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アプレンティス・リリィ

「んあっ……くっ!」


 とある深夜。何処からかくぐもった声が聞と誰かが地面に倒れ込む音が聞こえた。


「ッたく……手こずらせやがって」


「とっとと家に帰りな」


 人気の無い裏路地で中学生ぐらいの男の子が、柄の悪そうな風貌をした男達三人組に暴行を受けていたのだ。


「ッ!返せ……」


 男の手には財布が握られており、男の子は財布を取り返そうと男にしがみつき、必死にもがいていた。


「やだね!……とは言えこいつの有り金しけてるな」


「まぁいいじゃん。この調子で後十人ぐらいボゴせばそれなりに遊べる金額になるっしょ!」


 と、男は笑いながら男の子を引き剥がしそのまま突き飛ばすと、空になった財布を放り投げる。

 残りの二人はその様子を笑いながら見ていた。


 ――ガシャ――――――ン!――――


 男の子はそのまま裏路地に置かれた資材に激突し、動かなくなった。


「んで、次はどうする?」


「取り敢えず手当たり次第?」


「塵も積もれば山になるってね」


 三人の男達はそのままその場を立ち去ろうとする。


「貴方達!待ちなさい!」


 すると、何処からか声が聞こえたかと思うと三人の行く手を阻むように一人の女の子が裏路の上から降り立った。女の子の姿は建物の影と重なってシルエットでしか見えなかった。


「何だお前?…………俺達は女だからって容赦しねぇぞ」


 男の一人が口を開きながら女の子に近づき、肩に手を置く。すると、女の子は男の手を掴むとそのまま男達に向かって投げ飛ばした。


「ッ!……てめぇ!」


「一体何もんだ!?」


 大の男を軽々と投げ飛ばす目の前女の子に男達は警戒を露わにする。すると、男達の問いに答えるように女の子が一歩前に出る。女の子は髪を肩まで伸ばし、白色のワンピースを着て、同色のグローブにブーツを履いていた。


「貴方達のような悪人は、この()()()()()()()()()()が成敗します!」


 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あれ?ここって……」


 天風千晶が目を覚ますと目の前に見覚えのある光景が広がっていた。

 一面真っ暗闇の空間。だが、千晶は恐怖を感じてはいなかった。


「ここに来るのも、もう随分と慣れたもんだよな」


 彼がここに来るのはこれで三度目。一度目は戦いの最中、二度目はその数時間後だった。慣れ親しんだ空間で待つこと数分(実際の時間の概念はでは無く千晶の体感での話)、千晶の目の前に光が出現した。やがて、光が収束すると袖無しのワンピースを着た女の子が立っていた。


「お久しぶりです。千晶」


「おう。ていうか、そんな久しぶりでもない気がするけど」


 千晶がそう答えると、女の子……リリィは何もない空間から椅子を二つ出現させる。

 リリィが椅子に座るとその隣の椅子に千晶も腰を降ろす。

 

「それで、今日は何の用事だ?」


 千晶はリリィに向き直りると早速質問を投げかける。すると、リリィは迷うように口を親指と人差し指の間に乗せる。


「……その後の鍵の探索具合はどんなものかと思いまして。後は色々と……」


 少し言葉を選ぶようにリリィは言葉を返す。

 リリィ……彼女は千晶に悪と戦う力、フラワーナイト・リリィに変身する為の力を授けた張本人である。

 彼女はその昔、地球を支配しようとする悪の魔王と戦った際、自らを犠牲にし魔王を封印。その魂を五つの漆黒の球に分けたのだ。しかし、その封印の()は魔王の眷属達により、今現代において集められようとしている。

 今の所鍵は千晶が一つ、魔王側にいるブラックリリィという女が一つづつ持っているのだった。


「……すまん。まだ一つも見つけられてないんだ」


 リリィの言葉に千晶は申し訳なさそうな顔をして謝る。そんな千晶の態度に、リリィは慌てて両手を左右に振る。


「あっ!すいません。別に責めている訳じゃないんです!…………」


 そう言うと申し訳なさからか、リリィは押し黙ってしまう。すると、今度は千晶の方から話題を振る。


「なぁリリィ。魔将軍ガラムって知っているか?」


 千晶の問いに、リリィは顎に手を載せて考え込む。


「ガラム……ええ知っています。私達戦乙女(ヴァルキリー)が魔王と戦っていた中で、群を抜いて強かった記憶があります。でも千晶、何故いきなり」


「あぁ。それは……」


 千晶はガラムの臣下を名乗るガガと言う戦士とグライムと言うコウモリと戦った事を説明した。


「そうですか……ガラム自身も強敵でしたがその臣下まで復帰していたとは……」


「けど、だからと言って弱音を吐くつもりは毛頭ない。必ず封印の鍵を全て手に入れてみせる。……とは言っても未だ残り鍵を見つけられてないから説得力ゼロだけどな」


 神妙になるリリィに対して、千晶は自身ありげに答えたかと思うと、急におちゃらけるように言う。


「…………そんな事はありませんよ」


 そんな千晶にリリィは微笑みかける。


「リリィ?」


 ――キュイン――


 リリィがボソっと呟いたかと思うと、急に世界が白み始める。


「どうやら時間のようですね。千晶、また会いましょう」


 その言葉を最後に、千晶の意志は途絶えるのだった。


 


「んっ。……あれ?」


 千晶が目を覚ますと、そこは自分の部屋のベットの上だった。


「んっ……んーーッ。ふぁあ〜あ」


 ベットの上で伸びをした千晶は、起き上がると寝間着を着替え、いそいそと階段を降り居間に顔を出す。


「おはよう、千晶」


 すると、台所から千晶の母親がお盆に朝食を載せたまま姿を現す。


「んっ!……親父は?」


「もう仕事に行ったわよ。それより、起きたんならさっさと朝ご飯食べちゃいなさい」


 千晶は母親に促されるままにテーブルに座ると朝食を食べ始める。


「あっ!そうだ母ちゃん」


「んっ?なあに?」


 朝の支度をしながら千晶の母親は返事を返す。


「今日、放課後部活があるから帰り遅くなる」


「部活?……あぁ優里香ちゃんと一緒の。分かったわ」


 母親は千晶の言葉に思考を巡らせ、息子が幼馴染と部活に入った事を思い出していた。


(あの千晶が部活にねぇ……今年は詩織に、良い報告が出来そうだわ)


 母親は息子の変化を内心で嬉しく思いながら、台所に戻っていく。

 一方の千晶は、朝食を食べながら朝のニュースを眺めていた。ニュースの内容は特にこれと言ったものもなく千晶の興味を引くものもなかった。


「ほら、あまりテレビばっか見てないで早く食べちゃいなさい。遅刻するわよ」


 すると、台所から母親の声が聞こえてきた。

 その言葉に、千晶は食べる事に集中しようとする。


『次のニュースです。昨夜、中学生から現金を脅し取ろうとした罪で、無職の三人組の男が逮捕されました。彼らは警察が駆けつけた際、路上に転がっており、「フラワーナイトリリィにやられた」と、意味の分からない言葉を口走っていました。付近の目撃者によりますと、女の子が男達を吹き飛ばしたと言う話もあり、警察は三人の精神鑑定と、その女の子について詳しく調べていく方針です』


「…………は?えっ?どう言う事?」


 千晶は食べる事を忘れ、思わずテレビに問いかけてしまうのだった。

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