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バレンタイン特別編⑥

 


「……んっ!……私……一体?」


 意識を失っていたフラワーナイト・リリィは頭を振りながら目を覚ました。


(確か……バレンに負けて……それから……)


 リリィは未だ意識のはっきりしない頭で、これまでの事を振り返る。そして今の状況を思い出すのだった。


「ッ!そうだ!バレン……ブラックリリィ!」


 声を上げ、辺りを見回すリリィ。すると彼女の眼にとんでもない光景が映った。


「……ブラック……リリィ?」


 ブラックリリィは十字架のような物に磔にされていたのだ。彼女は意識を失っているのかぐったりとしている。しかも彼女のワンピースは所々破けていて、そこから見える素肌には鞭で打たれたような跡が残されていた。


「ブラックリリィ!…………ッ」


 声を上げ、ブラックリリィに近づこうとするリリィ。しかし、彼女のコスチュームは未だ赤いロングワンピースのままで、彼女の意思に反して身体は動こうとしない。


「ふん!やっと目覚めたか」


 すると玉座の方から声が聞こえてきた。リリィがそちらを向くと燕尾服にモノクル眼鏡といった執事の様な格好の人物が玉座に座っていた。


「貴方は……イロ!」


「ほう俺の名前を覚えていたとはな」


 イロはリリィの返事に感心しながら立ち上がり、玉座を離れると磔にされているブラックリリィに近づいていく。


「貴方がブラックリリィをこんな目に遭わせたのですか……一体何のために?」


「何のため……こいつは俺を地面に這いつくばらせた!その報いを受けさせているのさ」


 そう言ってブラックリリィの側についたイロは何処からか取り出したナイフを、ブラックリリィの太ももに突き刺す。


「ぐっ……あああああああああああああ!」


 太ももを刺された痛みで、ブラックリリィは意識を取り戻し悲鳴を上げる。


「やめて!彼女にそれ以上酷い事をしないで!」


 リリィの懇願にイロはナイフを持つ手を離し、リリィに近づく。

 そして彼女の脇腹に蹴りを入れ、彼女の背中を踏みつける。


「ゴフ…………ゲホ…………ゲホ……ぐっ、ああああ!」


 リリィは防御をすることもできずにされがままだ。


「ふん!弱い奴が俺に命令するな!お前らはいずれ俺の物になるんだ。バレンと同じようにな!」


 そう言ってイロは高笑いをし始める。


「ぐっ……ば、バレンと同じようにって……どういう事ですか?」


 リリィは踏みつけられる痛みに耐えながら疑問に思った事を口にする。


「ああ、そう言えばお前は気絶していたから知らないんだったか。バレンは俺の操り人形だったてことさ」


 そう言ってイロは自分の目的を語り始める。


「元々の俺の目的はバレンを使っての世界制服。俺は元々この世界の住人じゃない。故あって別の世界からこの世界に流れ着いたんだよ。そしてお前ら人間と暮らしているうちに嫌になって、お前ら馬鹿な人間を支配しようって思ったわけさ。チョコ神様って言う噂話をネット等を使って広め、それによって集まった力をバレンに集めて人間達を支配するつもりだったんだよ。逆らう者は人型を使って始末してな!」


 そこでイロは一旦言葉を切る。


「そんな!そんな事のために今回の騒動を…………あんっ!」


 リリィが反論しようとすると、再びイロは足に力を入れてリリィを踏みつける。


「ああそうだよ!お前達下等な人間はこの俺様に支配されるべきなんだよ!……だかしかし、馬鹿だよな〜あの女は」


 そう言ってイロはブラックリリィを指差す。


「お前を見捨てて俺と戦っていれば万に一つの勝機があったものを、お前を人質にとったらあっさり降伏しやがった。まあお前がバレンに操られている時から傷つけないようにしていたから利用したんだけどな」


 イロの言葉にリリィは絶望的な気持ちになる。


(そんな……それじゃブラックリリィは……私せいで……)


「………あんま勝手言ってんじゃないわよ」


 するとそれまで黙っていたブラックリリィが怒りのこもった声を上げる。


「私が降伏したのは私の為。リリィちゃんは関係ないわ。それより、あんたの方こそリリィちゃんを人質に取らないと、私に勝てない卑怯者の癖に、あんまり調子に乗らない事ね」


 ブラックリリィはイロに毅然と言い放つ。するとイロはリリィから足を離す。


「……そうか。そんなに死にたいなら……先に殺してやるよ!」


 そう言ってイロは鬼気迫る表情でゆっくりとブラックリリィに再び近づいていく。


「ま、待って……う、動いて!動け!私の身体!」


 リリィはブラックリリィを助けようと必死に身体を動かそうとするも、彼女の身体は全然言う事を聞かない。


「無駄だ。バレンは俺の人形。つまりあいつの力は元々俺の力だ。未だお前は俺の支配下、そこで大人しく見ていろ」


 そう言ってイロは再び、ブラックリリィに近づいていく。


(く、悔しい!……私は見ているだけしかできないの?)


 リリィは絶望の余り目を瞑ってしまう。すると…………


(…………ィちゃん……リリィちゃん……)


 リリィの頭の中に声が聞こえてきたかと思うと、彼女はそのまま意識を失ってしまった。






 気がつくとリリィは何もない真っ暗な空間に一人立っていた。


(あれ?ここって……確か前に来た事があるような……)


 その光景にリリィは見覚えがあった。それは彼女が隣の県で魔物と戦った時に、魔物のエナジードレインで意識を失った際に来た場所にそっくりだったのだ。但しその時は千晶の姿だったが、今はリリィの姿のままである。


「リリィちゃん」


 ふと自分を呼ぶ声に振り返ってみると、そこにはブラックリリィが立っていた。


「ブラックリリィ!……怪我は大丈夫ですか?」


 リリィは心配の声を上げながら彼女に近づいていく。


「大丈夫も何も……ここはリリィちゃんの意識の世界。だからここに居るのは現実の私ではないわ」


 ブラックリリィは近づいてくるリリィを手で制す。


「私の意識の世界?……それってどう言う……」


「ごめんリリィちゃん。時間が無いから手短に話すわ」


 そう言ってブラックリリィは真面目な顔になる。リリィは黙って頷く。


「まず私は、リリィちゃんに力の一部を渡していたの。貴女を抱きしめた時と貴女を気絶させた時。で、今私がこうして姿を現せたのはリリィちゃんの中で私の力が馴染んた証拠なの」


 ブラックリリィはそう言って一旦言葉を切る。


「で、ここからが本題。これからリリィちゃんに私の残りの力を渡すから、奴……イロを倒してほしいの」


「ブラックリリィの力を私に?……でも今の私は身体の自由が効かない。やりたくても出来ないわ」


 ブラックリリィの言葉にリリィは首を横に振る。


「大丈夫!私の力があればリリィちゃんを自由に出来る。ただ…………」


 ブラックリリィはそう言って俯いてしまう。


「何?何か問題でもあるの?」


「…………ただ、リリィちゃんの身体にものすごい負担が懸かる。それを加味して戦えるのは数分。それ以上はリリィちゃんの身体が壊れてしまう可能性が高い。たからリリィちゃん……」


 ブラックリリィが何か言う前にリリィはブラックリリィの両手を握りしめる。


「ブラックリリィ……貴女にどんな理由があったのかは分かりませんが、貴女は操られていた私を見捨てなかった。だから……今度は私の番。絶対にあいつを倒してみせる!」


 リリィの覚悟を見たブラックリリィは覚悟を決めて頷く。

 すると、彼女の身体が仄かに光だし徐々に薄くなっていく。そしてそれに合わせるようにリリィの意識も薄れていく。


「分かったわ。じゃあ後はよろしくね……………………千晶」


「えっ……今……」


 そしてリリィの視界は真っ白になり意識が遠のくのを感じた。





「んっ……何だ?」


 イロは自分の背後で強烈な光が放たれていることに気づき、足を止める。そして、振り向くと倒れていたリリィの身体から、光が放たれていることに気づく。


「ちぃ……小娘め。無駄な足掻きを…………何?」


 イロは支配の力でリリィを支配しようとするも、全く手ごたえが無い事に疑問を覚える。

 そして光が収まると、そこにリリィの姿はなかった。


「奴め……一体何処に………!」


 イロは辺りを見回すと、捕らえていたブラックリリィの姿もない事に気づく。慌てて辺りを見回すと、少し離れた場所にブラックリリィをお姫様抱っこしたリリィを見つける。


「お前……その格好は一体?」


 イロはリリィの格好に疑問を覚えた。リリィの格好は、先程までの赤いロングワンピースでは無く、さりとてイロが最初に見た騎士風の衣装ではあるのだが細部が異なっていた。

 元々純白だった衣装に所々黒い線のようなものが入ったいる。加えてグローブ、ブーツが左右で異なっており、右が白。左が黒に変わっていた。また銀髪だった髪にも所々に黒色が混ざっていた。


「これはブラックリリィが私に託してくれた力……白と黒の融合……フラワーナイト・リリィ……カオスフォーム!」


 言いながらリリィはブラックリリィをゆっくりと床に下ろし、自らのマントを毛布代わりにブラックリリィにかける。


「イロ……人々を身勝手な理由で支配しようとする貴方の暴挙。許す訳にはいきません!」


 そう言ってリリィは立ち上がると腰から剣を抜き、イロに突きつける。


「貴方はここで倒します!覚悟して下さい!」


 そう言うや否や、リリィはイロに向けて走り出す。


「くくく……覚悟するのはお前の方だ!」


 すると、イロも同様にリリィに向けて走り出す。両者は接近するとお互い自ら獲物で攻撃を開始する。


「フッ…………ハッ!」


 リリィは持ち前のフットワークを活かしてどんどんと斬撃を繰り出す。

 しかし…………


「フン!そんな攻撃……俺には効かん!」


 イロはリリィの斬撃をもろともせず、リリィに拳を見舞おうとする。実際リリィに斬られた場所はすぐに再生していまう。

 そして、リリィもまた、攻撃を紙一重で避けているのだった。


(くっ!このままでは埒があきません!)


「風よ!私に力を!」


 リリィは暴風を発生させ、イロを吹き飛ばす。この風はブラックリリィから力を渡された際に、彼女も使えるようになったのだ。

 そうしてイロを吹き飛ばしたリリィは、一気にある場所に向けて走り出す。


(彼女も言っていましたが……時間がありません!何とかあの石像を破壊しないと……)


 リリィは先程のイロの言葉とバレンの行動から、あの石像がバレンに力を集めているのだと確信していた。そして、あの石像を破壊すればイロを弱体化させられるかもしれない。リリィはそう考え、石像に近づこうとする。

 しかし、リリィは横から現れたイロの体当たりをくらい、大きく吹き飛ばされてしまう。


「あぅ……くぅ……」


 リリィは受け身を取りながら立ち上がる。


「はぁ……はぁ……行かせんぞ小娘!」


 イロは肩で息をしながら、リリィの行く手を阻む。リリィは体制を立て直しイロと向き合う。


「……やはりあの石像が貴方の弱点なのですね?」


 リリィの言葉にイロは含みのある笑みを浮かべる。


「弱点?だったら何だ。貴様を近づけずにこのまま葬り去れば良いだけの事」


 そう言うとイロの身体が変化をし始める。まず衣服が弾け飛び、筋肉が膨張を始める。さらに身長が二メートルを超える巨体に変化し、背中から触手のような手が何本も生えてきたのだ。


「このまま貴様を嬲り殺しにしてやるわ!」


 そう言うと背中の触手が一斉にリリィに向かって伸びていく。


「ッ……風よ!」


 リリィは風の刃を生成し迫り来る触手を切り落とす。しかし触手は次々と再生し、イロが二メートルの巨体に似合わない素早い動きでリリィに接近する。


「ッ…………ヤァ!」


 リリィは風と剣捌きで触手と徒手空拳を迎撃するも、そのまま徐々に押され始める。


(マズイ!……このままじゃ時間が……)


 リリィは内心焦りを感じていた。今はブラックリリィの力があって何とかイロの攻撃に対応できているものの、やがて力が尽きてしまえばもうリリィにイロに対する力はなく、そのまま殺されてしまうだろう。


「フハハ……どうした?もうお終いか?」


 それを分かってか、イロは必要以上に深追いはせずに、リリィを攻撃し続ける。


(くっ!何とか石像を破壊できれば……)


 それでも諦めずに打開策を模索するリリィ。しかし、イロの猛攻が激しくその場から動けずにいた。


 ――――ズドーン――――――――


 すると突然、ものすごい音が辺りに響きわたり、辺りに煙が充満し始める。


「なっ!ぐッ!あああああああ!」


 突然イロが頭を抱えて苦しみ出したのだ。そのままイロは徐々に後退する。


「い、一体?……ッ!」


 やがて、煙が晴れると石像があった場所に大きな穴が空いていて石像が無くなり、魔法陣にも亀裂が走っていた。


「…………はぁ……はぁ……私の事を忘れてもらっちゃ困るわね」


 ブラックリリィが右手を石像があった方に向けて突き出していたのだ。彼女は最後の力を振り絞って力を発動し、石像と魔法陣を破壊したのだ。


「ブラックリリィ!」


 慌ててブラックリリィに駆け寄ろうとするリリィ。


「…………私の事はいいから……早く……トドメを!」


 しかしそんなリリィをブラックリリィは言葉で止める。言葉にを受けたリリィはイロに向き直り、剣を構えてる。


「お……おのれ…………小娘共!」


 イロは頭を抱えながら、背中の触手を一斉にリリィに向けて放つ。


「ハッ!」


 リリィは風の膜を形成し触手を迎撃。そのまま一気に駆け出しイロに迫る。


「死ね――――――!」


 イロは拳をリリィに向けて振り下ろす。しかしリリィは大きく上にジャンプして回避する。

 そのままイロの真上に到達し、剣を振り下ろす構えを取り、意識を集中する。


「風と光よ。私に力を!フラワーナイトスプラッシュ!ソ――――――――ド!」


 風と光を纏った剣をリリィはイロに向けて振り下ろす。イロは触手を伸ばして防御しようとするも剣の風圧で全て切り裂かれてしまう。そしてそのまま、リリィはイロを切り伏せる。


 ザシューーーーーーーーー


「グッオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーー!」


 身体を斜めに切り裂かれ、イロは断末魔の悲鳴を上げる。


「ハァアアアーーーーーーー!」


 リリィはそのまま振り下ろした剣を振り上げると二の太刀を浴びせ、そのまま距離を取る。


 ――――――――――ズドーーーーーン――――――――


 イロは二、三歩後退った後、後方に倒れてしまった。そして足の先端から徐々に液体となって溶け始める。


「ば、馬鹿な……お、俺が……小娘二人などに……」


 そして彼の肉体は全てドロドロに溶けていき、後には一面の茶色い液体が残った。


「お、終わった……の?」


 リリィは剣を地面に突き刺し安堵の息をもらす。


 ――――ズゴゴゴゴゴゴ――――――――


 すると、辺りから地響きが起きリリィ達のいる建物が崩壊を始めたのだ。


「ッマズイ!早くこの建物から出ないと……ぅ!」


 リリィは崩壊する建物から脱出しようとするも、身体に力が入らず、その場に座り込んでしまう。


 ――――――――――――パァァァァァァーーーー――――


 さらに彼女の全身が淡く光輝き、カオスフォームからいつものリリィの姿に戻ってしまった。


「くっ……ダメ!立てない。早く脱出しないと……」


 リリィは全身に力を入れて立とうとするも、身体に力が入らず座ったままの状態だ。

 するとそんな彼女に近づく影があった。


「……お疲れ様リリィちゃん。後は私に任せて」


 そう言って影……ブラックリリィはリリィを抱き抱え、建物から脱出するのだった。








 ――――エピローグ――――





「男子注目ーーー!今年はクラスの女子からバレンタインプレゼントだよ」


 あれから一日経った二月十五日の放課後。千晶のクラスでは女子から男子へ、バレンタインチョコのプレゼントが行われていた。


「…………痛つつ」


 千晶はその様子を椅子に座って黙って見つめていたのだが、身体の痛みに顔を顰める。




 あの建物から脱出後、手を組む話をした場所でブラックリリィと別れたリリィ。その後家に帰り変身を解いたのだが、襲いくる疲労感に千晶は一日中ベットで寝ていたのだ。

 そして翌日に疲労は回復し登校したのは良いものの、今度は全身筋肉痛に悩まされているのである。



(まあ今回はブラックリリィの力を分けてもらってこれなら……まあ良いかな)



 その後、崩壊したかに見えた建物は実際は崩壊しておらず、そのまま今も健在である。しかし魔法陣があったであろう場所だけ大穴が空いており、建物は立ち入り禁止の状態である。


 

「千晶大丈夫?今日ずっとそんなんだけど?」


 千晶が一人考えに耽っていると優里香が心配そうに声を掛けてきた。


「別に大した事じゃねえよ。それより良かったな。上手くいって」


 千晶は問題ないと言って、前を見つめる。するとチョコを貰った男子達が嬉しそうにしていた。


「別に大したことはしていないよ。千晶……ううん、リリィが頑張ってくれたお陰」


 優里香もそう言って前を向く。その様子に千晶はふとある事を思い出す。


(あの時……リリィの意識の中でブラックリリィはリリィのことを千晶って呼んでいた。もしかして白石が……)


「……なあ白」


「白石さーん!」


 千晶が優里香にブラックリリィの事を聞こうとすると、タイミング悪くクラスメイトの女子から声がかかる。


「ごめん千晶。呼ばれちゃったから行くね。話なら後で聞くから」


「別に良いよ。大した事じゃないし」


 そう言って優里香はクラスメイトの元へ行こうとする優里香に気にするなと声を掛ける千晶。そして再び一人になると先程の事を思い返す。


(まあ、そんな訳ないか。もし仮にそうだとしたら、今こうして一緒にいる意味が分からないし)


 そう思い、千晶はクラスの女子と一緒にいる優里香を見つめるのだった。






「ふう、お待たせ。じゃあ帰ろっか。立てる?」


 そう言って帰り自宅をする優里香。


「おう。……そういえば白石。俺まだチョコを貰ってないんだが?」


 そんな優里香に合わせてか帰りの支度をする千晶は、チョコを貰っていないことに気づいた。


「えっ……千晶にはバレンタイン当日にあげたでしょ」


 すると優里香はきょとんとした顔で答える。


「はあ!貰ってねえよ。嘘言ってんじゃねえよ!」


 千晶は身体が痛むのを忘れ、優里香に怒鳴りつける。すると優里香は周りに人がいないのを確認して言葉を返す。


「あげたわよ!千晶がリリィの姿で私の家に来た時に!」


 そう言われ千晶は思い出す。あの時、亮二にチョコを渡す為に優里香の家を訪れ、事情を話しチョコを分けてもらうように頼んだのだ。優里香はそのまま袋に包まれたチョコを渡してくれたのだが、それが自分のだとは千晶も思っていなかったのだ。


「あ、あれは……その……ちょっと事情があって……」


 しどろもどろになりながら千晶は優里香を説得しようとする。


「そんなの私は知らないわ。そんなに欲しいなら帰りコンビニにでも寄って買えば良いじゃない」


 そう言って優里香は教室を後にする。


「お、おい待ってくれよ白石!」


 遅れて千晶も急いで優里香の後を追いかける。

 そして先に教室を出た白石は内心で笑みを浮かべていた。


(……なーんてね!本当は用意してあるんだけど……もう少しこのままで良いかな)


 そう思い、チョコが入っている鞄を大事そうに抱えて白石は帰路につくのだった。




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