超常現象研究部⑦
そして土曜日。
千晶と優里香は記された住所の場所に来ていた。
「ここだよね?」
「…………間違いないな」
千晶は渡された名刺を改めて確認して間違いが無い事を確認する。
そこは、千晶達の家からそんなに遠くないマンションだった。改めて名刺の住所を確認すると番号の後ろに飛んで番号が記載されていた。
「とにかく、こんな所突っ立てても始まらないし、中入ろう」
優里香に促され、千晶はマンションの中に入っていく。するとマンションはオートロックドアになっており郵便受けの近くにインターホン付のボタンがある。
「これって、どうやったらいいんだ?」
戸惑う千晶を他所に、優里香は番号を打ち込みインターホンボタンを押す。
――――ピーンーポーンー――――
―――ガー――――――――
すると、オートロックのガラスのドアが一人でに開き始める。
「すげぇ……」
「中の人が私達を見て開けてくれたんだよ。さっ、閉まる前に早く行こう」
そう言って優里香は千晶を促しマンションの中に入っていく。
(こりゃ、本当に白石について来てもらって正解だったな)
エレベーターに乗りながら、一人そんな事を考える千晶。しばらくするとエレベーターのドアが開き、二人は目的の場所まで歩く。
「ここで……間違いないな」
そして、千晶は目の前のドアの番号と名刺の番号を再度確認し、インターホンを押す。
ピーンーポーンーー
――――ガチャリ――――
しばらくするとドアが開き、幼稚園ぐらいの男の子が姿を現す。
「ッ!………えっ?!」
「嘘ッ?!」
「あっ!ボランティアのお兄さんとお姉さん!」
扉を開けた先にいたのは、この間幼稚園にいたチヒロであった。チヒロは二人を見て驚きの表情を浮かべる。
すると…………
「コラー、チヒロ!自分の使った食器は自分で片付けなさいってママに言われてるでしょ!」
奥から小学生ぐらいの女の子がこちらに向かって走って来た。
「えっ……ユイちゃん!?」
思わず千晶は声を上げる。すると女の子も千晶に気付いたのか、千晶に笑顔を向ける。
「あっ!あの時のお兄ちゃん!」
千晶はその娘に見覚えがあった。ちょうど一年ぐらい前、自分にフラワーナイト・リリィとして戦う理由をくれた女の子……ユイであった。
――――――――――――――――――――――――――
ちょっとした再開をした千晶達はそのまま家に通され、居間のテーブルの前に座っていた。
「すいません。お母さん、今お仕事の電話をしてて手が離せないんです。もうすぐで終わると思うので、ちょっと待ってて下さい」
そう言ってユイは二人にお茶を出すと、そそくさと奥に引っ込んでしまった。
残された二人はお茶に口をつけつつ、初江が来るのを待つ。
「…………ねぇ千晶。あの娘って、前話してた魔物に襲われそうになったていう女の子?」
「あぁ。俺もまさかここがユイちゃんとチヒロくんの家だとは思わなかったよ」
(そしてあの人がユイちゃんの母親……どうりで見たことあるはずだ)
――千晶がフラワーナイト・リリィに初めて変身したのが約一年前。当初、千晶はリリィとして戦う事に否定的だった。
そんな時、千晶はある女の子に出会う。当時小学生になったばかりのユイと言う女の子である。
詳しくはこの話を参照――間章 戦う理由――
優里香の言葉に千晶は一人感嘆に耽る。しかし、ふと千晶はある可能性を考えるのだった。
「なぁ白石。俺、今日怒られる為に呼ばれたのかもしれない」
「……?どう言う事?」
千晶の突然の言葉に優里香は頭に疑問符を浮かべる。
「あの時、俺はあの人に助けを頼んで、魔物を倒して直ぐにその場を離れたんだ。あの人からすれば無責任な行動をした奴だと思っていて、今日その事について色々言うために呼び出したんだと思う」
「まさか……そんな事」
「お待たせして申し訳ございません」
優里香が千晶の言葉を否定しようとすると、奥の部屋が開き、そこから初江が姿を現す。
そして、二人に謝罪しながらテーブルの対面に座る。
「すいません。折角来て頂いたのにお待たせしてしまって……」
「いえ、とんでもないです。お仕事の電話だって聞いていたので」
初江の言葉に千晶に変わり、優里香が答える。
すると、初江は居住まいを正して二人を見つめる。
「それで、今日お呼びしたのは……」
そしてゆっくりと口を開き、千晶をじっと見つめて話し始める。
「あの時はすいませんでした!」「あの時、娘を助けて頂きありがとうございます」
「「えっ!?」」
千晶の謝罪と初江の感謝の言葉が同時になり、二人とも同じようなリアクションをするのだった。
「…………成る程、そう言う事でしたか」
千晶の話を聞いた初江は一人納得する。そして、その隣では優里香がそれ見た事かと言わんばかりの顔をして千晶を見つめていた。
「それにしても、よく彼がその時の男の子だって分かりましたね。一応、私は彼から話は聞いていたのですが顔を見ていたのはそんなに長くないって聞いていたので」
すると、優里香が感心したように頷く。すると、初江は少し寂しいそうな顔をする。
「仕事柄、人の顔を覚えるのは得意なんです。………夫を早くに亡くして、子供達の為に必死になっていたので」
そう言って初江は今しがた出て来た部屋を見つめる。そこには、まだ若そうな男性の写真が飾られていた。
「すいません。変な事聞いて……」
「……あの!本当にあの時はすいませんでした!俺も色々と混乱していて、あまりあの姿を他の人に見られる訳にはいかないと思ったんです」
そう言って千晶は、その場で土下座をする。
「えっと、頭を上げて下さい。確かにあの時、私は貴方の事をよく思っていませんでした。娘が化け物に襲われそうになった時に見知らぬ男の子が娘を守るって言っていて、警察を連れて戻ってみれば娘の傍に見知らぬ女の子がいて、貴方の姿が何処にもなかったんですから」
「…………………………ッ!」
初江の言葉に千晶は思わず身構える。
しかし、そんな千晶に初江は優しく笑いかける。
「でも、あの時はそうだったと言う話で、今はもう怒っていません」
そう言う初江の顔は、自身の言葉を裏付けるように穏やかだった。
「どうしてですが?」
そんな初江の態度に思わず千晶は聞き返してしまう。
そんな千晶達に、初江は少し長い話になると断るを入れる。
二人は無言で頷くと、初江は一呼吸入れてから話し始める。
「先も言いましたが、私は夫を早くに亡くして、子供二人を食べさせる為に必死で働いていました。あの日も急に仕事の電話が入ったので、娘に公園で遊んでいるように言っておきました。その後は天風君も知っての通りです」
「「…………………………」」
「その後、私は娘を問い詰めました。化け物はどうなったのか。あの人は誰なのかと………娘は、化け物はあのお姉ちゃんがやっつけてくれた。でも、お姉ちゃんの事は知らないって答えたんです」
(そっか………ユイちゃんは俺との約束を守って俺の事を秘密にしてくれてたんだな)
千晶が心の中で一人感心する間にも、初江の話は続いていく。
「その時、私は娘が可笑しくなったと思いました。テレビやアニメの世界じゃあるまいし、化け物が現れてそれと戦う正義の味方なんている訳ない。私はそう言って娘を叱りつけました。けど、娘はそんな事ないって頑なに言い続けました」
「………でも、貴女も化け物を見たんですよね。なのにどうして?」
ふと優里香疑問に思った事を口にする。
「当時、私は今以上に仕事と育児に追われていて、そのせいで変なものでも見たんだと思いました。そして私の至らなさが娘に変な事を言わせているんだと思ったんです」
「そんな事!」
「………けど、今は違うんですよね」
初江の言葉を否定しようとする千晶の言葉を優里香か遮る。そして、優里香の言葉に初江はゆっくりと頷く。
「その後、仕事で知り合った人達の中に娘と同じように化け物と戦う女の子を見たって言う人達がいたんです。最初は数人程度でしたが徐々に増えていって………その時になって初めて、私は娘が言っていた事が本当の事だと気付いたんです」
そう言って初江は一息いれると目の前の飲み物に口をつける。
「それから私は娘に謝りました。そして、その人に娘を助けてもらった事に対して感謝をしていない事に気付いたんです」
「…………………………」
「出来れば会ってちゃんとお礼が言いたい。私はそんな事を考えながら毎日を過ごしていました。そんな時でした、目の前で女の子が男の子に変わった瞬間を目撃したのは」
その言葉に千晶は黙ってしまう。
「…………チヒロくんは、どうしてフラワーナイト・リリィの事を?」
「……多分娘が教えたんだと思います。チヒロはお姉ちゃん子で、ていうのも私が仕事で余り構ってあげられなくて、チヒロの面倒は殆どユイがみていました」
(成る程。ユイちゃんのしっかりした印象はそのためか)
初江の言葉に千晶は一人、心の中で納得する。
「あの後チヒロに話を聞いた所、天風君と話している途中でフラワーナイト・リリィが現れたと聞きました。チヒロはリリィに会えて勇気をもらったと喜んでいました」
「そうですか……」
千晶の呟きを優里香は嬉しそうに見つめる。
すると、初江は少し後ろに下がると両手を床につける。
「改めて、ユイとチヒロを…………私の子供達を助けて頂き、ありがとうございます。これからも、私達家族は影ながら貴方を応援しています」
そう言って初江は頭を下げるのだった。




