぁ、それはそうなんだけど……」
「……単純に、コイツが騒ぎたくて俺達は巻き込まれただけだ」
優里香の言葉に千晶と中山が溜息混じりに答える。その言葉に優里香も何かを察したように頷く。
「…………何だよ二人共。昨日は楽しかったからいいじゃねぇか」
金山が一人何かを言っているのを三人は溜息で返すのだった。
――――――――――――――――――――――――――――
放課後、千晶達はとある教室に集まっていた。
そこは彼らが所属する超常現象研究部の部室なのだ。
ただ、部員はまだ全員揃っていなく、彼らは教室で思い思いに……金山と中山、優里香は椅子に座り談笑、千晶は棚でノートを読んでいた。
「千晶……今朝はごめんね」
棚の前でノートを広げて読んでいる千晶に白石が近づき、謝罪をしてきた。
「別に、もう怒ってねぇよ。…………けど」
千晶は声を潜める。その態度に優里香も千晶の言おうとする事を察したのか近くに寄る。
「フラワーナイトリリィにやられたって……どう言う事なんだ?」
「うーん……千晶じゃないとすると、偽物?」
優里香の答えに千晶は考え込む。
「偽物……例えばブラックリリィが魔物を使ってとかか?」
千晶は思い当たる事を口にする。去年、千晶はリリィに変身しブラックリリィと直接戦った事があるのだ。しかし、そのブラックリリィは魔物で作った偽物であると、彼女自身が言っていたのだ。
「……多分、ブラックリリィじゃないと思う」
千晶の言葉に優里香は少し考えた後、自信なさげに否定する。
「どうして?」
「私がブラックリリィの立場だったら、間違いなく一般人を襲うわ。わざわざ恐喝を働いた悪い人をやっつける理由が無いもの」
「それは……まぁ、そうだけど……」
(ただ……ブラックリリィが何を考えているかは正直分からない所があるからな〜)
何回か相対している敵の女幹部の事を考え千晶は心の中で一人愚痴る。
(……実際、私も今回は寝耳に水だし、千晶じゃないとしたら……まさかね)
千晶が黙ってしまったタイミングで優里香も心の中で考えをまとめる。
「…………ねぇ千晶。リリィの事、部活で調べてみない?」
「は?どう言う事だ?」
突然の優里香の提案に千晶は驚きの声を上げる。
「そのままの意味。今回の事ってある意味超常現象みたいなものじゃない?だったら部活動として活動するのは当然だと思うけど」
「まぁ大の男を吹き飛ばしたなんて、普通は考えられないけど……」
――ガラガラガラ――
二人がそんな事を話していると、教室のドアが開き二人の男女が姿を現した。
「ほう、全員揃っているな感心感心。じゃあ、超常現象研究部の部活を始めるぞ」
そう言って女性……杉山順子は千晶達に椅子につくように促す。
そして、全員が椅子に座ったのを確認すると、もう一人の男子……朝霧直輝が口を開く。
「えっと……皆さん。今日は新体制で初の超常現象の研究、調査を行っていきたいと思います」
直輝の言葉に教室にざわめきが走る。そんな中、中山がスッと手を上げる。
「研究、調査をするって言っても議題はどうするんだ?」
中山の質問に直輝に変わって順子が答える。
「超常現象研究部の議題はお前達で話し合って決めてくれ。基本的に、私は顧問だからお前達の決めた議題に従うが、調査の最中に命の危険が伴った場合は止めさせてもらうからな」
順子の言葉に皆一瞬ドキッとしたが、直ぐに切り替え話を進める。
「では早速ですが、何か研究、調査したい事はありますか?」
直輝の言葉に優里香がスッと手を上げる。
「では、白石さん」
「はい」
名前を呼ばれた優里香は椅子から立ち上がると、皆を見回す。
「皆は今朝のニュースを見た?昨日男三人を吹き飛ばしたって言うフラワーナイトリリィの話」
優里香の言葉に、金山以外がうんと頷く。
「俺、ニュースはあんま見ないから。占いはチェックするけど」
今日の占いランキングは一位だった、と自慢する金山を無視し、優里香は話を進める。
「……そのフラワーナイトリリィの事を調査したいと考えているんたげど、どうかな?」
優里香の言葉に周りから反対の言葉は出なかった。
「と言う事ですが、僕は構いませんが皆さんはどうしますか?」
その様子を確認した直輝は皆に決を取る。
(一応、先生が危なくなったら止めるって言ってくれてるし……やってみるか)
すると千晶も含め全員が頷く。
「分かりました。では新生超常現象研究部の最初の議題は、フラワーナイトリリィの調査にしたいと思います」
直輝の言葉に教室内に拍手が木霊するのだった。
「では、早速調査を……と言いたいんですが」
そう言って直輝は席を立つと棚に向かい、そこから一冊のノートを取り出し、机に広げる。
「皆さん。これを見てください」
それは、以前千晶が読んでいたフラワーナイト・リリィについて書いてあるノートだった。
「え~と何々、――化け物と戦う女の子!正体は不明。ただ、自らを花の騎士フラワーナイト・リリィと名乗っていた。
今後も、引き続き調査をしていく予定――これ!フラワーナイトリリィって書いてあるぞ!」
「……大声を出すな。見れば分かる」
興奮する金山を、中山が嗜める。直輝は他の皆を見回した後、口を開く。
「……この資料は昨年、僕と先輩方で調べて集めた物です。ですが……」
そう言って直輝は他のページを捲る。その後再びリリィのページに戻す。
「……資料が少ないな。他のページには新聞の切り抜きが貼ってあるのに、このページには考察なのか何人かが書いた文字しかないな」
「…………言われて見れば確かに」
中山の言葉に金山は頷く。すると、直輝は我が意を得たと言わんばかりに頷くと、ノートを閉じる。
「超常現象研究部は、以前フラワーナイト・リリィについて調べていたんです。しかし、今皆さんにお見せした通り、彼女に関する情報があまりないんです。ですので」
そう言うと直輝は皆を見回し口を開く。
「皆さんの中で、何か知っている事があれば教えてほしいのです。それが今回の活動の第一歩です」
直輝の言葉に一同は周りを見回すか、思い当たる節がないかと考え込んでいる。そんな中、直輝は千晶の事をじっと見つめていた。
「ん……何だ?」
「天風君は何か知らないですか?この間もあのノートを真剣に読んでいたみたいですし、僕に彼女の事を聞いてきましたし」
「それは……」
直輝の言葉に千晶は言葉に詰まる。リリィの事を言えないという訳ではなく、どう説明したらいいか悩んでいるのだった。
「……実はね。朝霧君」
それを見兼ねた優里香が、千晶に助け舟を出すように口を挟む。すると朝霧だけでなく金山達も優里香の話に耳を傾ける。
「去年、私と千晶はフラワーナイト・リリィに会っているの」
「ッ!……本当ですか!」
優里香の答えに直輝は食い気味に反応する。優里香は頷きつつ、千晶に目線を送る。
(話を合わせろって事か……)
千晶は皆に気付かれないように小さく頷く。それを見た優里香は話を続ける。
「うん。正確には私と千晶が怪物に襲われそうになった所を、リリィに助けられたって所かな」
優里香の答えに直輝は気になる事があるのか少し考え込む。
「そうだったのですか。一応怪物に遭遇したって言う人全員には話を伺ったはずだったんですが…………」
「その時は千晶の家の近くで、他に誰も居なかったし………私も千晶もいちいち怪物に襲われました。なんて周りに言うつもりもなかったから」
「……………………」
優里香の言葉に直輝は考え込んでしまう。すると今度は金山が優里香達に質問する。
「なあなあ!そのフラワーなんとかリリィって可愛いのか……髪型とか服装とか」
「フラワーナイト・リリィ。そうだな、特徴は………」
金山の言葉を千晶が否定して、皆にリリィの特徴及び外見を説明する。
「ん?ちょっと待ってくれ」
すると唐突に中山が声を上げる。皆が注目する中、少し考えた後中山が口を開く。
「……今朝ニュースで聞いた特徴と所々違っている。俺が見たニュースではその子は髪は肩までで、千晶達が会ったリリィは髪を腰まで伸ばしていたんだよな」
中山の言葉に千晶と優里香はうんと頷く。直輝もハッとなる中、金山は一人ピンと来ていない様子だった。
「髪の長さって……天風達が会ったのは一年前だろう。もしかしたら髪を切ったかもしれないじゃないか」
金山の問いかけに一同は、複雑な顔をする。
「………確かに、その可能性もないとは言い切れません。とりあえず現状としては、前に活動していたリリィが再び髪を切って姿を現した。或いは、別の誰かがリリィを名乗っている。この二つの方向で調査を進めていきましょう」
――パンパン――
と、今まで黙って見ていた順子が手を叩いて会話を中断させる。
「盛り上がっている所悪いが、今日はもうお開きにしよう。朝霧、ここからは実際に街に出て調査をした方がいいと思うが」
「そうですね………という訳で皆さん。次は街に出て聞き込み調査をしたいと思います。ただ、今からは無理なので皆さんの都合の良い日を決めてそこで調査したいと思います」
順子と直輝の提案に皆賛成し、街での聞き込み調査の日程を決めてこの日はお開きとなったのだった。




