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超常現象研究部⑧

 あの後、千晶達はユイ達にせがまれてしばらく一緒に遊んでいた。特にユイは千晶に会えたのが嬉しかったのか相当にはしゃいでいた。

 やがて夕方近くになり、それぞれ家に帰ったその日の夜。

 人気の無い街並を一人の女の子が颯爽と駆け抜けていた。

 女の子は手足に純白のロンググローブとブーツ。髪は銀髪で腰まで届くロングヘアー、身体を包むのはノースリーブのワンピース、背中にかけて垂れ下がる純白のマント、額に花を模した金のティアラをつけて左腰に一振りのサーベルを履いていた。


「…………………ふぅ」


 女の子………花の騎士フラワーナイト・リリィはとある家の屋根の上で足を止めると、一息つき懐から黒い球を取り出す。

 球は、光を全く反射せずそのまま黒いままだった。


「そう簡単には見つからないですよね」


 リリィはそう言って球を懐に戻す。しかし、言葉とは裏腹にリリィの顔に悲壮感はなかった。


 …………私の子供達を助けて頂き、ありがとうございます。私達も影ながら貴方を応援しています…………


「応援しています。か……」


(初めてですね………あんなふうに面と向かって誰かに感謝されたの)


 リリィは初江との会話を思い出し、心が暖かくなるのを感じていた。


「……よし!」


 そして、気合を入れ直すと颯爽と夜の街並を駆けて行くのだった。






 しばらくの間鍵を探索した後、リリィは見覚えのある場所に辿り着いていた。

 そこは先日、ボランティアで訪れたあの幼稚園だった。


(………まさかあの時は、こんな事になるなんて思ってもいませんでしたね)


 一人そんな事を考えながら幼稚園を後にしようとするリリィ。


 ――――ズドー――――――ン――――


 すると、幼稚園の方から物凄い音が聞こえてきた。


「えっ!何!?」


 リリィは状況を確認する為に幼稚園の門を飛び越え、幼稚園の中に入っていく。

 園内は先日訪れた時と変わらなかったが、人が誰もがいない為か、ものすごく不気味な静けさを醸し出していた。


「…………………………」


 リリィは警戒心を緩めず、慎重に園内を探索する。


 ――――――ビュンッ――――!


 すると、風を切る音と共に見えない何かが自分に向かって飛んでくる気配を感じた。


「…………ッ!……ハァ!」


 リリィは腰の剣を抜き放ちそのまま振り下ろす。

 すると、見えない何かはそのまま自分の左右を通り過ぎる気配を感じた。


(この技…………もしかして!)


「ほう、今のを受け切るとはな。お前がフラワーナイトリリィとか言う奴か?」


 リリィが考えるのと同時に背後から声が聞こえてきた。

 リリィが振り向くと建物の上空から全長二メートルぐらいある巨大なコウモリが地面に降り立つ所だった。


「お前は一体?」


 思っていた相手と違った事を顔に出さずにリリィはコウモリの魔物に問いかける。


「俺様はグライム。魔将軍ガラム様に仕えし者だ。しかし………」


 地面に降り立ったグライムは舐めるようにリリィを見つめる。


「あのガガが手を焼く程の相手だからどんな奴かと思ったら、………フン!ただの小娘か。まぁ良い、捻り潰してくれる!」


 グライムはリリィを見て挑発めいた言葉を放つ。その態度にリリィは怒りを覚える。


「魔将軍ガラムの配下…………グライム!私はそう簡単にはやられません!」


 リリィは先制攻撃と言わんばかりに、グライムに突撃する。


「フッ。威勢だけは良いようだな…………なら、これを喰らえ!」


 ――キィ――――――――――――ン!――


 グライムが叫ぶと同時に辺りに金切り音が響き渡る。


「何?!……ッ!ァァァァッ!」


 その音を聞いたリリィは、両手で耳を塞いでその場に蹲ってしまった。


(くっ!あ、頭が割れそうに痛い!一体何が……) 


「見たか。これが俺様の力!これは先程の風と違って防ぎようがあるまい!」


 蹲るリリィを見て、グライムは勝ち誇ったように笑い出す。


「くっ………そ、そんなもの!」


 リリィは左手で耳を押さえながら立ち上がると、グライムに剣を向ける。しかし超音波が未だ響いている為か、彼女の膝は震えていて立っているのがやっとの状態だ。


「ほう。俺の超音波を受けて尚、立ち上がるか。面白い!」


 グライムはそう言い終わると同時に、翼を広げリリィに向けて突進する。


「ッ!………ハァ!」


 リリィは迫りくるグライムに剣を振り下ろす。するとグライムは上にジャンプし斬撃を躱すと、前足でリリィの身体を掴みそのまま空中へ飛び立ってしまう。


「グァァァッ!……は、離して!離しなさい!」


 リリィは何とかグライムから逃れようと藻掻くが、両腕をガッチリ拘束されているため逃れる事が出来ない。

 その間にもグライムは高く飛んでいき、どんどんと高度を上げて行ってしまう。


「くくくっ!どうだ、素直に負けを認めるなら楽に殺してやるぞ」 


「くっ……あっ……だ、誰が……認めるものですか……んっ……ハァ……」


(マズイ!酸素が薄くなって………段々……意識が……)


 高高度の酸素の薄さにリリィの意識が無くなりそうになる。


「そうか………なら、苦痛を味わいながら死ぬがいい!」


 グライムはそう言うとそのまま反転、一気に地面に向かって急降下を始める。


「ッ……ウワァー!イヤァ――――――――!」


 まるで強烈なジェットコースターに乗っているような感覚に、リリィは思わず悲鳴を上げてしまう。


「そーらー吹っ飛べ!」


 そして、地面まで数百メートルに達した所で、グライムはリリィを離す。


「えっ………キャアーーー!」


 魔物の前足から解放されたリリィは物凄いスピードで地面に向かって落下していく。


(ッ!こんなスピードで地面に落下したら………死んじゃう!)


「…………ふ、フラワービット!」


 落下しながら、リリィは地面近くに不可視の足場を生成する。しかし、落下の勢いが強い為かリリィが足場に接触した途端に、場を突き破ってしまう。


「フラワービット!」


 それでも、リリィは諦めずに足場を何個も生成する。しかし、生成された足場はリリィが当たると同時に突き破れてしまう。


 ――ズドーーーーーン――――――!


 物凄い音が辺りに響き渡り、リリィは地面に直撃する。リリィが落下した場所は地面が窪んでいて、その衝撃の、凄まじさを物語っていた。


「ッ…………うぅ」


 そんな衝撃の中、リリィはゆっくりと立ち上がる。


(危なかった。フラワービットを展開していなかったら間違いなく死んでいました)


 それでも無傷とはいかずコスチュームの何箇所かは解れ、身体のあちらこちらに擦り傷が目立っていた。


「フンッ!生きていたか……まぁいい!」


 そんなリリィに追い討ちをかけるように、グライムは地面に降り立つと、再び超音波を発生させる。


「くっ……ウッ……ァァァァーー!」


 するとリリィは再び耳を押さえて蹲ってしまった。


(ッ!……何とか、あの超音波を止めないと!けどこれじゃ、近づけない!)


「くくくっ!不様だな。フラワーナイトリリィ!」


 そんなリリィの様子を見たグライムが唐突に笑い出す。


「今の貴様は俺様に手も足も出ない。何故だか分かるか?」


 グライムの言葉にリリィは苦悶の表情を浮かべながら睨みつける。


「貴様が弱いからだ。貴様は愚かにも一人で俺様に挑んだ。まぁ貴様等人間が何人集まった所でたかが知れているがな」


 リリィの反応を見ながらグライムは得意気に続ける。


「ガガから聞いたぞ。貴様が助けようとした人間の顛末を。貴様がいくら頑張って人間をを助けようとも誰も貴様に応えてくれない。貴様のやっている事は全くの無意味だ!ガッハッハッハ!」


 そう言うと、グライムは声を上げ笑い出す。


「…………に…………めつけ……いで……」


 すると、リリィの口から途切れ途切れに声が聞こえてきた。


「あ?……今なんつった?」


「勝手に決めつけないで下さい!」


 掛け声と共にリリィは顔を上げる。その目は苦痛に歪みながらも真っ直ぐにグライムを見つめていた。


「確かに貴女の言う通り、私は一人で戦っています。けど……一人ではありません!」


「……は?どう言う意味だ?」


 リリィの謎掛けみたいな言葉に、グライムは首を傾げる。


「私には私を心配してくれる親友がいます。陰ながら私の事を応援してくれる人達がいます。そういう人達がいる限り、私は一人ではありません!」


 痛みに震える身体に鞭打って、リリィは剣を構える。


「だから、私は戦います!何があっても………守りたい人達。守りたい想いを守る為に!」


「ッ!」


 リリィの叫びにグライムは一瞬怯み、数歩後ずさる。


(馬鹿な!俺様がこんな小娘にビビッていうのか!?あ、あり得ねぇ。そんな事!)


 しかし、直ぐさ気持ちを切り替えると、超音波を発しながら突風を発生させる。


「くっ…………あッ、キャアアアアッ」


 気迫だけで立っているリリィはそのまま吹き飛ばされ、仰向けに倒れ込んでしまう。


「くッ……うぅ…………」


「調子に乗るなよ。小娘」


 グライムは仰向けに倒れているリリィに近づくと、リリィの身体を片手で鷲掴みそのまま持ち上げてしまう。


「何が一人ではないだ!現に俺様に掴まれ、何も出来ないくせに粋がってんじゃねぇぞ!…………ヒヒッ!このまま握り潰してやる」


 そう言うとグライムはリリィを握っている手に力を込める。


「はっ……ぐぁぁぁぁぁ!」


 余りの痛みにリリィの口から、悲鳴が出てしまう。


「ハッハッハッ!どうだ、俺様の力は!さぁ、もっと悲鳴を上げろ!そして、俺様に泣いて許しを乞え!」


 グライムは笑みを浮かべながらリリィに問いかける。その顔は酷く歪み、残虐な笑みを浮かべているようだった。


「ぐぁ……ぜ、絶対に……言わない……貴方のような魔物になんか………許しは乞わない!」


 リリィは顔を苦痛に歪めながら、はっきりと言い放つ。すると、その言葉を聞いたグライムの顔が真剣なものになる。


「そうか、泣いて許しを乞えば楽に殺してやろうと思ったが…………なら、とっとと死んじまいな!」


 そう言うと腕の力を更に込める。


「あっ……アアアアアアアアアッ!」


(ダメ!このままじゃ……本当に……)


 ――――パスッ――――!


「ッ!…………クギャァァァァァァ!め、目が!」


 リリィが自身の死を感じ始めた次の瞬間、何処からか乾いた音が聞こえたかと思うとグライムは片目に強烈な激痛を覚えた。よく見るとグライムの片目は失明しておりそこから血が流れていたのだ。


「…………キャア!」


 グライムは痛みの余り、リリィを掴んでいた手を離し、そのままリリィから距離をとる。


(何かに攻撃を受けた!?クソっ!一体何処から?)


 グライムは左手で目を押さえながら見えない相手に警戒を強める。


「んっ……くッ!」


(何があったか分からないけど、今がチャンス!)


 リリィは立ち上がると、痛む身体に鞭打って魔物に向かって駆け出しその勢いのまま空中にジャンプする。


「光よ切り裂け!フラワーナイトスプラッシュ!ソ――――――――ド!」


 空中で剣を振りかぶるリリィ。すると、彼女の剣に光が集まり、光を纏った剣をそのまま振り下ろす。


 ――――ザシュ――――――!


「ギギャァー!」


 グライムは左側半身を袈裟に切られ、甲高い悲鳴をあげる。


「クソッ!小娘ぇ!!!」


 グライムは奇声を上げながら、無事な右腕をリリィに向けて振り下ろす。


「ッ………たァァァ!」


 グライムの右腕が振り下ろされる瞬間、リリィは剣を上向きに力を入れ、逆袈裟に魔物を切り裂く。


「ギャアァァァァァァ!」


 ――――ドスン――――――!


 自らの身体をVの字に斬られたグライムは、そのまま仰向けに倒れる。


「なっ……ガハッ……クソッ!」


(俺様が……こんな小娘に…………)


 ―――――シュワワワワ――――――


 グライムが悪態をついていると、自身の身体が光り輝き、やがて光となって消えてしまった。


「ハァ……ハァ……何とか勝てた……ッ!」


 グライムが消滅するのを黙って見届けたリリィだったが、身体がふらつき始め、そのまま地面に膝をついてしまう。


「こんな所で……倒れる訳には……」


 何とか意識を保とうとするも、身体は言う事を聞かず意識を失いそうになる。


「……フラワーナイト・リリィ」


 そんな声が聞こえたかと思うと、目の前に見た事の無い人物が立っていた。

 その人物は全身を白いフードで覆っており、性別は分からなかったが先程の声のトーンから女性だろうとリリィは考えた。


「貴女は……一体?」


 フードの人物はリリィの問いに答える変わりにリリィに近づき、懐から液体の入った小瓶を取り出すとそのままリリィに飲ませる。


「……んっ……んくっ」


「今はお休み……フラワーナイト・リリィ。貴女にはこれからも頑張ってもらうから」


 薄れいく意識の中で、リリィはそんな声を聞いた気がしたのだった。









「あれ?………私………一体?」


 リリィが目を覚ましたのはそれからしばらく経った後だった。辺りには誰もおらず自身も幼稚園内の近くの木の幹に座らされていた。


「……………………」


 周囲を警戒しながら立ち上がるリリィ。すると、先程まで感じていた痛みが無くなっている事に気付く。


「…………傷も治ってる」


 それだけでなく、先程の戦闘で受けた外傷も消えていたのだ。


(あのフードの人物は一体…………)


 疑問を感じながらも、その場を後にするリリィだった。





 ――――――――――――――――――――――――――――



 週明けの月曜日。杉山順子は職員室で仕事をしていた。


 ――――コン――コン――――


 すると職員室のドアがノックされ、一人の男子生徒が入ってきた。


「失礼します。杉山先生は居ますか?」


 順子はその生徒の事をよく知っていた。自身の担任している生徒の天風千晶だった。


「おう。どうした天風?」


 順子が声を上げると、千晶は順子の座っている席までやってくる。


「…………あの、先生。一つ聞いていいですか?」


 千晶は順子の所までやってくると恐る恐る口を開く。


「?別に構わないが?」


 千晶の問いに順子は疑問を浮かべながらも答える。


「……先生はボランティアの時に言いましたよね。今の俺には白石達と楽しい時間を過ごした方がいいって」


 千晶の問いに順子は無言で頷く。


「あの後、色々あって俺なりに先生の言っていた意味を実感しました。俺は一人じゃない。色んな人が俺を気遣ってくれたり心配してくれている。だから……」


 千晶は一呼吸置いて話を続ける。


「彼奴等ともっと一緒にいたい。一緒の時間を過ごしたい。けど俺は、超常現象とかそういうのに興味がないから……」


「別にいいんじゃないか」


 千晶の言葉を遮って順子はピシャリと言い放つ。


「別に興味がないから入部してはいけないなんて決まりはない」


「けど……俺は」 


「天風。それがサッカーやバスケのように優勝を狙う部活や、合唱部のようなコンクールとかで発表の機会がある部活ならお前のその態度はどうかと思う。けど、超常現象研究部はそんなのは無い緩い部活だ。お前が友達と一緒の時間を過ごしたいと言うなら私は顧問として反対はしない」


「………………先生」


「ただし、入部するからには活動はしっかりやってもらうぞ。この間みたいに突然いなくなるなんて事は許さないからな」


 順子の冗談じみた発言に千晶は決心を固める。


「分かりました。これからよろしくお願いします」


 そう言って千晶は頭を下げる。その態度を見た順子は笑みを浮かべる。


「うん、よろしい。じゃあ、この入部届に…………」


 ――ブー――――ブー――――ブー――――!


 順子が机から入部届を出した所で、順子のスマホが着信を告げる。

 順子は千晶に入部届の紙を渡すとスマホの画面を確認する。


「……悪い天風。ちょっと急用が出来た。入部届は後で受け取るから、教室に戻っていてくれ」


「えっ!……せ、先生!」


 順子は千晶の返事を待たずに職員室を後にする。

 そしてしばらく歩き、辺りに誰も居ない事を確認すると、ポケットから()()()()()()()()()()()()()()ボタンを押した後、耳に当てる。


「報告が遅れてしまい、申し訳ございません」


 数秒後に繋がった相手に挨拶もせずに順子は言葉を発する。


「別に構わないさ。……それより、その後の様子はどうだ?()()()ジュンコ」


 相手はそんな順子の態度に怒る事なく話を続ける。


「………かつてかの魔王に仕えていた眷属、ガラムが復活したようです」


 順子は監視者として自身が見聞きしてきた事を相手に告げる。


「…………そうか」


 その言葉に、相手は淡々と頷く。


「…………アイリ様。やはり議会はまだ貴女様の出撃を命じて下さらないのですか?」


 順子は出来るだけ平装を装いながら言葉を発する。


「…………すまんな。だが、ガラム程の者が復活したとなっては議会も静観は難しいだろうし、私からも口添えをするつもりだ」


 戦乙女アイリの言葉に順子は胸を撫で下ろす。


「そうですか。では引き続き、任務を続行します」


 そう言って順子は通話を終えると機械をポケットにしまい、空を仰ぎ見ながら溜息をつく。


「………………ふぅ」


(アイリ様はああ言っていたが、議会が直ぐに動いてくれるとは思えない。あの少女……フラワーナイト・リリィにもうしばらく頑張ってもらうしかないな)


「さて、今日も頑張りますか」


 そう言って順子はその場を後にするのだった。


 

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