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バレンタイン特別編 ②

二月十四日。バレンタイン当日

 ブ――――ブ――――――ブ――――――ブ――――

 

「ん!………んだよ………」

 

 スマホの着信音で千晶は目を覚ます。時計を確認すると時刻は午前四時ぐらいを指していた。

 

「…………白石?」

 

 千晶はスマホを確認する。すると着信は優里香からだった。千晶は若干怒りを覚えながら電話に出る。

 

「おい白石……今何時だと……」

 

「大変なの千晶!外見て外!」

 

 非常識な時間の電話に文句を言ってやろうとした千晶は、優里香の切羽詰まった言葉に眠い眼を擦りながら、2階の自分の部屋の窓を開け外を見つめる。

 すると、窓の外の地面に茶色い人のような物が何体も突っ立ていたのだ。それらは動くことなく、まるで彫刻のように微動だにしない。

 

「………何じゃこりゃ?………痛っ!」

 

 千晶はスマホを持っていない手で自分の頬を抓る。痛みがあるのでこれが現実である事を理解した。

 

「今日、クラスの女の子達とチョコを作るって言ってたでしょう。そのチョコを確認しようと早めに起きて窓の外を見たら……」

 

「こうなってたってわけか………一体誰が?」

 

 千晶はこうなった原因を考え、そして一つの可能性に至る。

 

(もしかして、ブラックリリィの仕業じゃ……)

 

 千晶はひょんなことから変身ヒロインとして活躍していたのだが、去年隣の県で魔物を退治していた時に、魔物達の主人だという女に出会った。そいつは自分を狙っており、今回もその為のものだと考えたのだ。

 千晶が考えに耽っていると何処からか人がワラワラと出て来て、茶色い人型と自撮り写真を撮り始める。中には動画投稿者らしき者もいて、人型を動画に収めながら何やらカメラに向かって喋っている。

 

「ああいう人達はたくましいな……んっ!」

 

 千晶が眺めていると、人型はカクカクとし始め、そのまま近くにいた人達に襲いかかろうとする。

 

「っ!危ない!」


 千晶の声が聞こえたのか、彼らは襲いかかろうとする人型に気付き、慌てて距離をとる。しかし、人型は止まる事なく再度襲いかかろうとする。


「っ!………くそ!」

 

 部屋の窓から様子を見ていた千晶は、部屋にあったバックからペンのようなものを取り出す。

 

「千晶……どうしたの?」

 

「白石!危ないから外には絶対出るなよ!」

 

 そう言って千晶はスマホをベットに放り投げる。スマホからは千晶の名前を呼ぶ優里香の声が聞こえたが千晶はそれを無視し、窓枠に手をかけ、そのまま飛び降りる。

 

「花の精霊よ……私に力を貸して!フラワーメタモルフォーゼ!」

 

 飛び降りながら千晶は呪文を唱える。すると、飛び降りている千晶の全身が光り輝く。

 地面に降り立ち、光が晴れるとそこに千晶の姿は無く、騎士風の女の子が立っていた。

 手足に純白のロンググローブとブーツ。髪は銀髪の腰まで届くロングヘアー、身体を包むのはノースリーブのワンピース、背中にかけて垂れ下がる純白のマント、額に花を模した金のティアラ、左腰に一振りのサーベルを履いた美少女……フラワーナイト・リリィは名乗りを上げずに、襲い掛かろうとする人型に素早く接近し、そのまま一刀両断にする。

 

 ドバ――――――ドバ――――――ドバ――――――

 

 斬られた人型はそのままドロドロに溶けてしまった。

 

「こいつらは一体?」


「な、何だよこいつ!くっ、来るな!」

  

 リリィは人型の正体について考えようとしたが、別の人型が男に襲い掛かろうとするのを見て、一旦思考を中断。すぐさま男と人型の間に割り込み、そのまま人型を斬り伏せる。

 そして、先程と同じように斬られた人型は、そのままドロドロに溶けてなくなってしまった。

 

「……ふぅ……皆さん、お怪我はないですか?」

 

 周囲一体の人型がいなくなったのを確認したリリィは、襲われそうになった人達に声をかける。

 

「えっと……大丈夫です。それより……写真撮っていいですか!」

 

「僕も……Y◯Tu◯で配信やってて、動画撮っていいですか?」

 

 襲われそうになった人達は、いずれも怪我はないのだが、リリィの姿をスマホなどに収めようと、リリィに詰めよる。

 

「えっとすいません!そういうのはちょっと……それよりも皆さん。ここもまだ安全とは言えません。一先ず建物の中に避難して下さい!」

 

 そう言ってリリィは素早くその場を後にするのだった。





 その場を後にしたリリィは、素早く移動しながら街の様子を伺っていた。すると少し行った先に、また先程と同じ人型が立っていた。

 

「………………」

 

(何で襲い掛かって来ないんだろう?………もしかしたら)

 

 リリィは警戒しながら人型に近づく。すると突然人型が動き出し、リリィに襲いかかる。

 

「………ハッ!」

 

 しかし、リリィは動ずる事なく剣を抜き、人型を斬り伏せる。

 

 (やっぱり………こいつらは人が一定以上近付かないと襲いかかって来ないんだ!)

 

 ドロドロに溶けていく人型を気にせずリリィは先に進む。そしてまた直ぐに、立ったままの人型を発見する。しかし、まだ距離があるからか、リリィに襲いかかる気配はない。

 

(今の所動く気配はない………なら!)

 

「一気に決めます!ハァ!」

 

 リリィは掛け声と共に駆け出し、一気に最高速に持っていく。そしてその勢いのまま、立ったままの人型を次々と斬り伏せていく。

 

ドバ――――――ドバ――――――ドバ――――――


 人型達はリリィに気付く間もなく斬り伏せられドロドロに溶けていく。


「ふぅ。上手くいきました」


 リリィは作戦が上手くいったことに安堵の表情を浮かべる。すると人型が溶けた辺りから何やら甘い匂いがする事に気づいた。


(何でしょうこの匂い?…………もしかして…………チョコレート?)


「だ、誰か!誰か助けて!」 


 リリィが匂いについて考えていると、すぐ近くから男の叫び声が聞こえてきた。


「…………ッ!」


 リリィは再び表情を引き締め、声のした方に駆けていくのだった。


 

  

  





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「はぁ…………はぁ………な、何なんだよ?あいつら一体?」

 

 茶色い人型が蠢く街中を、儀式に参加していた亮二は物陰に隠れながらゆっくりと移動していた。

 亮二は儀式のあったあのビルから脱出したのである。

 

(幸い、あいつらは近づかないと襲ってこない。ならゆっくりとでもいいから移動して、警察に通報しないと)

 

 亮二のスマホは逃げる際に落としてしまった為、今は手元にない。彼は周りを警戒しながら移動を続ける。すると前方の建物の角から人型が姿を現す。

 

「ッ!マズイ!」

 

 他の人間を追いかけていて見失ったのか人型は亮二に狙いを定める。そして、亮二は慌てて来た道を引き返す。


「だ、誰か!誰か助けて!」


 走りながら助けを呼ぶ亮二。すると今度は前方から、二体の人型が彼に迫ってきた。

 

(はさまれた!)

 

 男は何処か隠れる場所はないかと探すが、今の自分の体型では隠れられるスペースがない。

 

「……嫌だ!まだ……死にたくない」

 

 絶望のあまり、亮二はその場にうずくまってしまう。

 するとうずくまる彼の前に、空から女の子が降ってきた。


「捕まってて下さい!」


 叫ぶと共に女の子はそのまま亮二を抱き抱え、大きくジャンプする。

 

「あっ……えっ……」

 

(嘘だろ……俺、結構重いはずなのに……あんな軽々と)

 

 亮二はその時、自分がとんでもなく高い所にいる事に気づき、咄嗟に女の子の首に手を回す。

 

「もう大丈夫です。貴方は私が守りますから」

 

 女の子は亮二が抱きついてきたにも関わらず、嫌な顔一つせず彼を安心させるような事を言う。

 そして先程の場所から少し離れた場所に着地すると、亮二を地面に降ろす。

 

「ご、ごめん……変にくっついちゃって……嫌だったよね」

 

 地面に降り立つと亮二は我に帰り、女の子に謝罪をする。

 

「いえ大丈夫です。それより、怪我とかしてないですか?」

 

 女の子は気にする様子もなく逆に亮二の心配をする。そして亮二は初めて女の子の姿をちゃんと見る。

 日本人離れした銀髪の髪。そして物語から出てきたような騎士風の出立ち。まるでアニメのヒロインのようだと彼は思った。

 

「えっと……大丈夫です。それより君は一体?」

 

 亮二の問いかけに女の子は居住いを正す。

 

「私は花の騎士。フラワーナイト・リリィ……今は、あの茶色い人型の化け物を退治しているのです」

 

 女の子……フラワーナイト・リリィはそう言うと亮二に背を向ける。

 

「一先ず建物の中へ避難して下さい。あの化け物は建物内には入ってこなさそうなので」

 

 そう言ってリリィはこの場を離れようとする。

 

「あっ……ちょ、ちょっと待って!」

 

 亮二は慌ててリリィを呼び止める。

 

「どうかしましたか?」

 

 亮二の言葉にリリィは振り返る。

 

「えっと…………それなら俺、あの化け物の出処を知っています」

 

 亮二の言葉にリリィは足を止める。

 

「………一体どう言う事ですか?」

 

 リリィは驚愕と怒りの混じった声で亮二に詰め寄る。すると亮二は、ポツポツと今回の事のあらましを説明し始めた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 魔法陣から溢れ出たチョコレートは、そのままどんどんと人の形を形成していく。その様子を皆静かに見守っていた。

 

「……あれがチョコ神様」

 

 その中の誰かがポツリと呟く。そして、皆熱に浮かされたようにその光景をじっと見つめている。

 

「…………………………」

 

 やがて、チョコの流出が収まると、魔法陣の中央に一人の男が立っていた。

 その男は神というより、王という出で立ちをしていた。

 頭に王冠を載せ口元に髭を生やし、両手足、身体に茶色い鎧を着て、背中に同じく茶色いマントを羽織っている。男は威厳の籠もった視線で周りを見回す。

 

「………儂を呼び出したのはお前達か?」

 

 一通り周りを見回し終えた王らしき男は、自分を見つめる者達に問いかける。


「あ、あのチョコ神様!俺……女の子から一度もチョコを貰った事が無いんです!だから……」


 すると、儀式の参加者の一人が緊張しながら、よろよろと王らしき男に近づいていく。


「………ふん!」


 男はつまらなそうに腕を振るい近づいてきた男を吹き飛ばす。


「は?………あ?…………え?」


 突き飛ばされた男と他の参加者達は目の前で起きた出来事に付いて行けず、呆然としている。


「下等な種族如きが、気安く我に触れようとするな!」


 そう言って王らしき男は、魔法陣の外へ歩き出す。そしてその先には玉座らしき物が用意されており、男は玉座に辿り着くとそのまま腰を降ろす。


「儂の名はバレン。チョコの神にして王である。下等なる人間共よ!我にひれ伏せ!」


 王らしき男………バレンは玉座に座り、不遜に言い放つ。そして、そんなバレンに一人の男が近づいていく。儀式を行っていたリーダーらしき男である。


「お待ちしておりました。我が主」


 そう言ってリーダーらしき男は、バレンに対して恭しく頭を下げる。するとリーダーらしき男の姿が変わり始める。やがて男の姿の変化が終わり、男の姿は燕尾服にモノクル眼鏡と言う格好になった。


「………貴様は何者だ?」


「ハッ!イロと申します。貴方様の到来。心よりお待ちしておりました!」


 リーダーらしき男………イロはバレンの言葉に恭しく答える。


「そうか…………好きにしろ」


 バレンは興味なさそうに返事をする。


「………一体?どう言う事だ?俺達は一体どうなっちまうんだ?」


 そんな二人のやりとりに、残された他の参加者は呆然としていた。


「あぁ、まだ居たのですか?貴方達、もう要は済みましたので帰って頂いて結構ですよ」


 イロは参加者達の存在に気付き、思い出したかのように声をかける。

 

「帰っていいって………どう言う事だよ!俺達はチョコ神様にお願いする為にこうして集まったんだぞ!」


 そうだそうだ、と他の参加者の何人かも賛同する。するとイロは、やれやれと溜息をつく。


「………あのですね。何故我が主が、貴方達下等な人間の為に願いを叶えなけれならないのですか?」


 するとイロは理路整然と説明を始める。


「私の目的は、最初から我が主をこの地に呼び出す事です。貴方達はその為だけに利用したに過ぎません」


「そ、そんな………じゃあ………」



「チョコ神様にお願いすればチョコが貰えるなんて………あるわけ無いんですよ」


 イロの言葉に参加者達は思い思いの顔をする。ある者は怒りに震え、ある者は茫然としている。


「ですが、貴方達は我が主をこの地に降臨させるのに尽力して下さいました。ですので………さっさと立ち去ってくだされば、私達は手を出しません」


 そう言ってイロは参加者達に背を向ける。参加者達はお互い顔を見舞わせ、ぽつり、ぽつりと立ち去っていくのだった。


 


 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 


 

 

 

「随分と甘いな。素直に帰すなど………面白味もない………」

 

 その様子を見ていたバロンは退屈そうに声をかける。すると、イロは笑みを浮かべて振り返る。

 

「いいえ………あくまで、私は手を出さないと言うだけで、これからが本番です」


 そう言ってイロは、懐から野球ボール台の球体を取り出し空に放り投げる。すると球体は空中で静止し、そのまま徐々に大きく膨らんでいく。

 

 ――――――バーーーーーーーン――――――――

 

 やがて限界を迎えた球体は破裂し、中から茶色い液体が飛び散り、眼下に散らばっていく。やがて散らばった液体は徐々に人の形になっていく。


「こいつらは人間を見つけ次第、無差別に攻撃します。彼らがコレから逃げ切れるとは思いませんがね………」


 イロはそう言って言葉を切る。そして、徐ろにビルの出口を見つめる。



「………………ぅ!」

 

「………盗み聞きしているネズミがいるようですね」


 イロはそう言って茶色い人型を出口に差し向ける。


「ヒッ!………ヒィ…………」


 亮二は一目散に逃げ出すのだった。



 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 



「それで、ゆっくりと隠れながらここまで逃げてきたんです」

 

 そう言って亮二は話を締めくくる。その顔は何処か憑き物が落ちたような感じだった。


「………何故貴方は直ぐに逃げなかったんですか?」


「皆が居なくなった後で、何とか女の子にチョコを貰える方法がないか聞こうと思ったんです。そしたら…………」


「あの人型に襲われ、隠れながら逃げて来たわけですね。……それともう一つ」


 リリィは亮二に疑問に思ったことを質問をする。


「その場………あるいは近くに黒いワンピースを着た女性か、言語を発するカラスはいませんでしたか?」


「いえ、いませんでした………と言うか何ですか。言語を発するカラスって?」


 リリィの質問を、亮二はあっさりと否定する。


 (やはり………今回はブラックリリィとは関係ないのでしょうか?)


「………いえ、こちらの話です。それより貴方が逃げてきた建物は何処にあるんですか?」


 亮二はリリィに自分が逃げてきた場所を教える。しかし隠れながら逃げて来た為か、大体の場所しか分からないようだった。


「すいません。役に立たなくて………」


「いいえ情報ありがとうございました。後は私に任せて、貴方は何処か安全な場所へ避難していて下さい」


 そう言ってリリィは、亮二に別れを告げてその場を立ち去ろうとする。


「………何…………いけ…………が欲しかっただけなのに」


 すると亮二は、ぼそっと何かを呟く。リリィは立ち去るのを一旦やめ、亮二に近づく。


「何がいけなかったのでしょうか?僕はただ、女の子からチョコが欲しかっただけなのに………」


 亮二はリリィが近づいているのに気付いていないのか、同じ言葉を繰り返していた。リリィは放っておけなくなり、亮二に声をかける。


「どうして、そんなに女の子からチョコを貰いたいのですか?」


 亮二はそこでようやくリリィの存在に気付く。そして、ぽつりぽつりと語りだす。


「…………僕は子供の頃から見た通りの体型で、女の子からはキモい、デブなんて呼ばれてきました。でも、ある年のバレンタインに一人の女の子が僕にチョコをくれるって言ってくれたんです」


 亮二はそう言って一度言葉を切る。そして諦めたように溜息を吐く。


「でも結局、チョコは貰えませんでした。…………後で知ったんですが、その子は僕にチョコを渡す事を他の子たちに揶揄われ(からかわれ)、渡すのを諦めてしまったそうなんです」


「そんな………」


 亮二の言葉にリリィは言葉を失う。


「それ以降も僕は一度も女の子からチョコを貰ったことがないんです。でも、諦めきれなくて………それで、チョコ神様の噂を知って、藁にも縋る思いで参加したんですが………結局、良いように利用されただけで……」


 そう言って亮二は下を向いて俯いていたのだが、諦めたように顔を上げる。


「………ありがとうございました。僕の話を、ちゃんと聞いてくれたのはキミが初めてです。すいません、引き留めるみたいになってしまって」


 そう言って亮二はその場を立ち去ろうとする。


 ーーー千晶には毎年私がチョコをあげているけど、中には女の子から一度もチョコを貰った事がない人だっているんだからーーー


 不意にリリィは数日前の優里香との会話を思い出す。


「…………あの!」


 リリィはたまらず声をかける。しかし、亮二にかける言葉が見つからずに黙り込んでしまう。


(どうしよう?引き留めたのは良いけど、どう言葉をかけたらいいか………ッ!)


 ーーー今日、クラスの女の子達とチョコを作るって言ってたでしょう。そのチョコを確認しようと早めに起きて窓の外を見たらーーー


(上手くいくか分からないけど………やってみるしかない!)


「えっと………まだ僕に何か?」


 亮二はリリィが黙ってしまったのを見て立ち去るのをやめ、その場に止まる。リリィは意を決したように亮二を見つめる。


「すいません。少しの間だけ、この辺りの安全な場所に隠れていてくれませんか?」


「えっ………ええと………良いですけど…………」


 すぐに戻ります、とリリィは亮二に言い残し、その場を後にするのだった。


 

 



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


 


 

 リリィかこの場を去った後、亮二は言われた通りに近くの建物の隅に隠れていた。あの人型は人間を見つけないと襲ってこない為、隠れていればしばらくは安全なのだが………

 

(リリィちゃんが立ち去ってから結構経つ…………まさか、あの化け物にやられたんじゃ!)

 

「すいません!…………お待たせしました。出てきてもらえますか?」

 

 亮二が最悪の想像をしていると、リリィが再び空から降って辺りに呼びかける。亮二は建物の影から出てきてリリィの前に現れる。

 

「良かった!間に合って………あの、これ!」

 

 リリィは亮二に手に持っていた小さい包みを渡す。


「これは…………チョコ?俺に?」


 亮二は渡された包みとリリィを、交互に見つめる。


「…………正直、貴方のやった事は許される事ではありませんし、私はチョコを貰った事の無い人の気持ちは分かりません」


 ですが、とリリィは一旦言葉を切る。


「貴方は私に敵の情報を教えてくれました。そのお礼っていう訳ではないですけど………このチョコ………受け取って貰えませんか?」


 リリィの言葉に、亮二はゆっくりと包みを受け取る。



「うっ!………うぅ…………」


 すると亮二は眼から涙を流し始める。


「えっ!……ど、どうしたんですか!何処か怪我でも………」


 リリィは慌てて亮二に駆け寄る。


「す、すいません。僕………女の子から初めてチョコを貰えて…………嬉しくて…………」


 亮二の言葉にリリィは肩を降ろす。


(良かった。少しは役に立てたのかな?)


 リリィは亮二が落ち着くまで、傍にいるのだった。





「すいません。かっこ悪いところを見せてしまって………もう大丈夫です」

 

 しばらくすると亮二は落ち着いたのか、リリィに声をかける。


「本当に大丈夫ですか?」


 リリィは心配そうに声をかける。


「僕も男だから、いつまでもキミに心配かける訳にはいかないからね」


 そう言って亮二は歩き出し、少し歩いてから振り返る。


「ありがとう。このチョコ、大切にするね」


「………ちゃんと食べて下さい!それじゃ」


 そう言ってリリィも、その場を後にする。


「………………………………」


 亮二はリリィを見送った後、貰ったチョコの包みを剥がし、中からチョコを取り出す。チョコは少し、歪な形をしていたが彼は構わず口に入れる。


「………美味しい」


 亮二はチョコを一粒一粒、味わいながら食べるのだった。










 ―――――――――――――――――――――――――――

 



 

 


 亮二と別れたリリィは、とある建物の屋上に立っていた。

 

(えっと………あの人が言っていた場所は…………ッ!あれは!)

 

 亮二に教えてもらった方向を見たリリィは、ある一角を見て驚く。その建物の外壁が異様に茶色くなっている建物を見つけたのだ。

 

(あの人が言っていた方向と合致する。でも…………)

 

 ふとリリィは建物の上から眼下を見下ろす。そこには、立ったままの人型が居たのだった。倒すだけなら簡単なのだが、やがて夜が明け、人々が外に出だしたら大変な事になってしまう。

 

(まだ街にアイツらが何体いるか分からないし、もうすぐ夜が明ける。先にアイツらを倒した方が…………)

 

「ふふっ!何を悩んでいるのリリィちゃん。…………ふぅ〜」

 

 リリィが考え事をしていると、直ぐ近くから声が聞こえ、耳に息を吹きかけられる。

 

「ッ!ブ、ブラックリリィ!」

 

 リリィは右手で耳を抑え、慌てて距離を取り息を吹きかけた相手を確認する。

 

「おはようリリィちゃん。…………どうしたの?何か悩んでいるようだけど」

 

 息を吹きかけた相手………ブラックリリィは普通に挨拶を返し、リリィに問いかける。


「あ、貴女には関係ありません!」


 リリィは顔を真っ赤にしながらブラックリリィの言葉を強く拒絶する。


「あらあら釣れないわねリリィちゃん………まぁいいわ。それより、リリィちゃんに提案があるんだけど」


 そう言ってブラックリリィは予想外の提案をする。


「リリィちゃん…………私と手を組まない?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――― 

 


 

 

 バレンは玉座に座り、眼を瞑っていた。しかし、彼は寝ている訳では無く遠くの、ある景色を見つめていたのだ。

 

「バレン様。この建物の改修、完了しました」

 

 そんな彼にイロは声をかける。すると、バレンは眼を開く。

 

「イロよ。お前の放った使い魔が、かなりやられているようだか…………」

 

 バレンは先程まで見ていた情景をイロに説明する。イロの放った人型が騎士風の少女に斬り倒されていたのだ。

 

「………申し訳ございません。おそらく………この辺りで魔物を倒しているフラワーナイト・リリィとか言う小娘です」

 

 説明を聞いたイロは自分の知り得た情報をバレンに説明する。説明を聞き終えた後、バロンは再び眼を瞑る。彼の見ている情景の中でリリィは、先程ここに居た男を助け出していたのだ。

 

「バロン様。お命じ下されば私めがかの小娘を始末して…………」

 

「よい。それよりも…………」

 

 イロの提案をバレンは却下する。そしてしばらく考える素振りをする。

 

「この娘はしばらく泳がせておけ。もし我が城に来るのなら、相応の歓迎をせよ!」

 

「貴方様の御心のままに」

 

 そう言ってイロはその場を立ち去る。バレンは一人笑みを浮かべる。

 

「ククッ!さあ来いフラワーナイト・リリィよ!この場所にて儂とお主は、永遠の契りを結ぶのだ。ハッ――ハッハッハッ」

 

 そう言ってバレンは一人高笑いをする。そして、彼の見つめる先にある魔法陣の中心には、巨大な石像が建っていたのだった。

 


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